発明家達の夢のあと
Chapter 4 : ジャイロジェット・ピストルとロケット・ピストル Gyrojet Pistol & Rocket Pistols
by Satoshi Maoka photo: 床井雅美
銃は、薬莢内部の発射薬が燃焼することによって生じた圧力で、飛翔体(projectile:俗にいう弾丸)を前方に飛ばす道具だ。弾丸は通常、銃身を抜けた直後、最大の速度を得る。その後は空気抵抗と引力により速度を落とし、弧を描く弾道を示しながら、やがて落下する。
では、ロケット弾であればどうなるか?内部に推進薬を詰めたロケット弾であれば、銃口から飛び出した後、さらに加速し、その射程を伸ばすことが出来るだろう。
ロケットは11世紀に中国で誕生したとされる場合があるが、これはどうやら概念があっただけで、実際に完成品が存在したわけではないようだ。
1379年、イタリアでロケッタRocchettoという武器が使用された。また中国でも、同時期、飛槍が存在した。またの名前を棒火矢という。これは現在のロケット花火に近いものだ。
棒の先端にロケット部があり、棒を竹筒に入れて相手の方向に向ける。ロケット部の底に点火すると、火を噴きながら棒もろとも相手の方向に飛んでいく。
15世紀の英仏戦争でも、同様のロケットが兵器として使用されている。もっともこれらは、十分な威力があるわけではなく、敵側に火を送り込んで驚かせる程度のものだった。
そんな昔から存在したロケットだが、それを銃弾として使用した場合の利点と欠点を考えてみよう。
利点は、すでに述べたように射程距離の拡大である。少なくとも理論上は、飛翔中も加速を続けることで、射程は伸びる可能性がある。
そして発射音は通常の銃弾よりかなり小さく出来る。もちろん無音ではないが、爆発音とも言うべき銃弾の発射音は、高速燃焼音に変わる。
欠点は1発の単価が上昇することだ。単純な構造の通常銃弾とくらべて、どうしても複雑な構造となるロケット弾は、間違いなく高価となる。

S&Wの提出したロケット・ボール・パテント図
銃弾をロケット化させた例は意外と古い。1848年、ジェニングス・ライフル(Jennings's Rifle)にウォルター・ハント(Walter Hunt)が開発したホロー・カートリッジ型の弾丸が使用された。弾丸の内部がくり貫かれ、そこに燃焼薬が入っている。
有名なボルカニック連発銃(Volcanic Repeater)にはロケット・ボール(Rocket Ball)という弾薬が使用された。これはホーレス・スミス(Horace Smith)が1853年開発し、1955年にパテントを申請している。ウォルター・ハントのものに極めて近い。ホーレス・スミスは言うまでもなくスミス&ウェッソン(Smith & Wesson)のホーレス・スミスだ。1854年にはヒックス(H.C.Hicks)がこれを使ったレバー・アクション・ピストルを完成させた。またロケット・ボールの改良もしている。
ローリング・A・ホワイトがリムファイア式金属薬莢装弾のパテントを取得したのは1855年だ。これ以前に、弾丸の内部に大きな穴を開けて、そこに推進薬を入れて飛ばすというアイデアがあったわけだ。これは厳密にはロケットではない。しかし、薬莢を使用せず、推進薬が弾丸内部にあり、そこで燃焼させるという意味ではロケットに通じるものがある。

Volcanic Repeater ボルカニック・ピストル
このボルカニック・レピーターはベンジャミン・テイラー・ヘンリー(Benjamin Tyler Henry)らによって改良が加えられ、ボルカニック・アームズ・カンパニー (Volcanic Arms Company)が設立された。ボルカニック・レピーターはやがてヘンリーライフルに発展する。シャツ屋であったオリバー・ウィンチェスター(Oliver F. Winchester)はボルカニック・アームズ・カンパニーの株式を取得、1866年、社名もウィンチェスター連発銃製造会社(Winchester Repeating Arms Company)とした。すなわち、ボルカニック・レピーターに改良を加えたものがウィンチェスターのレバー・アクション・ライフルなのだ。レバー・アクションという連発システムは発展していったが、ロケット・ボールは消えてしまった。ヘンリーライフルが開発された時には既に金属薬莢に切り替わっている。
