Triple Trap by Yuji Takase
1921年
明治34(1901)年4月29日、大正天皇と貞明皇后の第一皇子として、裕仁(ひろひと)親王(幼名:迪宮)が誕生した。いうまでもなく、後の天皇陛下(昭和天皇)だ。それから11年後の明治45(1912)年7月30日、明治天皇崩御に伴い、裕仁親王は11歳の若さで皇太子となる。その上、天皇(大正天皇)は病弱であったため、裕仁皇太子がしばしば天皇の名代として公務を代行するようになった。
大正10(1921)年11月25日、20歳の皇太子は正式に摂政の地位に就いたが、それに先立って、3月3日から9月3日まで半年間、ヨーロッパを訪問した。海外に出て見聞を広めることが目的だ。
5月9日、英国に到着した皇太子一行は、当時の英国国王ジョージ5世によって最大限の歓迎を受けた。第一次大戦が終わって3年、日英同盟のもと、英国と共に戦った日本の若き皇太子の訪問を歓迎しないはずがない。
当時、英国では貴族間の社交として、料地(王族の御料地)での狩猟の招待は最高のもてなしだった。この慣習に従い、若き皇太子殿下もこの時、カモ猟に招かれた。
銃猟に招かれた場合、招待客は服装だけを整えていけば、猟具はすべてホスト側が整える習慣になっている。
英国王室専用のカモ猟場で、ジョージ5世の儀典係が皇太子殿下のために用意した銃はGreener(グリーナー)のペアガンであった。
ペアガンである理由は、貴族の狩猟のやり方から来ている。弾の装填はすべて従者がおこない、貴族は従者の差し出す銃を受け取って撃つ。撃っている間に従者はもう1挺の銃の排莢、装填をおこなうのだ。
しかし裕仁皇太子は、英国訪問に先立ってベルギーを訪問し、ベルギー王室から当時最新鋭であったブラゥニング・セミオートマチックショットガンを送られていた。ジョン・M・ブラゥニングが開発したロングリコイル・アクションの5連発銃である。
同行した裕仁皇太子の側近が、カモ猟にこのブラゥニングを使うつもりで持ってきたのだ。ブラゥニングを手にした若き皇太子に対し、国王ジョージ5世は、温かみを込めて静かに語った。
「殿下のご用意されたブラゥニングは見事な銃です。しかし我が国の銃猟には5連発の自動銃は使いません。すべての銃猟は二連銃を使用します。飛び立つ鳥に向けて撃つのは2発までです。2発撃っても落とせなければ、それは鳥の勝ちで、こちらはその鳥を祝福してやります。猟はあくまでもスポーツです。5発撃てば落とせるかもしれませんが、それはスポーツではありません。」
これはフェアプレーを重んずる英国貴族、その頂点に立つ英国国王の含蓄のある言葉として受け止めるべきだろう。しかし、外国製の優れた新式銃へのちょっとした妬みも、わずかに含まれていたのかもしれない。
Triple Play
トラップ射撃は1枚のクレーに2発撃つ。2発撃っても撃破されることなく、クレーが飛び続け ればそれは失中だ。たとえ、3発目を撃てる銃を持っていても、3発目を撃つことは認められていない。
クレー射撃は鳥撃ちの練習として始まった。2発撃っても無事に逃げ切ることができた鳥は、祝福してあげる、この感覚があったからこそ、トラップ射撃は二連銃を使うスポーツとして定着した。
むやみやたらに弾を撃ちまくり、弾幕をはって鳥の逃走のチャンスを奪うことは、フェアプレーの精神にもとる。もちろん鳥にしてみれば、一方的に撃たれるわけだからフェアプレーも何も無いが、狩猟民族としては、そして特に貴族にとっては、無闇な殺生ではないということに重要な意味を持っていたのだろう。
一方、自動銃を作り出した設計者とて殺生の道具を作り出そうとしたわけではない。
実猟の場に立てば、獲物の鳥は1羽だけ単独で現れるわけではないことは明らかだ。複数の鳥が飛び立てば、そのいずれをも撃ち取りたいという気持ちが働くはずだ。
飛び立つ方向は必ずしも一緒ではない。2羽が2手に分かれて飛ぶこともあるだろう。あるいは3羽が3つの方向に飛んで逃げるかもしれない。
こんなとき、慌てることなく落ち着いて撃ち獲れる技術を持ちたいと、ハンターなら誰でも思う。また実猟をしないクレーシューターでも、3つのクレーを連続して撃破することに魅力を感じないはずはない。クレー射撃は、動体視力と反射神経、そして集中力を使うスポーツだ。3標的3連射は明らかに難易度が高まる。難しさはスポーツマンの闘志を掻き立てるものだ。
しかし3枚のクレーを連続して放出する競技は無かった。3枚のクレーに二連銃では対処できない。既存の競技はニ連銃を前提にルールが設定されている。
