S&W New Military &Police Semi Automatic 2005年9月5日掲載
スミス&ウェッソン(Smith & Wesson : S&W)の経営がアメリカ人の手に戻ったのは2002年のことだ。それ以降、S&Wは最強のリボルバー、M500を市場に投入、設立当初からのライバル関係にあったコルトの傑作、M1911のクローン・モデルをS&Wブランドで投入するなど、積極的かつ象徴的な商品展開を図ってきた。
S&W M1911が登場した後、S&Wセミオートマチック・ピストルとして目立つのはM1911のバリエーションばかりとなってしまった。長い間、S&Wが作り続けてきたM39から続くオリジナル・セミオートマチック・モデルはすっかり日陰の存在になった。
現設計が古いS&Wオリジナル・セミオートマチックは、もはや商品競争力がなくなっているといえる。2桁から3桁、そして4桁へモデルナンバーを変え、小改良を施してきたが、それにも限界が見えている。もっとも、M39の40年も前に設計されたM1911に負けているというのも、不思議な話ではあるが。
問題の顕在化は20年前に遡る。アメリカの多くのポリス・デパートメントは長い間、リボルバーを使用してきたが、1980年代後半になるとセミオートマチックに切り替えはじめた。ポリス・リボルバーの大半はS&Wが独占していたが、セミオートの時代になると、グロック(Glock), SIG, ベレッタ(Beretta)といったヨーロッパ勢が主流になってしまい、サービス・ハンドガンにおけるS&Wの地位は大きく後退してしまった。この時点でS&Wのセミオートはヨーロッパ勢に負けていた。
M1911A1に変わるアメリカ軍の新サービス・ピストル・トライアルでもS&Wは最終選考にも残れなかったことからも、これは明らかだった。
1980年代後半にアメリカ市場に現れたグロックは、無粋な外観を持っていたが、ポリマーフレームによる軽さと、シンプルな操作性、hi-capマガジンがうけて、アメリカの多くのポリスデパートメントで採用され始めた。S&Wはグロックに市場を荒らされてしまったことに対抗して、グロックをコピーしたS&W シグマ(Sigma)を登場させ、市場から呆れられた。
3流メーカーならいざ知らず、アメリカを代表するメーカー、S&Wがオーストリアの新興メーカーの製品をコピーしたのだ。それも肝心の変則ダブルアクションだけは素通りした上でだ。S&Wの迷走はそこから始まったのかもしれない。
プライドをかなぐり捨てて市場に送り出したSigmaはさっぱり売れなかった。M39から続くS&Wのオリジナル・セミオートマチック,4桁ナンバーシリーズがまるでダメというわけではない。民間市場では、そこそこの売り上げはあったし、ポリス・デパートメントで採用しているところも、少なからずある。しかし、リボルバー時代のような公的機関装備として、一人勝ちの時代が長かったS&Wにとって、多くのポリスオフィサーの腰にグロック, ベレッタ, SIGが収まっている状態は我慢できないのだろう。
不人気Sigmaを改良し、VE仕様としたが事態はほとんど変わらなかった。
21世紀になり、ドイツのワルサー社と提携、新生ワルサーが市場に送り出していたP99を、S&Wブランドとして売り出した。S&W 99をポリス・デパートメントに売り込もうとしたが、本国ドイツでもワルサーP99は売れていない。
ドイツ新世代警察ピストルとしてH&K, SIGと共に認定されたものの、ワルサーを採用した州はほとんどない。ジェームズ・ボンドが使用しても売り上げには繋がらない。P99はアメリカに持ってきてもダメだった。ショート・フレームのミニモデルや、45口径を投入して、アメリカ市場に合わせた展開を図っているが、S&Wとしては99に見切りをつけたようだ。
水面下での動きとして、新しいモデル開発はスタートした。そして2005年夏、突然登場したモデルの名はミリタリー&ポリスだ。
売り込み先をそのまま名前にしている。そして、この名前は言うまでも無いだろう。20世紀を生き抜いた傑作リボルバーと同じ名前だ。