ロケット研究が本格的に始まったのは20世紀になってからだ。ジュール・ベルヌの小説も影響し、宇宙空間への移動手段としてロケットが研究された。そのパイオニアといえる存在がドイツ人ヘルマン・オーベルト(Hermann Oberth)だ。1921年に“惑星空間用ロケット(The Rocket into Interplanetary Space)”という博士論文を書いている。
また第一次大戦後のベルサイユ条約により、この時期のドイツは大口径砲の数に大幅な制限が加えられていた為、この条約に抵触しないロケット兵器の開発が推進されるようになった。それがドルンベルガー、フォン・ブラウンらの開発したV1(Fi-103), V2(A2), ワッサーファル(Wasserfall)だ。
同時期、ナチス・ドイツはロケット・ピストルの開発も進めていた。その目的は射撃音を減少させることにあった。
サイレンサー・ピストルは既に多数使用されていた。ゲシュタポ(ゲハイム・シュターツ・ポィッツアイ)とそのコレボレーターが暗殺を含む特殊作戦に用いたのだ。数多く使われたのは、併合したチェコスロヴァキア製Vz27サイレンサーピストルだ。その後、ルガーP08, 及びP38ピストルにもサイレンサーは付けられた。
しかし、効果的な減音をするには、銃弾は音速以下にしないといけない。音速を超えれば、火薬の爆発音以外にも衝撃波が起こり、音速の壁を破る音は決して小さくない。
ドイツはサイレンサー専用のサブソニック弾、ナパトローネ・ヘェア・ピストーレンを使用した。これはケース部分が緑色に塗られ、正規弾と容易に区別がつく。しかし、サブソニックとしたことで、必然的にパワーを落とさざるを得ない。それにサイレンサー自体は大きくかさばる。
この問題を解決する意味でナチスドイツはロケット・ピストルの開発を進める。制式ピストル P-38や主力SMG MP40にそのまま使用出来るように9mm口径のロケット弾を目指した。
作られたロケット弾薬は、内部に推進薬が詰められ、底部中央にプライマーが装着されている。そしてプライマーを囲むように6個のガス噴出口が開いている。
戦争に敗れたドイツは、その兵器開発状況を連合国に分析された。また開発者達の尋問も行われ、それらは詳細なレポートとして記録された。
同時期、アメリカのOSSもロケット・ピストルに近いものの開発を行った。
約6インチほどの長さのフレシェットを45口径ピストルの銃口から差込んで、その状態から発射する。
ピストルのファイアリング・ピンがフレシェットの底部を叩くと、フレシェット内部にあるファイアリング・ピンがその衝撃を伝播させ、先端近くにセットされた25口径の空包のプライマーを叩く。この空包の発火による圧力がフレシェット本体を飛ばすのだ。継続的な噴射ではないため、飛距離の増大は見込めない。したがって、これはロケットとは違う。開発の目的は、発射音を低くおさえることにあった。フレシェット内部での25口径空包の撃発音は非常に低い。
これはOSS BIGOT(開発コード:SAC-13B)という。45口径のピストルであれば、M1911A1だけでなく、他でも使用出来る。当時、OSSがドイツや日本の占領地域にいるレジスタンスに大量に配った簡易ピストル、リバレーター(FP-45)でも発射可能だ。
フレシェットには、安定尾翼が付いているが、これは銃にセットする際には、前方に移動している。発射され、銃身から飛び出したときに後方に移動し、フレシェットの飛行中の安定を維持する。しかし結局、これは実戦投入される前に戦争は終結した。
1960年、カリフォルニアにMBアソシエーツ(MB Associates)がRobert Maynard(Mainhardt) とArt Biehlにより設立された。社名は二人のラストネームを組み合わせたものだ。MBアソシエーツは画期的なロケットピストル、“ジャイロジェット・ピストル(Gyrojet Pistol)”を発売し、注目を集めた。おそらくナチスドイツの9mmロケットの研究結果を参考にしたのだろう。製品化されたロケット弾は非常によく似ている。