実猟の世界では3発連射はありうることであり、それが射撃場で全く練習できないことは危険防止の観点からみておかしいということもできる。
この状況を打破する為の活動が社団法人全日本指定射撃場協会から起こった。3連射競技の設定だ。
これを実現させる法的根拠は銃刀法に中にある。
第10条の2(射撃技能の維持向上)
第四条第一項第一号の規定による猟銃の所持の許可を受けた者は、猟銃による危害の発生を予防するため、猟銃の操作及び射撃に関する技能を維持向上させるよう努めなければならない。
第10条の3(銃砲の構造及び機能の維持)
第四条の規定による許可を受けた者は、許可に係る銃砲を当該銃砲に係る第五条第二項の政令で定める基準に適合するように維持しなければならない。ただし、第四条第一項第三号の規定による許可を受けた者が許可に係る銃砲を許可に係る用途に供する場合は、この限りでない。
第4条とは許可についての事だ。また第5条第2項とは、猟銃及び空気銃の許可の基準の特例についての項目だ。銃の所持許可を得たものは、銃を的確に操作できるようにしなければならないし、射撃技能を向上させないといけない。
銃を的確に操作できるようにすると共に、射撃技能を向上させるには、射撃場での練習が必要だ。実猟で使うと非常に効果的な自動銃やスライドアクションレピーターは3連射が可能だ。3連射の技術を維持向上させる練習が射撃場でもできることが望ましい。
この事からトリプルトラップ競技が警察庁により認められた。そして2004年9月1日、全国の警察にこの競技を認める事についての通達が出された。

Beretta M1201FP
競技進行
競技の名称はトリプル・トラップだ。既に2つの標的を連続して撃つダブル・トラップがある。これはオリンピック種目にもなっている。標的が3枚だからトリプル。実に単純で判りやすい名称だ。
競技の目的は、3発射撃技術向上のための練習だ。これにより安全な銃の取り扱い方法を身につける。
この競技に使用する銃はセミオート、またはスライドアクションレピーター、レバーアクション、ボルトアクションなど3発装填可能な散弾銃だ。いずれもトラップの世界では、あまり使用されないことが多い単身銃だ。
使用する装弾は7.5号以下のものとなっている。このあたりは一般的なトラップ射撃と同じだ。装弾は原則として32gを上限としている。しかし射撃場および主催者の許可があれば,32gを超える装弾でも射撃は可能だ。
この競技はスポーティング(フィールド)射撃用の射撃場でおこなわれる。射撃距離(射台から放出機までの距離)は通常の15 mに加えて10m, 5mとすることが出来る。もちろんその中間の距離でおこなう事も可能だ。これはその試合の主催者が決めれば良い。公式競技ではないのだ。友人知人同士のゴルフコンペと同じレベルと考えればよい。本来、一般市民にとってのスポーツはレクリエーションが主体になるものであり、国際競技と同じレベルの公式競技ルールに縛られる必要はない。もちろん、射撃の場合は、安全のルール厳守は絶対条件だ。
同時にplayするのは6名まで。上の写真は8名写っているが、1名はレフリー、1名は見学者だ。
競技の進行はスキート射撃に近い。同時にプレーする射手はmax.6名までで、まず1番射台の後ろに6名が並んで立つ。そして一人づつ順番に射台に立ち、射撃をおこなう。
シューターが射台に立って3発の装弾をロードし、銃を構えてコールすると1枚目のクレーが放出される。2枚目、3枚目のクレーは自動的に放出されるのではなく、プーラーによる手動放出だ。プーラーはシューターが射撃体勢を整えたことを確認してから2枚目、3枚目を放出すると競技規則には謳われている。しかし何をもって、“シューターが射撃体勢を整えた”と判断するかは曖昧だ。
おそらく1枚目のクレーを射撃したら、その瞬間に“シューターが射撃体勢を整えた”と判断することになるだろう。セミオートなら確かにそれでOKだが、スライドアクションやレバーアクションの場合、排莢装填の操作を終えないと、正確には射撃体勢を整えたことにはならない。しかしそれを待っていたら、3発射撃するテンポは非常にゆっくりとしたものになってしまう。ゆっくりしたテンポで撃つならそれは普通のシングルトラップと同じだ。
また5mや10mの射撃距離とした場合、プーラーはシューターの背中しか見えず、シューターが手動で排莢、装填を終えたかが見えない。となれば、1枚目に対する発射した瞬間を持って、“シューターが射撃体勢を整えた”と判断することが妥当だろう。3枚目の放出も、2枚目に対する射撃をした瞬間にということになる。
