TASCO SS10×42M
                                      2005年11月5日掲載

 Tascoが製造していたMil-specスコープ“SS10×42M”は、通常のTascoの製品とは大きな違いがある。これは軍、および公的機関が使用することを前提に開発された製品だ。名称にある“SS”は、Sniper Scope、もしくはSuper Sniperの略であると言われている。
 Tascoのブランドイメージは、高級品というものではない。これはその製品展開から必然的に生まれたイメージだ。
 アメリカで市販されているTascoスコープは、ほとんどが市販価格$100以下の安価な製品だ。最高価格品はTitanシリーズで、これですら市販価格は$300以下でしかない。
 市場価格で$1,000-を越えるLeupold Mark 4やNightforceとは大きく違う。


 スコープはライフル射撃用装備の中で、非常に大事なもののひとつだ。スコープにトラブルがあれば、どんな高精度ライフルを持っていてもその性能を引き出すことはできない。そしてスコープは不具合が発生していても、そのことが判明しにくいという側面を持つ。
 スコープ内部のエレクターを支えるスプリングにトラブルがあれば、発射時の反動でレティクルがズレる可能性を秘めている。この現象は突然起こり、また唐突に正常に復帰する場合がある。とんでもないフライヤーを出した次の瞬間、正常に戻ってしまい、シューターの頭を悩ます。
 現象面では、“当たらない”ということになるわけだが、当たる当たらないは、様々な要素が絡み合っているため、スコープに原因があったとしても、それに気が付くまでの道程は遠い。
 スコープのトラブルを避ける唯一の方法は、できるだけ信頼性の高いスコープを使うということだ。信頼性の高いスコープとは、必ずしも高価なスコープという意味ではない。安くても信頼性が高いものもある。その一方で、安物はしょせん安物という場合も多い。
 スコープメーカーとしてのTascoは、そのラインナップの大半が廉価品であるという事実からブランドイメージを低い位置に固定してしまっている。
 $200以下の廉価品に高い信頼性を求めるのは所詮無理というものだ。しかしTascoは高いスペックで製品を作ろうとすれば、高品質のものを作りうるだけの実力がある。Tascoには“Tasco Custom Shop”ブランドというカタログにない製品のラインがある。いわば特注品であり、コストを気にした市販品とは明らかに違うものだ。このSS10×42Mも通常の製品とは異なる基準で作られた。
 Tascoはこの製品を50BMGライフルに搭載、実際に射撃を繰り返し、強烈なリコイルに曝した。それでもエレクターチューブは確実に保持され、狂いの無いことを確認し、自信を持ってアメリカ軍に納入した。

 全長356mm, 重量600g、倍率は10倍の固定、対物レンズ径42mm、接眼レンズ径36mm、チューブ径30mm、エレベーションとウィンデージを調整するターレットは大きく、操作性が良好だ。ターレットのカバーは無く手で容易に回せる。
 簡単にターレットが回せることを好ましくないと見る向きもある。うっかりして気付かないうちに回してしまっていれば、ポイントオブインパクトが大きくズレる。初弾ですべてが決まるような状況で使うことを考えると大きな問題だ。
 しかし距離の変化に伴う弾道補正や、風の影響などによる修正を頻繁に行うことを必要とするスコープは、ターレットを手で素早く動かせることは重要だろう。
 必要となれば、すぐにゼロ位置に戻す。そのためにはターレットの目盛りに視認性の高さも求められる。SS10×42Mはターレット基部に15MOA単位で目盛りが刻まれた水平ラインがある。1周(15MOA)以上ターレットを動かしてもゼロ位置に戻すことができるのだ。もっともターレットダイアルのカバーを廃したモデルには,この水平ラインが必ずある。
 クリック感とその音も重要だ。明確なクリック感は、スコープを覗いたまま微調整を掛ける時に、自分が何クリック動かしたのか、明確に指から感じ取るための重要な用件だ。SS10×42Mのクリック感はハッキリしていて好感が持てる。
 1クリック1/4MOA, エレベーション、ウィンデージ共に最大120MOA,これだけあればロングレンジに対応できる。
 レティクルはMil-dotだ。レンズはクリアーで、スコープとしての品質は極めて高い。


