SIGNUM in Wonderland "SIGNUM is inaccurate ammunition." The rumor may be true.
不思議の国のシグナム 「SIGMUMは当らない」は本当か  by Satoshi Maoka

 「SIGNUMは当たらない。」最近、複数の人からこの言葉を聞いた。
 SIGNUMとはLAPUAの射撃競技用22LR弾としてラインナップされているもののひとつだ。 LAPUAには最上級品MIDASがあり、普及品としてMASTERがある。その他にも、ScoreMax, SuperClubが輸入されている。それ以外には、Polar Biathlon, Speed Ace, Hollow Point, Subsonic HP, StandardClub等があるが、これらは日本で見掛ける事は通常ない。
 SIGNUMはMIDASとMASTERの中間に位置する製品だ。

 しかしSIGNUMは単に中級品としてだけ存在しているのではない。ブレット表面にコーティングを施し、これがバレル内部を保護し、クリーニングを容易にすると共に、バレルの寿命を延ばすという特徴を持っているとLAPUAは主張している。
 ブレット表面にコーティング…、これは何もSIGNUMに限った特徴ではない。競技用22LRはいずれも鉛弾を使用し、ブレット表面にはLubricantがコーティングされている。いまさら何を言うのだろう。
 私はSIGNUMに興味を持った。
 LAPUAから発表されている資料には、SIGNUMの素晴らしさが謳われている。
 “SIGNUMはコーティングされたセンターファイアライフル弾の特性を取り入れた最初の22口径弾である。
 ブレット表面には正確なルブリケーション・グルーブ(lubrication grooves)が切られている。
 この縦の溝によりバレル内部に均等にルブリカントを浸透させる。それは既存の鉛弾より50%増しだ。
ルブリカントはブレットとライフリングのフリクションを低減する。底部へのプレッシャーが増大すると、ブレットは変形し、鉛がライフリングに付着する。ルブリカントはブレットの回転をスムースにし、ブレット底部の変形を防ぐ効果がある。バレル寿命を延ばし、弾道性能を改善、リコイルは減少する。” 

 画期的な新製品というわけだが、何のことはない。ルブリカントをいっぱい塗っただけのようだ。コーティングされたセンターファイアというのは、いわゆる数年前に話題になったMoly-coatの事だろう。モリブデン(molybdenum)・コーティングでカパーファウリング、パウダーファウリングを減じ,精度を保つ、又は向上させるというアイデアだった。バレル・クリーニングなしで何百発も撃てしかも精度が落ちない・・・これも特徴として謳われた。
 しかしメーカーが言うほど精度面での向上が見られなかったこと、場合によってはマイナス要素もあることで、一時、普及したが現在、ベンチレスト競技で使っているシユーターは数えるほどしかいない。一方、ポジション・シユーター間では現在も結構使われている。
 精度向上ということに関しては、一番こだわりのあるベンチレスト・シューターのほとんどがMoly-coatを使用していない事、なにより開発した本人がもうMoly-coatを使っていないことで結論が出たといって良い。
 いまさら同じことをLapuaが22LRの世界で展開しようというのだろうか?
 SIGNUMが登場してから数ヶ月、「当たらない」という悪評を聞くようになった。ポジション・シューターの間では「…は当たらない」という言葉は、過去にいろいろ言われてきた。鳴り物入りで登場したFederalのGold Medalも結局、「当たらない」というレッテルが貼られた (ここで言う「当たらない」とは相対的なもので、「もっと当たる弾」が存在すれば、それ以外は全部、当たらない弾になる)。かつて“ELEYのTENEXが当たらなくなった”、という話があった。どうやらこれは現象的に事実だったらしく、世界中で少なくない数のポジション・シューター達が使用弾をELEYからLAPUAに乗り換えるという動きとなった。
 射撃競技用22LRの王者ELEYは、その後、新製品TENEX EPSを開発して巻き返しを図り、失ったシェアをある程度、回復している。