銃本体には12mmと口径表示がなされている。しかし実際に飛ばすロケット弾は口径13mmだ。
これは、果たしてピストルなのだろうか。従来のピストルに近い形体ではあるが、実際のところはロケットを飛ばすためのランチャーでしかない。本体はプレス成型で作られたいわゆるモナカ構造で、左右からネジで固定する。そのネジは驚いたことにタッピングネジだ。
チャンバーという概念はない。本体に固定されたマガジンの最上部から直接発射される。マガジンはグリップ内固定式6発だ。スライドを引いて上から6発を装填する。その際、グリップ左側のマガジンフォロアーを押し下げながら行う。装填が終わったらスライドを手動閉鎖する。スプリングの力で閉鎖するわけではない。そして右側面後方のレバーを上げて、スライドをロックする。
ハンマー方式だが、そのハンマーの動作方向がまた変わっている。トリガーの上の部分にハンマーがあり、普通のピストルとはちょうど逆向きだ。ハンマーはロケット弾の先端を叩く。ハンマーで叩かれたロケット弾は後に押し付けられ、そこで推進薬が発火する。ハンマーを前に置いたのは、そのままロケット弾が飛び出さないようにするためだ。
発火したと同時にロケットが飛び出してしまえば、まだ十分な推力が得られず、飛び出したロケットの飛ぶ方向が定まらないことになる。推進薬に火がついても、一瞬の間、ロケットを飛ばさないで押さえておくことがこのハンマーのもうひとつの役目だ。
ある程度燃焼が進み、十分な推力が得られると、ロケットは押さえていたハンマーを押しのけ、ハンマーを起こしながら前進し、およそ760fpsで銃身から飛び出すのだ。
本体のスライド部側面にある穴は、推進薬の燃焼時に、そこから炎を左右に逃がす役目がある。こうしてハンマーを押しのけてロケットが飛び出せば、その下にあった次のロケットがせり上がってくる。ハンマーは既にロケット弾で起こされているので、あとは引き金を引くだけで連射が出来る。
発射時の音は静かだ。シュッっという燃焼音でロケットは飛んでいく。かつてナチスドイツが求めた静かなピストルがここに実現した。
市販が始まる前にまずアメリカ軍に試験納入され、テストを受けた。これが試作品(Mark O)だ。全体がオリーヴ・ドラブでスライド方式ではない。装填は側面のローディング・ポートから行う。
MBアソシエーツとしては軍に採用されることをもくろんでいたが、結果はNGだった。近距離からM2ヘルメットを撃ち抜けなかったのだ。

MBA Gyrojet Mark-0 (zero)
軍用とするには威力が低すぎる。おまけに銃口を飛び出したロケットは、14mほど飛んだところで推進薬が燃焼しきってしまう。13mmという口径ではこれが限界だった。射程が伸びるどころか300mも飛べば、ロケットは落下してしまった。開発段階では15mmや18mm口径の弾が試作されていたのはより射程を伸ばすためであろう。
そしてなにより精度が悪かった。ロケット弾の噴射口の角度を工夫し、ロケットが回転しながら飛ぶようにして精度を高めるようにしたが、残念ながらあまり効果はなかった。改良型はバレル内部にもライフリングをつけて、回転しながら飛ぶようにしたものの、これでも十分ではなかった。
発射音は小さいものの、精度が悪く思ったところに飛ばない。威力はないし、300mで落下する。
それでもせっかく作ったのだ。商品として民間市場に投入された。最初の市販モデルMark Iは約1000挺が販売された。その後、改良型Mark IIが登場。Model A、Model Bと小改良が加えられ写真のものは改良型のModel Cだ。トータルで約3,000挺が市販されたところで製造は中止となった。
銃の価格はコルト・ガバメントと同程度の100ドル強だった。しかしブリキ細工のオモチャ並の銃で、表面は吹付塗装、とても100ドルの銃ではない。おまけに1968年当時、ロケット弾は1発15ドルもした。売れないのも当然だ。