 本体左側面には3番目のターレットとしてパララックス補正ダイアルがあり、距離が変わっても調整が容易になっている。スコープの多くは対物レンズ側にパララックス補正ダイアルがあるが、それだと距離が変わった時、素早い対応ができない。手を伸ばして回転させなくてはならないからだ。しかし本体左側面にダイアルがあれば、簡単に回せる。特にバイポッドを使用している場合は、左手がフリーの状態になる。
 このダイアルには距離の値が表示されている。LeupoldのM3は単に白いドットが並んでいるだけで一見しただけでは、どの距離に対応しているのか判りにくい。この点ではTasco SSの方がすぐれている。表示は10m, 20m, 30m, 50m, 100m, 200m, 300m, 500mそして無限遠のマークが並ぶ。
 この製品は発売された当初、何の表示もない白い無地のパッケージに入っていた。街の和菓子屋でまんじゅうを買った時に入っている箱のようだ。民間市場向けのスコープは通常、こんな愛想のない箱に入れられていることはない。
 軍および公的機関向けといっても、スコープとして特殊な機能を有しているわけではない。単なる10倍固定倍率のスコープである。したがってSS10×42Mは民間市場にも販売された。民間向けはこの白い箱にマニュアルと保証書、レンズカバー、レンズクリーナーが付けられている。
 この写真のモデルは民間市場に向けて出荷したごく初期の製品だ。シリアルナンバーは0013。おそらく完全なMil-specモデルだと思われる。

 驚くべきはこの製品の市販価格だ。1980年代後期で、市場価格$400-以下だった。スペック的に近いLeupold Mk4 M1の半値以下だ。当時のTascoは、とてもLeupold並みの価格で製品を販売することはできなかったのだろう。いくらMil-specで、軍納入品と同一の製品であってもだ。
 当時、このスコープを手にしたシューターは皆、一様に驚いたに違いない。安物スコープメーカーとして認識していたTascoがMark 4 M1並の製品を作ったからだ。Tascoの実力の高さを再認識しただろう。
 アメリカでは$400-以下で販売されたSS10×42だが、同時期に日本に逆輸入されたときは10万円以上の価格が付けられていた。Mil-specのスナイパースコープという触れ込みが、そのような価格にしたのかもしれない。
 Tascoはその後、16倍固定のSS16×42, 20倍固定のSS20×42を同一ボディで生産した。

SS10-42Mを通して見た実際の画像 ボヤけて見えるのは、スコープとカメラのレンズの2つの光学系が合わさってできた画像だからだ。2つの光学系の収差が拡大されてしまっている。実際はもっとずっとクリアだ。
 Mil-dotを使って自衛隊
73式小型トラックまでの距離を測定してみよう。後部に搭載されたタイヤはリム径が18インチと思われる。そのリム径は概ね4目盛に相当するので4Milだ。とするとこの73式小型トラックまでの距離は18×25.4=457.2 これを4で割る。答えは114.3。答えは概ね114mだ。

 現在でもSS10×42Mは販売されている。国内価格は¥128,000-。ごく初期のSS10×42Mと現行の量産モデルの両方を手にとって、ターレットを回してみるとその差がはっきりと判るという。私自身で試したわけではないが、クリック感は断然初期モデルの方が上なのだと聞いた。初期のモデルと現行モデルとに差があるのかどうか、実際のところはわからない。しかし軍納入のMil Specモデルと民生用量産品に違いがあっても不思議ではない。

 TascoはさらにG Sniperという廉価品も製造している。希望小売価格\19,800-,見た感じはSS10×42Mに近い。これはエアガン用に作られた製品だ。現物を手にしたことはないが,強度やレンズの解像度、信頼性はMil SpecのSS10×42Mに遠く及ばないものだろう。実銃に載せて使用すれば、1発で壊れるかもしれない。

 Tascoは優れた製品を作る技術を持っている。それならば、その技術を最大限に発揮した製品を作って貰いたい。$1,500-ぐらいの製品がカタログに載っていて悪いはずはない。
Nightforceと勝負するような製品だって作れるはずだ。

Nov.5, 2005
Satoshi Maoka

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