左:LAPUA MIDAS 新旧パッケージ 旧パッケージのイラストは、フランス料理のシェフではない。ギリシャ神話に登場するミダス王だ。彼は手にしたものをすべて黄金に変える力を与えられた。もっともその力を得たことをまもなく大いに後悔することになる。ちなみに「王様の耳はロバの耳」に登場する王様も、このミダス王だ。これは黄金事件の後日談として語られたものだ。
右:LAPUA SIGNUM 22LRとSiera 223Matchking 52gr.bulletの比較。同じ22口径でもこれだけ大きさが違う。

“SIGNUMが当たらない”、という話は事実なのだろうか。私なりにこのテーマを少しだけ追いかけてみようと思った。
 とはいっても私に出来る事は限られている。単純に撃って比較してみるという事は、ヘタな私がやっても意味がない。そのときの調子の良し悪しが結果に大きく影響してしまう。
 それに、そういう比較方法は客観的ではない。その弾がよい結果を出したとしても、それはその弾とその時に使用したその銃との相性が“たまたま良かった”、というだけの事でしかないかもしれない。
 多くの客観的なデータを集めなければ、偶然という要素を排除出来ない。そこで私は、22LR、“もしSIGNUMが当らないとしたら、それは何が原因か”、という形で推察をおこなってみようと思う。

 MIDASとSIGNUMは金色の文字を使い高級感に溢れている。ELEYのTENEXとMATCHは既に新型パッケージに切り換わっているが、このテストをした段階(2004年4月)ではまだ、旧パッケージしかshopに置いていなかった。LAPUAのパッケージに“For the real aficionado”とあるが、aficionadoとは愛好者を意味するスペイン語から来た言葉だ。「本格派向け」という意味にとって良いだろう。

 LAPUAの最高峰MIDAS Mと問題のSIGNUM, 普及品のMASTER M, 重量弾であるSCOREMAX, ついでにELEYの最高峰TENEXと普及品MATCH、この6種類を用意した。それぞれのロットナンバーは以下の通りだ。

SIGNUM MASTER M SCORE MAX MIDAS M TENEX EPS MATCH EPS
Lot number 4888E 5675G 4507G 8167S UGU3069 MH2423

 まずは現品チェックをしてみよう。それぞれ10発を選んでBullet径を実測した。このデータはあまり正確ではない。何しろノギスによる測定だ。理想的には非接触測定するべきだが、そのような道具は持っていない。仕方がないので1発につき数回直径を計り(少しづつ回して接触箇所を変えた)、その平均値とした。多少、変動している部分もあるが、この測定方法では誤差が出るのはやむを得ない。
 ノギスを当てると鉛弾の柔らかさを実感する。強く押し当てるとへこみそうだ(実際に力を入れるとへこむ)。へこませてしまってはデータの正確性は全く失われてしまう。使用したノギスはミツトヨ製のデジタルキャリパーで、mm表示、小数点以下2ケタまで表示する。

Bullet Diameter (mm)   弾丸径
SIGNUM MASTER M SCORE MAX MIDAS M TENEX EPS MATCH EPS
5.69 5.68 5.69 5.68 5.68 5.69
2 5.69 5.68 5.69 5.68 5.68 5.69
3 5.69 5.68 5.69 5.68 5.68 5.68
4 5.69 5.68 5.69 5.68 5.68 5.68
5 5.69 5.68 5.69 5.68 5.68 5.68
6 5.69 5.68 5.69 5.67 5.68 5.68
7 5.69 5.68 5.68 5.68 5.68 5.68
8 5.69 5.68 5.68 5.68 5.68 5.68
9 5.69 5.68 5.69 5.68 5.68 5.69
10 5.69 5.68 5.68 5.68 5.68 5.67
Ave. 5.690 5.680 5.687 5.679 5.680 5.682
Max. 5.69 5.68 5.69 5.68 5.68 5.69
Min. 5.69 5.68 5.68 5.67 5.68 5.67
Sigma 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.01

