Schmidt & Bender Scope  シュミット&ベンダー・スコープ

 シュミット&ベンダー(Schmidt & Bender)は1957年、Helmut Schmidt と Helmut Benderによって設立された。
 設立後10年以上の間、自社ブランドでスコープを市場に供給することはなく、GECO, Horrido, AKAHなどに製品をOEM供給元だった。これらのスコープは比較的低価格で量販されたもので、決して高級品ではない。
 1970年代初期より、自社のブランドSchmidt & Benderで市場に製品を投入し始める。優秀な光学機器を世界中に供給しているドイツの製品として、自信を持って自社のブランドを世に送り出すための機が熟したということなのだろう。
 もっとも1980年の時点でも、シュミット&ベンダーはまだ一流ブランドとして広く認知されてはいなかった。
 ドイツの光学機器メーカーとしてまず名前が挙がるのがカール・ツァイス(Carl Zeiss)だ。1845年、カール・ツァイスによって創業したこの会社は、当初、顕微鏡を開発製造し、研究機関に納入していた。
 数学者エルンスト・アッベがカール・ツァイスに加わったことで、この会社は大きな飛躍をとげた。パウル・ルドルフが有名なテッサーやプラナーなど、カール・ツァイスを代表するレンズを開発し、やがて会社は関連会社の集合体カール・ツァイス財団となった。
 第二次大戦、ドイツ軍のG43ライフルのスコープ Zf4はカール・ツァイス財団で開発されたものだと言われている(フォクトレンダー u.ゾーン社が開発したという説もある)。ツァイスのドイツ軍製造コードは“rln”だ。
 ツァイスは1944年赤外線スコープを開発し、これが有名なVampireだ。
 会社設立後100年目の1945年5月、ナチス・ドイツは崩壊し、アメリカ軍がイエナの地からカール・ツァイスの主要技術者を連れ出した。イエナに残った者は多かったが、この地は東ドイツとなり、カール・ツァイス・イエナは共産主義国家の国営企業に組み込まれてしまった。
 西側に脱出した技術者達は新天地でオプトン光学を興し、やがてカール・ツァイス財団の名を引き継ぐ。
 1980年代後期、西ドイツでは特殊部隊用狙撃ライフルのトライアルがおこなわれた。各銃器メーカーは、それぞれスコープメーカーと手を組んで、試作ライフルを提出した。
 Mauser(マゥザー)はM66 スナイパーライフルにZeiss DiAVARI-ZA 1.5-6×42 T*を載せたものを提出した。
 このスコープはカール・ツァイス財団に属するHensoldt AGが開発したものだ。Hensoldtは1852年に設立された歴史のある光学機器メーカーだ。1902年に“Solar”という名の、最初のプリズム・リバーサル・システムのライフルスコープを製造している。 DiAVARIは1954年にバリアブル(ズーム)スコープに付けられた名称だ。
 SIGはスナイパー・ライフル・トライアルにSG550-1を提出した。これに載せられたのは同じくツァイスの DiAVARI 2.5-10だ。
 SIG Sauerはさらに、ボルトアクション・ライフルSauer SSG2000を提出した。スコープはツァイスのディアタル ZA8×56を装着したが、それに加えてシュミット&ベンダー 1 1/2-6×42も使われた。
 自社ブランドで活動をはじめて20年に満たないシュミット&ベンダーが、巨大ブランド カール・ツァイスの牙城の一角を切り崩したのだ。
 アキュラシー・インターナショナル(Accuracy International)がイギリス軍のスナイパーライフルとして1986年に納入したL96A1にもシュミット&ベンダーが搭載された。固定倍率10×42と、ズーム2.5-10×56だ。
 スナイパーライフルにとってスコープの重要性は非常に高い。ライフルメーカーは一切の妥協を排し、市場にあるスコープの中で最高のものを選ぶ。公用スナイパーライフル・トライアルに提出されるモデルの標準スコープに採用されることは、最高のスコープであるというお墨付きを得た事を意味する。

