発明家達の夢のあと
Chapter 2 : 世界最小ピストル, コリブリ
身を守る為にピストルを携帯すると仮定しよう。それを隠し持つのであるならば、問題となるのはその重さと大きさである。頻繁に使用するなら、ある程度は我慢出来るだろう。しかし、警察官でさえピストルを使用する事態に遭遇する事は極めて稀である。まして民間人がセルフ・ディフェンスの目的でピストルを携帯するのであれば、それを使うことになる可能性は更に少ない。もちろん、使うときは緊急事態であり、そんな目に遭わないに越したことはない。
20世紀初頭のヨーロッパでは小型のピストルが、ものすごく売れていた。ブラゥニングM1906 “Vest Pocket”と呼ばれる25ACPのセミ・オートマチック・ピストルは1905年から5年間だけで10万挺以上が製造されたのである。1908年には同型のモデルがコルトからも発売された。そして、このヴェスト(別の言葉でいえば、チョッキだ)のポケット(Vest Pocket)にも入る小型ピストルは、多数のコピー品が作られ、それらもまた数多く売れた。
単なるコピーではないオリジナルモデルも多い。カール・ワルサーがワルサー・モデル1ピストルを開発したのも、ブラゥニングの成功を見てのことであったし、マゥザーもVest Pocketピストルを製造している。当時のヨーロッパには、今では素性のわからないようなメーカーの小型ピストルが、大量に存在していた。それだけ需要があったということだ。
ブラゥニングM1906ピストルは、全長115mm、重量358gであった。ピストルとしては極めて小さく軽い。しかし、これとてヴェストのポケットに常時入れて持ち歩くのは、ちょっと負担だったかもしれない。いくら仕立ての良いスーツでも型崩れしてしまいそうだ。そこでもっと小さいものを作ろうと考えた人がいても不思議ではない。
しかし25ACP(6.35mm)を使うのであれば、M1906より大幅に小さくすることは困難だ。もっと小さな口径の装弾でないといけない。
1913年、オーストリアのFranz Pfannlは、大胆にも口径2.7mmのセミ・オートマチック・ピストルを作った。それがこのコリブリ(Kolibri)だ。コリブリとは蜂鳥という意味を持つ。

写真にある1マルク・コイン(もはや過去のコインとなってしまった)と比べてみれば、その小ささが想像出来るであろう。1マルク・コインは日本の100円硬貨と概ね同じ大きさだ。
コリブリの重量は71g、現在の携帯電話と概ね同じである。さすがにこのサイズと重量なら,携帯することも,さほど負担にはならないだろう。写真に写っているのは,専用のコインパース(小銭入れ)型ホルスターである。これはいわゆるガマグチ型だが,おしゃれな三角形のものもある。
このホルスターでは、いざというときに素早く取り出せるかどうか疑問だが,取り出しても操作性はあまり良くない。スライドを引くセレーションの部分は小さく,指先でつまんで引く感じだ。
もっと問題なのは,その使用弾だ。2.7mmという口径は,数値でいえば22口径の半分程度になる。しかし,その容積の小ささはそれでは表現出来ない。身近なもので表そうとすると,ちょうど米粒(炊いていない状態)がそれに近い。金属製の米粒を飛ばして,どれほどの効果があるだろうか?
弾頭重量3グレイン(grain)(*1) , 銃口初速(M.V.)650〜700fps., 銃口エネルギー(M.E) 2.8〜3.25ft.lbs.だ。 ブラゥニングM1906ピストル用に開発され,ヴェストポケットピストルの標準口径となった.25ACPと比較してみよう。25ACPは弾頭重量50grain, 銃口初速800fps., 銃口エネルギー73ft.lbs.前後である。これが対人用として最低限のパワーといわれている。2.7mm Kolibriは弾速はともかく,弾頭重量とエネルギーがあまりにも小さい。これではネズミを倒すのがやっとではないだろうか。
この2.7mm Kolibriは,量産されたセンターファイア・カートリッジの最小のものと認定されている。素性がよく判らないのだが,わずかに大きい3mm Kolibriというのも存在する。
Franz Pfannlはその後、口径4.25mmのErikaというやはり非常に小型のセミ・オートマチック・ピストルを作っている。
こちらは弾頭重量12〜15gr.でMV.800fps, M.E. 17-21.3ft.lbsとなり、コリブリと比較すればかなりパワフルになった。しかし依然として実用性は疑わしい。この4.25mmは、1920年にドイツでLiliput(リリプット)ピストルに採用されている。このアモはその結果、4.25mm Liliputとして知られるようになった。
これらの超小型ピストルは20世紀初期に作られたものの,操作性,実用性が伴わず,やがて消えていった。既存の銃器を,同じデザインのままスケールダウンさせたミニチュアガンは,現在でもヨーロッパで製作されている。
それらの中には発射機能を有するものもあるが,それらは趣味の模型であって,実用性は求められてはいない。コリブリも,もしかしたら遊び心で作られたピストルだったかもしれない。しかし, Franz Pfannlはその後,エリカを作ったことを見ると、実用性も追求していたと思われる。
*1:1grain =0.0648g 従って 2.7mmKolibriの弾頭重量は0.19gとなる。大きさは米粒ではあるが,米の重量は0.01〜0.02g程度だ。
Copyright 2002 by Satoshi Maoka, Masami Tokoi
Apr.7, 2002
Top
The Vain Illusions of Inventors Top
|