 結果は予想通り、安定している。多少の誤差が出ているが、何しろこの測定法だ。完璧ではない。ノギスで測って誤差が出るようでは問題外だ。MIDASとMASTERはいずれもMサイズを用意した。この2つはMとLがある。メーカーの公称では、Mは5.67mm、Lは5.96mmとなっている。私の実測値とはちょっと違う。今回の実測値を見るとSIGNUMとSCORE MAXはMIDAS MとMASTER Mより少し太めだ。SIGNUMとSCOREMAXはM, Lサイズという選択肢は用意されていない。MとLの中間サイズで作られているといっても良いかもしれない。
 ノギスを当てたのは、bulletの後ろ側の一番太い部分で、ここがライフリングに食い込むドライビングバンドとなる。

左:LAPUA製弾薬4種。左からMIDAS, SIGNUM, SCOREMAX, MASTER  重量弾のSCORE MAXと特殊なルブリケーション・グルーブを持つSIGNUMは独自の弾丸が付いているのは当然だが、MIDASとMASTERは同じ弾丸が付いていると思っていた。しかし両者は明らかに違う。MIDASの方がすっと濃い色だ。4つ共、全部色が違うが、これは鉛の成分による違いなのかもしれない。見た目が一番きれいなのはMASTERだ。
右:LAPUA SIGNUM弾頭部分  LAPUAの“L”のマークが誇らしげに刻まれている。MIDASやMASTERなど、他の製品には現時点でこのマークはない。

 SIGNUMの測定の際、表面のルブリカントがノギスに多く付着した。すでに述べたように22LR競技用鉛弾はいずれもルブリカントがコーティングされている。だからどのbulletも同じような現象が見られたが、SIGNUMの場合はノギスに付着する量が明らかに多い。これがSIGNUMの特徴だ。
 Bulletの側面に浅くて短いフルートがある。どうやら、その部分の形状で、ルブリカントをより多く付着させているらしい。しかし今回、ノギスを当てた部分はそれより後部であり、ルブリカントはそのフルートの有無に関わらず、多くの量が表面に付着していることが判る。
 Bullet径の他、Ammo.の全長および重量を各10発分測定した。
 全長もノギスによる手計測、重量はデジタルスケールでの測定値だ。

Ammunition length (mm) 弾薬全長
SIGNUM MASTER M SCORE MAX MIDAS M TENEX EPS MATCH EPS
1 24.88 24.92 25.14 24.94 24.01 23.87
2 24.88 24.91 25.14 24.92 23.99 23.87
3 24.88 24.93 25.14 24.92 23.96 23.85
4 24.88 24.91 25.14 24.92 23.91 23.83
5 24.89 24.91 25.12 24.93 23.93 23.90
6 24.88 24.93 25.15 24.90 23.96 23.88
7 24.87 24.94 25.12 24.93 23.94 23.89
8 24.90 24.90 25.13 24.94 23.92 23.84
9 24.89 24.92 25.15 24.95 23.97 23.86
10 24.88 24.92 25.15 24.92 23.97 23.86
Ave. 24.883 24.919 25.138 24.927 23.956 23.865
Max. 24.90 24.94 25.15 24.95 24.01 23.90
Min. 24.87 24.90 25.12 24.90 23.91 23.83
Sigma 0.01 0.01 0.01 0.01 0.03 0.02

 全長を測る際に、ELEY TENEX EPSはわずかに押し込むことが出来た。ノギスを当てると、カチッと小さな音がして少しブレットが押し込まれる。これはこのロットだけの問題なのか、すべてのTENEXが同じ結果になるかどうかは判らない。データは押し込んだ後の数値を載せている。