             Anschutz 2013 with Schmidt & Bender PM 3-12×42 variable

 一般的に一流の光学機器メーカーで、スコープ専業のということはほとんどない。光学機器メーカーはスコープの他にカメラ(レンズ), 望遠鏡、双眼鏡、メガネ、顕微鏡などをラインナップとしている。しかしシュミット&ベンダーはライフルスコープ以外の光学機器を販売していない。
 ビジネスという視点から見た場合、それが正しいことかどうかは判断が難しいが、いたずらに規模を拡大せず、あくまでの小メーカーとして高品質のライフルスコープを製造していることは大いに評価できる。
 シュミット&ベンダーは1992年ブダベストに子会社Schmidt & Bender Hungaria Optikai Kft.を設立した。ここはレンズ製造の専門工場となっている。Schottから原材料(ガラス)を購入、ブタペストでレンズとして完成させる。ドイツ、ヘッセン州biebertalのシュミット&ベンダー工場でのワンピースハウジングを製造、これにレンズを組み込み、調整を加えて、スコープとして完成させている。
 アメリカのスコープメーカーは、多くの部分を日本、およびアジアの光学機器メーカーに依存しているが、シュミット&ベンダーは完全なヨーロッパ製だ。
 シュミット&ベンダーはクリアな画質と、信頼性、低照度での視認性(Low light performance), 数多くのレティクルデザインで世界中のシューター(ハンター、射撃競技者、公的機関のスナイパー)から高く評価されている。価格は高いが、それに十分見合うものだ。
 P-1(Bryant) Reticleは、長い間SWAT teamの一員であった郡保安官補(Deputy sheriff)のRobert Bryantがデザインしたものだ。高ストレス状態での視認性を最大限に追求した結果、このレティクルが生まれた。
 下部に1本の水平線があり、その上に高さの違う短い水平線がある。これは距離測定用で18インチの高さを持つものが、どの水平線に収まるかで、標までの距離を測定するものだ。左から500yd, 400yd, 300rd, 200ydに対応する。
 18インチ(約46cm)の高さを持つものをスコープの視野にとらえ、その下端を長い水平線に合わせる。対象物の上端が短い水平線のどこに合うかでその対象物までの高さを測るわけだ。一番右端の水平線に合えば、その対象物までの距離は200ヤードということだ。
 距離が100ヤードだとした場合、各ラインの長さがどういう意味を持つかは図を見て頂きたい。
 中央のサークルは100ヤードでは直径18インチだ。当然半径は9インチ、サークルの両脇にある2つの黒い楔形の部分は長手方向が24インチ、この楔形には目盛りが切ってあってそれぞれが6インチとなる。目盛りの縦ラインは長いものは6インチで短いものは3インチとなる。
 サークルの下側にある黒い楔形は高さ18インチだ。サークルの上に突き出たラインも長さは18インチだ。
 図に描かれたレティクルはSchmidt & Benderの発表資料からとったものだが、縮尺が狂っている。
 最大倍率にしても、レティクルはこんなに大きくならないし、200ydから500ydのレンジファインダー機能の部分は小さすぎる。あくまでもレティクルの表す意味を示すものとして捉えて頂きたい。
 射撃競技で着弾がどれだけズレているかをこのレティクルを使えば瞬時にそのズレ量を確認できる(距離の違いによる値の違いは換算すればよい。正確なズレ量を確認できれば、何クリック調整すると良いか直ぐに把握できる。
 ナイトフォース(Night Force)NP1-RRも同じ機能があるが、レティクルの視認性はシュミット&ベンダーのほうが良い。NP1-RRはレティクルの中心部を見失う可能性があるが、P-1(Bryant) Reticleは楔形のラインがあり、どこが中心か瞬時にわかる。
 ナイトフォースとのもっと大きな違いは、ズームの全領域でこのレティクルの測距離機能が使えるということだ。すなわち、シュミット&ベンダーはスーミングに連動してレティクルの大きさが変わるのだ。
 ナイトフォースに限らす、アメリカンブランドの高性能レティクルは、ズームスコープであっても、1つの倍率でしかレティクルの目盛りは対応しないものが殆どだ。設定倍率を間違えてしまった場合、距離を測り間違える可能性がある。
 しかし、アメリカ人はこの倍率可変レティクルには興味がないのだ。このあたりの感覚はアメリカとヨーロッパの感覚の違いによるものだろう。