新しいS&Wセミオートに傑作リボルバーの名前を再び与える。この手法は1998年にもおこなわれた。チーフ・スペシャル(Chief’s Special)だ。現在も製造が続いているが、スナッビーセミオートマチックのCS45, CS9が成功したとはいえない。
今度のミリタリー&ポリスはどうだろう。開発にあたり、S&Wは試作モデルを多くのポリス・デパートメントに送り、現場の意見を聞き、それを製品に反映させた。またIPSCのプロフェッショナル・シューターであるMike PlaxcoやDoug Koenigも製品開発に助言を与えた。

S&W M&Pは新しい時代の公用ピストルとして、必須条件と言っても過言ではないポリマーフレームで製作されている。そしてそのダストカバー部にはアクセサリーレールを装備した。スタイルはピカティニーレールM1913だ。エクイップメント・レールの装備もまた必須条件になりつつある。
ザイテル(Zytel)と呼ばれるポリマーフレームは、内部にスチールのシャーシーが埋め込まれている。だから重い装備をレールシステムにつけても、フレームが歪むことはない。
スライドはステンレスだ。将来、ステンレスカラーの製品も出てくるだろうが、まずはBlack Melonite finishと称する黒染め仕様のスライドを持つ製品が登場した。もともと錆びにくいステンレス材にこのコーティングを施すことで、更なる腐食対策となっている。
スライド後部にある滑り止めのセレーションは、フィッシュ・スケィル(fish scale), すなわち魚のウロコ状のものだ。S&W Performance CenterからリリースされたM945が特殊なフィッシュ・スケィル・セレーションを持っていたが、このM&Pではもっとシンプルな形でウロコ型を表現した。ウロコというより単なる波型で、M945のような高級感はない。
スライドのデザインはH&K USPに似ている。しかしUSPよりスリムで見栄えが良い。好みの問題かと思うが、直線的であると同時に視覚的にもメリハリがあって、印象が良い。
フロントサイトはスチール・ランプがドブティル(dovetail)でマウントされ、リアサイトはNovakのlow mount carry sightが装備されている。フロント、リア共にトリチウム(Tritium)サイトはオプションだ。
グリップアングルは約108度で、これは1911スタイルのピストルの角度に近い(M1911は110度)。
ポリマーフレームのピストルは、グリップパネルを交換することが出来ないものが多い。コンベンショナルなピストルなら、銃が手に合わない場合はグリップパネルを変えれば良いが、ポリマーではそうはいかない。グリップは一体成型の場合が多い。しかし、ワルサーP99は、フレームのバックストラップ部分を交換式にして手の大小にも適合できるようにした。続いて登場したSIG Proはポリマー・フレームでは珍しいグリップ・パネル交換式だ。H&K P2000はバックストラップ交換式を採用、新しいポリマーフレーム・オートの場合、この部分を交換できるということが、当たり前になりつつある。
S&Wのグリップはバックストラップのみならず、側面の一部もいっしょに交換するのだ。これにより手のひらの膨らみに合わせることが可能になる。写真のグリップは後部に丸いカーブを描いた部分が見えると思う。その部分が丸ごと外れるのだ。写真のものはスムーズなラバーだが、グリップ前部(front strap)部と同じテクスチャー,スティップルド(stippled)のグリップ・ストラップもある。

このM&Pは極力、左右どちらの手でも同じように操作できるように作られている。マガジン・リリース・ボタンは右手の親指で押す通常の形式で、左側にボタンが存在する。左手で常に銃を扱う場合は、マガジン・リリース・ボタンを入れ替えて、右側にボタンが来るようにすれば良い。こればベレッタなどでも同じことができる。しかし、M&Pはこの作業に要する時間はわずか30秒程度だ。
スライド・リリース・レバーも左右両側にある。マニュアル・セフティは無いので、その他にレバー等は分解用ラッチしかない。従って左右どちらの手で使っても不都合はない。ならば、マガジンリリース・ボタンも、入れ替えることなく、左右どちらから押しても機能するようにして欲しかったと思う。ワルサーP88などそれを実現した製品は既にあるのだ。そうすれば、ほぼ完全なアンビデクストラウスとなる。