Ammunition weight 弾薬重量(Grain)
SIGNUM MASTER M SCORE MAX MIDAS M TENEX EPS MATCH EPS
1 51.9 51.8 60.3 51.6 51.1 51.1
2 51.8 51.9 60.3 51.7 51.2 51.0
3 51.9 51.9 60.3 51.6 51.3 51.3
4 52.0 51.9 60.4 51.8 51.3 50.8
5 51.8 51.8 60.4 51.7 51.4 50.9
6 51.9 51.7 60.5 51.8 51.3 51.0
7 51.8 51.8 60.3 51.7 51.3 51.0
8 51.8 51.8 60.3 51.6 51.3 50.1
9 52.0 51.6 60.3 51.7 51.3 50.9
10 51.8 51.8 60.5 51.6 51.5 50.8
Ave. 51.87 51.80 60.36 51.68 51.30 50.99
Max. 52.0 51.9 60.5 51.8 51.5 51.3
Min. 51.8 51.6 60.3 51.6 51.1 50.8
Sigma 0.08 0.09 0.08 0.08 0.11 0.15

 さすがは重量弾と謳っている通り, SCORE MAXが一番重い。
 今回の測定の範囲内ではLAPUAと比べてELEYの方が、全長および重量の誤差はわずかに大きかった。
 これが精度に影響するかどうかは判らない。
 いずれにしても、どの弾薬も問題となるほど、均一性を崩しているものはない。アメリカで1発2円程度で売られている安物の22LRとは違う。そもそも、ここで大きな変動が生じるようでは話にならない。

左:ELEY MATCH, LAPUA MASTER, LAPUA MIDASの旧パッケージ、FEDERALのGold Medalは登場した当初、アメリカでは大いに注目されたが、その後、芳しい評価は聞かれなくなってしまった。
右:Lymanのデジタル・スケールで弾薬重量を測る。

 次に実際に射撃して弾速を測定した。各25発。条件をevenにするため、25発撃つたびにバレルのクリーニングをおこなった。パッチを通すだけではなく、ブロンズブラシにBBS(Butch’s Bore Shain)を漬けた本格的なクリーニングだ。
 22LRのクリーニングに関して、その適切な方法は諸説ある。一番、アナーキーなものはまったくクリーニングをしないというものだ。一流選手が、「まったくクリーニングをしていないけどよく当たる」、と発言したことがクリーニング不要という根拠らしい。ELEYを訪問した際に、そのテストスタンドではまったくクリーニングなしで撃っているという状況を見てきた人の話もある。ちゃんと当たっているのだから、クリーニングなんか不要だ、と言うわけだろう。Bulletにコーティングされたルブリカントが適度なクリーニングをしてくれている、という主張もある。
 それで良いと思っているのであれば、それでよいだろう。
 別の人はパッチしか通さない、という。ブロンズブラシを使うとバレル内を傷付けるかもしれないから嫌だとその人は言った。これは論理的ではない意見だ。硬度の高いスチール、もしくはステンレスで作られたバレルに対し、ブロンズブラシの正確な往復が大きなダメージとなるハズはない(やり方が悪ければダメージも出来るが)。
 22LRのクリーニングに劇薬であるソルベントを使う必要はない、という意見もある。ライフル射撃専門店であるENNISのスタッフがAnschutzを訪問した際に、Anschutz社内では、22LRに関してはソルベントを使わず、バリツールというオイルを使ってクリーニングをしているという情報を仕入れてきた。
 バリツールには鉛を溶かしたりする洗浄機能はない。これをブロンズブラシに付けて、クリーニングする。バリツールは潤滑材であり、ブロンズブラシを往復させるにあたってのフリクション低減という機能しかない。したがってブラシで汚れをこすり落とすのと同じで、感覚的にいえば、昔の煙突掃除のようなものだ。しかし22LRならこれでじゅうぶんだというわけだ。
 しかし私はソルベントを使い、ブラシを往復させる方法がベストと考えている。世界的なリーディングメーカーであるAnschutzが採用している方法を無視し、あるいは一流シューターが不要だと言っているのに、なぜソルベントを使用することを主張するのかと思われるかもしれない。
 鉛のbulletを高速で発射する以上、鉛がライフリングに付着する。ルブリカントがコーティングされているとしてもこれは確実にファウリング(lead fouling:レッド・ファウリング)となる。これを放置しておいてよいはずがない。Anschutzの方法、あるいは一流シューターの方法でも、Positionのレベルで満足出来る結果が得られるのかもしれない。22LRでもベンチレストがある。アメリカには人口は少ないが22LRのベンチレストの射撃団体が3つもある。そのベンチレスト・シューターはほぼ100%がソルベントでのクリーニングをしている。それも30〜50発毎にだ。これを超えればファウリングで精度は落ちてくるからだ。
 ベンチレスト・シューターは道具に対して研究熱心だ。これはリムファイアの場合でも同様で、センターファイアと比べて、明らかに不利かつ難しいリムファイアでベンチレストをやろうという以上、精度を高めるということに関していろいろ研究している場合が多い。
 ポジション用とベンチレスト用の2つの標的を見比べて欲しい。目指している精度の違いが見えてくる。