このジャイロジェット・ピストルにバレルを延長し、ストックを付けたカービン仕様がある。精度の悪さを補う意味でロング・バレルとストックをつけたつもりかもしれないが、問題の本質は飛ぶロケットのほうにあるので、この改良はほとんど効果はなかった。したがってジャイロジェット・カービンの生産数は非常に少ない。
ジャイロジェットは1967年製作の映画“You only live twice (007は2度死ぬ)”に登場した。日本の諜報組織の秘密兵器としてだ。丹波哲郎氏演じるタイガー田中が“ロケットガン”といってジェームズ・ボンドにその武器を披露している。ロケット弾はノズルが4つのタイプで、銃自体はブラック、クローム、ゴールドの各タイプが映る。タイガー田中はそれをワラ人形に向けて試射し、ワラ人形は燃え上がった。推進薬がまだ燃焼しているときであれば、ワラ人形が燃えても不思議はない。
この時、あたかもグリップボトムから装填したような仕草だったが、実際は前述の通り、スライドを引いて上から装填する。
映画には2種類のジャイロジェット・カービンも登場する。キャリングハンドルがあり、AR-15に似たものと、フルカバースタイルの木製ストック仕様だ。クライマックスのシーンでも日本の忍者部隊の一部は、このジャイロジェット・カービンを装備していた。
同時期、TVでは“The Man from UNCLE(0011ナポレオン・ソロ)”が放送されていた。そのナポレオン・ソロは小説版も作られ、その中でジャイロ・ジェットが登場した。水の中で撃てるということで、その用途に使われている。こちらも秘密兵器だ。
ロケット弾は努力すれば今でも当時のものを入手することが可能らしい。1発$20から$25。20%ぐらいは発火する可能性はあるようだが、もはや撃ってみようとする人はいないだろう。コレクターズ・アイテムだが1960年代からほとんど価格は変わっていない。
ロケット・ピストルの開発はジャイロジェット・ピストルで終わってしまったのだろうか。もちろんそんなことはない。
同じ1960年代、口径12mmのロケット・ピストルがアメリカで開発されていた。Flying Dragon (開発コード:SAC46)と呼ばれた特殊兵器で、ロケットが4本上下2列で束になってセットされていた。ようするに4連装のロケットランチャーだ。弾頭部には炸薬が仕込まれ、対象物にあたると爆発する。また水中からの発射も出来る。初速は70m/secと非常に遅い。しかしジャイロ・ジェット・ピストルがピストルの概念から抜けていなかったことに比べて、ロケット・ピストルとしての現実的な姿に近くなっている。これが発展して、水中発射の部分に特化させたものがヘッケラー&コッホのP11水中ピストルだ。
そして、もうひとつ、ロケットピストルの完成形が研究されている。
 
2025年を目指して研究が進められているのがフューチャー・ウォリアーだ。
コンピューター内臓のヘルメットで、ターゲットをロック・オンする。すると腕に巻いたウルトラ・ライトウェィト・デュアル・ムニッションズ・ポッド・ウェポン(Ultra Lightweight dual munitions pod weapon)から15mmロケット弾がターゲットに向けて発射される。ランチャーは4連装で射程距離は1000m、ヒート・シーカー機能を搭載し、ロックオンした敵に正確に飛ぶロケットは確実に敵を粉砕するのだ。さらに4.6mm口径の通常弾もフルオートマチックで発射出来る。この有効射程は300mだ。この武器は、アサルト・ライフルに換わる兵士の基本武装だ。
これは腕巻き型のほかに手持ち型も存在する。もはやストックなどはなく、大型ピストルのようにホルスターに入れて腰に吊って携帯する。重量は5ポンド(2.27kg)ほどあり、けっして軽くはないが、小型で戦闘能力は高い。
この武器はそのままの形で実用化することはないだろうが、それに近い形でいずれ登場する可能性はある。
Jan.9, 2003
Satoshi Maoka
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