しかし現実問題として、プーラーは一定のリズムで3枚を連続放出することになるのではないだろうか。
シューターの銃がジャムったりした場合は、発射できなかったところから再開することにすれば、競技規則にある“シューターが射撃体勢を整えたことをプーラーが確認してから放出”という一文を履行したことになるだろう。
また出割れが発生した場合は、出割れしたところから再開する。もし出割れしたクレーに向って発射してしまった場合は、その分の装弾を再装填して射撃体勢を整える。もし2枚目に出割れしたら、シューターは2枚目から再開になるので、銃を構えてコールし、2枚目、3枚目を射撃する。その場合、問題なく射撃できた1枚目のスコアはそのまま生きる。
1枚のクレーに対しては1発のみを発射する。もし1枚のクレーに2発目を発射した場合、残りのクレーに対する装弾が不足して発射できないが、その場合はそのまま失点扱いとする。あるいは、ペナルティとしてその射台での得点をゼロとするといったこともできる。これはその競技の主催者、もしくはレフリーが競技開始前に予め定めておけば良い。
クレーの放出方向順は、1ラウンド中、5射台で常に一定とすると競技規則にはある。すなわち、仮に左、正面、右の順と定めたら、全シューターに対し、5射台共、同じ放出方向放出順が守られる。
シューターは射台に立って初めて、装弾をロードする。ローディング中は銃口の向きに注意することは言うまでもない。そして3枚のクレーに対する射撃を終えたら、銃を開放状態にして射台を降りる。何らかのトラブルがあって射撃を中断して射台を降りる場合、残った装弾を排出してから射台を降りる。
一人づつ射撃を行い、その射団の全員が1つの射台で撃ち終えたら、全員揃って次の射台に移動する。このあたりもスキートの手順に近い。待機中のシューターは常に射台の後方に立ち、横に広がったり、隣の射台に立ったりしてはいけない。
また待機中に挙銃練習することは重大なマナー違反だ。これは銃口がいかなる向きであっても許されない。待機中のシューターは銃を開放状態にすると共に、銃口が他のシューターのいる方向に向かないようにすることも大切だ。たとえ装弾が装填されていないとしても、このことは確実に守らなければならない必須事項である。



Remington M870による3連射。この時は見事に3枚を撃破した。
安全確保
トリプル・トラップの認可は2004年9月1日だ。この日以降、クレー射撃場での3連射が解禁になった(トリプル・トラップ競技の場においてのみ)。もともと私は3連射に興味があった。セミオートやスライドアクションレピーターはマガジン2発、チャンバー1発の3発を装填することができる。しかし、射撃場では3発を装填することは許されなかった。もちろん3連射も認められなかった。
これは安全確保が目的だ。従来のトラップ射撃では常に2発を装填する。クレーは1枚であっても2発目を撃てる。1発目でクレーを撃破した場合、2発目は発射せず排出して隣の射台に移動する。これは通常のオペレーションであるため間違えることはない。しかし、もし仮に3発装填していたとしたら、1発目で当たった場合、あるいは2発目で当たった場合に残りの装弾を忘れずに排出するだろうか。
人間はつい、いつもと同じ慣れた動きをする。身体に染み付いた動きは無意識のうちに繰り返される。
たとえば外国製の車に乗っている人が国産車に乗ると、ワイパーとウィンカーを間違えて動かす(一部の車種は除く)。海外旅行に行き、現地で車を運転していた人も帰国後、同じミスをする。もっと大きなミスとして、うっかり右側走行をしてしまうかもしれない。
それと同じで、イレギュラーに3発装填していたら、2発撃った段階でその銃は空になっていると勘違いする可能性がある。Trapで1枚のクレーに3発撃ちこむこと事態は、それほど危険だとは思えない。しかし残弾のunload(脱包)という問題で3発装填は危険とされ禁止されていた。
スキートの場合も同様だ。スキートで2発装填する場合には確実に2枚のクレーが飛ぶ。タイミングを間違えなければ装填した弾が残ることはない。
上下ニ連、水平ニ連の場合、ブレークすれば残弾が残っていても、一応安全は確保できる。セミオートでもボルト開放で安全は確保できるが、これを忘れる可能性は常にある。
しかしトリプル・トラップの場合は、3枚のクレーが放出されて原則的に3発を発射することになる。仮に撃ちそこなって1発残ったとしても、通常のトラップとは全く違う感覚になり、通常のトラップ射撃の習慣で動くことはないはずだ。