 ベンチレスト用の標的はセンターのXリングは直径わずか0.025インチ(0.635mm)だ。10点圏も0.22インチ(5.59mm)しかない。これに比べてポジション・シューティング用はXリングが5mm、10点圏が10mmだ。
 これが意味することは、10点を取るためには弾丸の径が5.67mmだとすると、ベンチレストの場合は11.26mmのグルーピングが必要となる。一方、ポジション・シューティングの場合は、15.67mmのグルーピングがあれば、理論上は良いのだ(もちろんポジション・シューティングの世界でもファイナルに残ると、10点の中でもよりセンターに近いことが要求される)。
 この差は大きい。ポジション・シューティングの世界では、多少精度の悪い銃でもじゅうぶん10点に入るのだ。
 話がクリーニングの方向に逸れてしまった。とにかく25発毎にソルベント、それも強力なBBSでクリーニングをおこなって測定した。

Velocity (fps) 弾速
SIGNUM MASTER SCORE MAX MIDAS TENEX EPS MATCH EPS
1 1073 1043 986 1058 1099 1087
2 1032 1012 999 1053 1063 1071
3 1084 1033 954 1057 1077 1080
4 1039 1045 1012 1033 1078 1083
5 1058 1044 986 1057 1078 1081
6 1068 1034 1010 1031 1059 1078
7 1070 1023 991 1039 1080 1076
8 1049 1046 993 1049 1071 1073
9 1054 1044 998 1057 1077 1083
10 1044 1038 1002 1061 1071 1076
11 1086 1035 981 1072 1060 1096
12 1029 1024 1010 1080 1071 1076
13 1060 1045 1001 1031 1069 1086
14 1055 1026 1037 1063 1075 1077
15 1051 1046 988 1058 1076 1079
16 1043 1038 999 1052 1063 1085
17 1053 1039 977 1040 1070 1090
18 1046 1030 971 1063 1069 1083
19 1037 1031 954 1052 1080 1079
20 1071 1050 954 1044 1065 1094
21 1080 1044 990 1060 1082 1085
22 1068 1040 982 1060 1078 1082
23 1082 1046 1003 1059 1074 1102
24 1054 1040 986 1047 1079 1071
25 1063 1071 1009 1059 1070 1084
Ave 1058 1039 993 1053 1073 1082
Max. 1086 1071 1037 1080 1099 1102
Min. 1029 1012 954 1031 1059 1071
Error 57 59 83 49 40 31
Sigma 16.3 11.3 17.9 12.1 8.4 7.5
 使用したクロノグラフはOeler P35だ。地味なものだが、精度的にはもっとも信頼出来る。通常のクロノグラフは測定ポイントが2ヵ所だがこれは3ヵ所ある。測定ユニットはマズルから約3m先に置いた。
 結果を左の表に示す。
使ったのは2013だが、ベンチレスト仕様となっている。2013のオリジナル・バレルは全長690mmなのに比べて、これは短い500mmだ。アメリカ製でオリジナルよるわずかに太く、市販されてはいない試作品だ。試作第3号“X-3”という刻印がある。極めて特殊なもので、いつか機会があれば、このバレルを紹介させて頂くこともあるかもしれない。