  

 シュミット&ベンダーの可変レティクルにも欠点がある。高倍率で使う場合には問題ないが、低倍率にするとレティクルが小さくなりすぎる。上の写真をご覧になって頂ければ判る。これは12倍と3倍に設定したときのレティクルが実際に見える映像だ。3倍に設定した場合、こんな小さなレティクルでは何の役にも立たないばかりか、視認性が著しく悪い。
 アメリカ人が可変レティクルに興味がないのは、この事が問題だからであろう。一方、ドイツ人の感覚としては、使えようが使えなかろうが、ズームスコープである以上、レティクルも可変でないと気がすまないのではないだろうか。

  

 elevationとwindageの設定ポイントを示す白ドット。後部から見やすいようにオフセットされた位置にある。右肩にストックを付けて撃つ場合、顔をスコープの右側、やや上に少しずらすことで確認ができる。中心部に設定ポイントを置いた場合よりはるかに確認が容易だ。

 エレベーション・ダイアルについても言及したい。P/Mシリーズ独自の機能として口径に対応したリングが用意されている。標準は通常のエレベーション・ダイアルだ。1クリック1/4MOAの標準的なリングが用意され、明確なクリックの感触があって非常に好ましい。

 そしてこのダイアルを交換すると特定口径の弾道(trajectory)に合わせた距離調整が出来るのだ。100ヤードでサイトを合わせたら、このダイアルをスコープボディにある白いドットと“1”とで合わせてセットする。あとは200ヤードになれば“2”に、300ヤードになれば“3”に合わせるのだ。

最大500ヤードまでしかこのダイアルは用意されていない。実質的にここまででエレベーション・ダイアルがほぼ1回転している。

 中間の距離にはどのように対応するか。このダイアルには途中クリックは無い。その時はP-1レティクルでエイムポイントを微調整すればよい。
 今回のダイアルは308 168gr用だ。どの程度の口径および弾丸重量に適合したものがあるのか、それはシュミット&ベンダーに聞かないと判らない。おそらく主だったものは用意されているのだろう。
 シュミット&ベンダーの欠点(というか弱点)は、倍率のバリエーションが比較的低倍率のものしか用意されていないことにある。
 固定倍率で10倍、ズームで4−16倍が最大でしかない。おそらく3.5−15倍程度がもっとも使いやすい領域だろうが、長距離射撃を想定した場合はもっと大きな倍率のものが使いたい。またベンチレスト用として考えた場合、36倍以上が必要だ。
 シュミット&ベンダーは優れたスコープだが、製品の幅という面では不十分だ。もっともスコープだけに限定したビジネスを展開していることと同様に、その守備範囲をハンティングと公的機関のスナイパー用としてのみと考えているのかもしれない。

 

 今回、写真を掲載しているのは、数年前の3-12×42 P/M variable(3-12倍対物レンズ径42mm ポリス・マークスマン ズーム)スコープだ。これは500ヤードまでを想定して作られているが、シュミット&ベンダー 3-12×50 MIL Variableは、1000ヤード射撃を想定して開発された。しかし倍率は3−12倍ズームであり、実際に1000ヤード射撃に使用することはかなり難しい。
 通常のP/Mシリーズはアルミ(heavy duty aluminum)製のボディにアナダイズド・ブラック・セミマット・フィニッシュだが、MILモデルはより高い強度を求めてスチール製ボディとなっている。
 現在は、シュミット&ベンダーのP/Mシリーズは P/M IIとなり、フォーカスダイアルを左側面に移して操作性を向上させ、さらにイルミネート・レティクルを装備している。この改良は、ハンター及び公的機関のスナイパーの声を反映したものだと思われる。

Jan.4, 2005 (同日修正)
Satoshi Maoka

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