射台を降りる前にボルト開放、残弾があればアンロードする。これを確認してから射台を降りるということは絶対に忘れてはならない。新しいトリプル・トラップとてこれは同じだ。
体験
11月の後半、認可から3ヵ月目にやっとトリプル・トラップを実際に経験した。3枚のクレーを連続して撃つ競技は経験が無いだけにワクワクする。
距離は5m、一見すると距離が短いから簡単だと思われるかもしれない。しかし、実際には距離が短い分、左右の振れが大きくなり、むしろ難しいという要素もある。
放出のタイミングは結局、プーラーの勘でインターバルを付けて連続的に放出されたように感じた。銃声に合わせて放出していたのかもしれない。感覚的には1秒強で1枚というタイミングだったと思う。
ダブル・トラップやスキートのダブルの場合、2枚が同時の放出されるので、トリガーを引くだけで連射できるセミオートのほうが、スライドアクションやレバーアクションなどの手動式レピーターより有利だ。しかし、トリプルトラップは放出タイミングに余裕があり、手動式レピーターでもあまり不利とは感じなかった。
但し、ボルトアクションとなるとどうだろうか?プーラーは、ボルトアクションを使用しているシューターを意識して、ボルト操作を終え発射体制が整うことを待つ必要がある。今回のグループにはボルトアクションを持ってきたシューターはいなかった。ボルトアクションの場合は、3連射のスピードはかなり遅くなる。競技規則ではボルトアクションも可、となっているが、実際問題としてはかなり無理があるだろう。
今回、一緒にプレイしたグループのメンバーのほとんどは狩猟の経験はない。すなわち3連射の経験もない。
従来からセミオートやスライドアクションをクレー射撃に使っていたが、マガジンにフルロードした経験もない。
そういう状態のシューターにとっては、3発を装填できるのは新鮮だ。皆、嬉々としてこの新しい競技を楽しんでいた。誰かが3枚連続でhitすると、皆、「おぉぉ!」と感歎の声をあげた。
もちろん安全への注意は怠っていない。射座の後ろに並んで待機中でも皆、銃口の向きに気を使って銃を保持していた。弾が入っていなくても、銃は常にロードされていると想定して扱う必要がある。セミオートやスライドアクションレピーターなど単身銃だけの競技だから、上下二連とは異なる感覚で銃を扱うことが必要だ。
Final Notes
ダブルトラップですらやる人がいないのに,トリプルトラップなどやるはずがない。こういう意見をどこかで聞いた。
事実,ダブルトラップはあまり普及していない。公式試合をおこなっても参加者が少ないという。その原因はいろいろあるだろうが,単純な話,難しさが普及を妨げている一番の原因のように思う。
同時に2枚のクレーが飛ぶ以上,1枚だけの場合に比べればはるかに難しい。難しければよいスコアは出ない。また1ラウンドで50枚のクレーを使う為,1ラウンドの単価は多少,高くなる。装弾も確実に1ランド50発を消費する。
簡単すぎては興味がすぐ薄れてしまうが,難しすぎても興味を維持できない。これは他のスポーツなどにも共通してある問題だろう。
実際問題,猟友会主催の競技会などでは,クレーの放出タイミングを遅らせたローカルルールのダブルトラップが行われている。これなら公式ルールほど難しくはない。
これは猟友会の中ではときどき実施されているらしい。
ではトリプルトラップはどうか。3枚がほぼ同時に放出されるのではない。タイムラグがあるので,それほど慌てるまでもなく3枚を追いかけることは出来る。難易度的にも、公式のダブルトラップより馴染みやすいだろう。1ラウンドは15枚だ。使用する装弾も15発だけだ。
単純に言って非常に面白い。装弾を装填する時も,2発装填と比べて,3発目をロードすることはワクワクする。たった1発の違いだが,フルロードにするということは気分的に大きな違いがある。
出来ればより多くのシューターにトリプル・トラップを試してみてもらいたい。面白いと感じるシューターは多いはずだ。鉛問題や厳しい銃刀法、シューターの高齢化などで、とかく閉塞感のある射撃の世界で、ささやかではあっても明るい話題だと思う。せっかく新しい射撃競技ができたのだから、広く普及して欲しい。
Nov.29, 2004
Revise Dec.16,2004
Yuji Takase & ShootingTips
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