 短いと初速がオリジナルより劣るかと思われるかもしれないが、むしろこちらの方が速い。弾速を決める要素はバレルの長さだけではないのだ。
 表に記載されているAve.(平均値)については説明する必要はないだろう。Errorは誤差を意味する。
 しかしSigma“標準偏差”は一般的ではないと思われるので、簡単に解説する(というか、私には簡単にしか解説出来ない)。
 標準偏差とはデータの散らばり具合を表すものだ。実際に取ったデータが、大きく変動していても、あるいはわずかしか変動してなかったとしても、平均値では、その変動の大きさを示すことは出来ない。  
 大きく変動している場合は、個々の数値と平均値とは大きく違う値である場合が多い。小さな変動しかない場合は、個々の値は平均値に近いものになる。
 Max., Min.(最大値, 最小値)も、一番大きな数値と一番小さな数値とを抜き出しただけだ。たった1つだけ大きく変動した数値があるだけの場合と、最大値最小値に近い数値が多数出ている場合とでは、個々のデータ値に大きく違いがある。
 これに対し、標準偏差は全体のデータの散らばり具合を表している。標準偏差は、各数値から全体の平均値を引いて出た値を二乗し、それらすべての合計をデータ個数で割った値の平方根によって算出される。この標準偏差が大きな値であるより、小さな値であったほうが、データの値は変動が少ない、すなわち“値が安定している”といえる。
    

 速度が安定しているものが精度が良いか、といえば必ずしもそうではない。これは予め判っている。
 もちろん、大きく変動していれば、精度にもバラツキが出てくるが、多少の誤差であれば、あまり影響することはない。したがってクロノグラフはハンドロードによる精度向上にはあまり役に立たないと言われている。しかしこれは200ヤード以下で射撃する場合の話だ。これ以上の距離で撃つ場合には、弾速を安定させることは重要になってくる。1000ヤード射撃なら尚更だ。
 だから50m射撃を基本とする22LRの世界で、初速のデータは、精度比較に対してほとんど役に立たないかもしれない。但し、ここで判る事は、普及品のMATCHやMASTERが,高級品のMIDASやTENEXと比べて必ずしもバラついてはいないということだ。
 なぜ弾速が変動するか?弾丸の径が同じであるなら、powderの量のバラツキがこの値の変動を引き起こす一番の犯人だといえる。あるいはリムに塗られたプライマーの発火性が不安定で、プロペラントへの着火性が不十分だという可能性もあるかもしれない。
 ただ殆どの場合、パウダー量の誤差が犯人だろう。22LRの場合、ケース内にめいっぱいのパウダーが入っているわけではない。実際のところは容積の半分も入っていない。スカスカの状態なのだ。完全にパウダーを詰め込めば、弾速はもっと上がり、音速を超える。しかし、少ない量で留めているということは、おそらくこの速さがもっとも精度が良いからなのだろう。
 競技用22LRに収まっているパウダーはわずか0.9gr〜1gr.(0.06g)程度だ。ほとんど耳掻き数杯分程度か。308の場合、42gr(2.7g)程度が標準的だ。それに比べると本当に微量であることが良く判る。
 問題のひとつはここにある。308で42grと設定した場合、通常、41.9rでも42.1grでの差はほとんどないに等しい。この0.1grの差は0.2%でしかないからだ。ところが、総薬量1grの場合、0.1 grの誤差は10%もの差となる。パウダー量が10%も増えれば、これはもう弾速が安定するハズがない。
 メーカーの製造工程でパウダー量の調整は、非常に厳密に行われている。おそらく0.01gr程度まで測定する精度だ。それでも100%完璧ではない。10%もの誤差が出ることはないが、多少のバラツキがあると思われる。0.01grのずれでも1%の誤差になる。22LRにチャージされているパウダーの粒は非常に細かい。細かいほど均一性は得られる。それでもパウダー量に誤差があるはずだ。
 このテストで一番良い結果を出したには、LAPUA MASTERだ。正直言ってリムファイアのベンチレストは非常に難しい。センターファイアに比べてリムファイアは弾速が1/3程度と非常に遅い。すなわち、バレル内を通過する時間が3倍にもなる。こんな小さな弾を撃つのであっても、リコイルはある。リコイル処理を的確に、またユニフォームに行わないと着弾は散ってしまう。だから結果が思わしくなくても、それは私に原因がある可能性がある。