トリガーはダブル・アクションだが、インターナル・ハンマーではなくストライカーだ。トリガーブルは2.9kg〜3.2kg程度で、トリガー・トラベルは7.6mm程度だが、完全に戻さなくても3.6mm程度戻すとリセットされる。だから、すばやいトリガーアクションが可能だ。
トリガー・ガードの大きさはちょうど良い。前面に滑り止めを設けたり、角型とはなっていない。トリガーガード前面にウィークハンドの人差し指を掛ける撃ち方は、1980年代後半に流行ったが、今では廃れた。あの時代に設計されたセミオートの多くが、トリガーガードに指を掛け易い形状でデザインされ、それは現在まで続いている。しかし、滑らかなトリガーガードは、その時代から抜け出た感じを強く受ける。
フレームの後部、グリップの上に位置するテールだが、長いスパーが伸びていることが印象的だ。ハンマーが露出しないストライカーデザインであるため、この部分を長く伸ばさなくても、ハンマーバイト(hammer bite)の問題はない。しかし、この長いテールは良いと思う。ストライカー形式とした為、グリップの位置とバレルの軸線はかなり近い。 もし、このテールが無ければ、発射時にスライド下面がグリップする手の親指と人差し指の付け根部分を擦ってしまうかもしれない。普通考えても、そんなことは無いと思うだろうが、実際に銃を撃った場合、銃は手の中で暴れ、マズルが上を向く。そうなると、銃と手の角度は通常とは違ってくる。個人差が大きい部分だが、手のその部分とスライドが触れてしまう場合も無いとはいえない。これは各ポリス・デパートメントから意見を吸い上げたときに出てきた要求ではないだろうか。
パーツ点数はわずか38個。マニュアルセフティは無いが、トリガー部に、トリガーセフティが組み込まれ、ストライカー・ロックもある。間違ってトリガーを引かない限り、暴発は考えられない。市販モデルにはマガジン・セフティがある。軍、警察向けに納入する場合は、マガジンセフティをキャンセルしたものも選択できる。
口径は9mmパラベラム、40S&W, 357SIGだ。9mmの場合は17発+1、40と357は15発+1だ。
このS&W ミリタリー&ポリス(M&P)・セミオートマチックは売れるだろうか?ポリス用装備としては、グロックの普及率が高い。その他はSIGやベレッタでほとんど席捲されている。それらはすぐに更新する必要性はない。したがってポリス・デパートメントからの大量発注の機会はそれほど多くないだろう。
アメリカ軍がベレッタM9後継モデルの選定に入る・・・。この話は確かにある。それに向けての一手なのか。だがその時期ははっきりしない。M&P 45ACPも追って登場するだろう。
とにかくS&Wは時代の要求にあった自社独自のセミオートマチックピストルを持つことを重視したと思われる。
M1911のクローンでも、ワルサーOEM製品でもない独自のセミオートが必要だった。初めからケチがついたSigmaでも、時代遅れといわれる4桁ナンバーシリーズでもない独自のものが。100% made in the USA, これも消費者にとっては重要な要件だ。
今、考えうる現代の実用的コンバット・セミオートマチック・ピストルとして、新生S&Wが送り出したのがこのM&Pだ。約100年前に市場に送り出した傑作リボルバーと同じ名前を冠したことにS&Wの熱い思いが込められていると思うのは私だけだろうか?
S&W New M&Pは、この2005年9月に販売が開始される。
掲載したS&W M&P 40の写真は2005年7月にAmback Forumに掲載されたものだ。掲載したMr. Charlie PettyよりShooting Tipsでの使用許可を頂いた。
With deep appreciation to Mr. Charlie Petty of Amback Forum
Satoshi Maoka
Sep.5, 2005
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