 しかし、そんな中でも、MASTERの結果は明らかに良かった。この25発テストとは別だが、MASTERを使って得られた最近のベストグループは5発3.46mmだ。これはAnschutzを購入した際に付いてくるテストターゲットよりはるかに良い。
 25発テストMASTERとSIGNUMの結果を掲載する。笑わないでほしい。明らかに良かったといっているMasterでもこんな程度だ。私はまだ22LRのベンチレスト射撃を極めていない。風の影響も無視出来ない。当日は微風で条件は良かったが、全くの無風ではない。22LRは極端に風に弱い。

上:LAPUA MASTER  下段右側の標的には実は4発しか撃っていない。大きく外したショックで1発撃つのを忘れてしまった。あとで弾丸ケースに1発残っているのを発見して4発しか撃っていないにも気が付いた。
下:LAPUA SIGNUM  散りまくっている。話にならない。

 これを見て頂けるとお判り頂けるだろう。SIGNUMは明らかに散っている。それも収拾不能に近い。あたかも強風時に撃ったようだが、このときも微風だった。
 MASTERでもいくつか飛ばしている。これは私のミスだ。ミスを除けば1/2MOAに収まっている。
 それ以外のTENEX, MATCH, MIDAS, SCOREMAXの結果はあえて紹介しないが、SIGNUMのような収集不能という結果ではなかった。
 バレルにはチューニング・デバイスが付いているが、今回は一切調整していない。
 単純な話、MASTERは私のバレルとの相性が良いということだ。後日、別のロットでも試したが、概ね同様の結果を出した。同じ銘柄でもロットが違うと、結果は大きく異なる場合がある。しかし、MASTERで3種類のロットを試した結果は、ほとんど差は無かった。
 私のバレル“X-3”はいささか特殊なもので、Anschutzオリジナルを超える性能を目指したものだ。オリジナルは、市販の競技用22LRのいずれでも、それなりの精度が出るようにデザインされている。すなわちスィート・スポットが大きい。しかし私の持つ試作品は、そのようなジェネラルなものではなく、スィート・スポットは非常に狭いが、ジャストミートの場合はすばらしい精度を出すことが出来る。
 オフィシャル・スクリーマー(0.1MOA)も夢ではない…はずだ。
 SIGNUMを約900発消費した。バレル先端に取り付けたチューニング・デバイスを調節すれば、グループの改善は出来るだろうと散々調整した。しかし結果はNGだった。どうにもならない。調整して一瞬、小さなグループを叩き出したと思った瞬間、次の5発で突然バラツキはじめ、あたかも嵐の中で撃ったかのようなグループを作り始める。
 私はなんとかこのSIGNUMをねじ伏せようとしたが、ついに諦めた。
 この簡単なテストと考察で思い至ったことは22LRは非常に難しいアモだということだ。ごく微量のパウダーを使用するために、均質性をとり難い。
 22LRはハンドロードは出来ない。おそらくメーカーは0.01grainまで測定して製造しているのだろう。こんな微量を測定出来るスケールは普通、個人では持っていない。ハンドローダが持っているデジタルスケールは通常、0.1grainまでしか測定出来ない。センターファイアならそれでじゅうぶんだ。22LRがハンドロード不可である理由は他にもある。
 プライマーはリム部に直接、塗りこまれてある。この部分に雷管を塗布することは簡単ではない上に危険だ。だからケースの再利用は出来ない。仮にプライマー塗布済みのケースは売っていたとしても、先ほどのパウダー量測定の問題がある。いままでより遥かに高精度なデジタルスケールが必要だ。
 あとはブレットを挿入、クランプするだけだが、ここもセンターファイアとは違い、簡単にクランプもできない。センターファイアの場合、あらかじめネックを絞って矯正したケースにブレットを圧入する。しかし、22LRの場合はブレットを差し込んでから、ケースを締め込んでいかないとだめなのだ。これを個人が用意する道具でおこなう事は難しい。
 SIGNUMは私の持つもう1つのAnschutz 2013(Factory original)を使った場合も、結果は芳しいものではなかった。
 個々のバレルにはそれぞれ微妙な差があり、アモとの相性というものが生じる。すでに述べたように、Factory originalはスィートスポットを大きくして、出来るだけ適合性を良くしている。それでも向き不向きが生じる。メーカーはまったく同じものを作ったとしても、製品として完成したバレルには差があるのだ。
 だから、ある人が、Tenex EPSは凄く良く当たる、といっても別の人の銃ではそれほど良い結果にならない可能性がある。むしろ廉価のSuper Clubの方が当たるということだってあるだろう。
 私のもつ2本のバレルでは、全く良い結果が出なかったSIGNUMだが、他の多くの人達も同じようなものだったらしい。だから「当たらない」という噂が広まった。しかしSIGNUMとの相性がバッチリという場合もあるかもしれない。
 しかし、SIGNUMの悪評は日本だけではない。アメリカでも同様に当たらないと言われている。

 もし本当にSIGNUMが駄目であったとすると、何が問題なのだろうか?鉛弾(Cast Bullet)を使う場合、ルブリカントを塗るのはごく一般的に行われていることだ。スラッグでもグリースを塗る場合が多いだろう。スラッグは鉛の付着を防ぐためとフリクション低減という意味がある。

 SIGNUMの場合、ルブリカントをたっぷり塗った結果、フリクションが下がり過ぎるのではないだろうか。バレル内部は鏡面仕上げのツルツルピカピカが良いのではない。バレルメーカーはライフリング加工したあと、内部をラッピング・コンパウドでラッピングする。グリット240前後なので研磨とは程遠い。内部をライフリング、グルーブにそって一方方向に整えるわけだ。ボア表面にある程度のフリクションがないと逆にファウリングしやすくなる。
 SIGNUMのルブリカントがこのグリッドを埋め、“当たらない”という状態になるのだろうか、それはわからない。これはあくまでも推測の域をでないがルブリカント自体の選択に問題があったような気がする。ルブリカントといっても市場には何十種類がありSIGNUM試作テスト段階で使っていたルブリカントと実際の量産時のものとがまったく同じでなかったということも考えられる。ルブリカント自体、LAPUAが製造したものではなく外注だろう。この品質維持ができなかったという推測だ。
 SIGNUMが当たらない、この現象に対して私が推測出来たのはここまででしかない。しかしLAPUAも研究に研究を重ねてSIGNUMを開発したはず。結果が悪ければ発売に踏みきらなかったはずだ。
 メーカーがどのような研究を重ねて製品を開発してきたか、それは一般消費者にはわからない事だ。しかし研究開発は、部外者が想像する以上の内容まで踏み込んだものであるに違いない。研究開発の世界はある種のWonderland(不思議の国)のようなものだ。
 そのWonderlandで何か手違いが起こった。自信を持って市場(現実世界)に送り出したSIGNUMが、予想外の結果を示した。
 SIGNUMはすでに東京都内の2つの小売店(銀座銃砲店とエニス)から消えてしまった。評判が良ければ、消える理由はない。アメリカ市場からも消えている。
 もしルブリカントの品質で精度に悪影響を与えたのであれば、ルブリカントを変えた改良型が出る可能性はある。しかし、いったん悪い評判が広まった以上、それを打ち消す事は難しい事だ。

Satoshi Maoka
Aug.13, 2004

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