Polymer Holsters                      2006年9月7日掲載

 ホルスターはかつてほとんどが皮革製であった。厚手のキャンバスで作られたホルスターもミリタリー用として存在したが、ほとんどは皮革製だ。重量のあるピストルを入れて携帯するには、耐久性から考えて皮革が一番であったのだろう。
 ホルスター=皮革製という図式を最初に崩したのはナイロン(Nylon)だ。1935年、デュポン社(DuPont)は史上初の完全人工合成合成繊維を商品化した。それまでも合成繊維は存在したが、それらは天然繊維を化学変換によって可溶化(solubilization)し、繊維として再生したものであり、人工合成繊維ではなかった。
 デュポンの開発したものはナイロン66と呼ばれ商標登録された。ナイロンの呼称は、のちに脂肪族骨格を含むポリアミドを総称するようになった。

 ナイロンをホルスター素材として使用するようになったのは1960年代のことだ。合成繊維でホルスターを作った理由は、皮革と比べて量産性が高く、重量を軽くすることができるためだ。
 ホルスターに使われるナイロンはコーデュラ(Cordura)ナイロンが主流となった。コーデュラ・ナイロンはインビスタ社(INVISTA)が開発し、デュポン社(DuPont)が商標を持つ。
 強度はコットンのテント地の10倍、ポリエステルの3倍、ナイロンの2倍だ。耐摩擦性、引き裂き強度も高い。皮革に比べれば高級感は落ちるが、実用上問題ないし、皮革のように手入れをする必要もない。

                Bianchi コーデュラナイロン・ホルスターAccuMold

 しかしホルスター素材として、本格的に普及し始めるのは1980年代後半以降だ。コーデュラ・ナイロンはバッグなどの素材にも盛んに使われるようになり、ホルスター素材としても定着した。Bianchi, Uncle Mike's, Strong, Eagleなどが積極的にこの素材を取り入れ、現在では制服ポリス用デューティー・ホルスターの主流は、皮革製からコーデュラ・ナイロン製に移った。
 コーデュラ・ナイロンはデニール(denier)という単位でその糸の太さを表現する。ホルスターなどは1000デニール程度のものが主流だ。長さ9000mで何グラムの重さがあるかを表す単位がデニールだ。糸が9000mで1gなら1デニールとなる。1000デニールは1000gだ。略記号はd。
 同じ1000デニールのコーデュラ・ナイロンを使っていても、製品によって、感触も強度も異なる。これは染色処理の仕方による違いと防水加工のためのコーティング方法の違いによるものだ。
 コーデュラ・ナイロンに続いて登場したホルスター素材はプラスチックだ。
 合成樹脂プラスチックの歴史は1835年、ポリ塩化ビニール粉末の発見に始まった。しかしこの段階ではまだ、製品化には至っていない。1851年に天然ゴムを主原料とするエボナイト、そして1868年にセルロースを主原料とするセルロイドが登場し、工業製品として実用化した。しかし、これらは天然の高分子材料を原料としており、化合物生成に至る原理も理論的に確立されていないものだった。
 完全な合成樹脂としてのプラスチックの登場は、1907年のフェノール樹脂が最初となる。
 高分子化合物の共有結合に関する理論が発表されたのは1927年だ。これに基づき、初めて高分子化合物を合成したのが、デュポンのウォーレス・カロザース(Wallace Hume Carothers)である。1934年、ポリアミドのナイロン66が開発され、商品化に向けて動き出した(カロザースは商品化の前年、フィラデルフィアのホテルで自殺した)。 
 こののち、合成樹脂は様々な製品に広く活用され、本格的に普及しはじめた。
 戦後さらに高い特性を持つエンジニアリング・プラスチックが開発され、その適用範囲を広げていく。
 ナイロン66は1959年に登場したレミントンの22LRセミオートマチック・ライフルのストック材として使用され、銃自体の製品名もレミントン・ナイロン66であった。
 シンセティック・ストックを採用したライフルは、このレミントン・ナイロン66が最初ではない。第二次大戦中にSavageがシンセティック・ストックの製品を製造している。しかし商品として最初に成功したものが、このRemington Nylon 66だ。
 プラスチック・ホルスターの登場はもっと後の時代だ。どこのメーカーが、何年に最初にプラスチック・ホルスターを製造したかは判らない。しかし、1970年代にはすでにプラスチック・ホルスターが存在した。しかし当時のものは決して使いやすいものではなかった。
 プラスチックは皮革やコーデュラ・ナイロンより薄くできる。しかし、安さ、薄さ、軽さを特徴としたプラスチック・ホルスターはあまり普及していなかった。

左:Bianchi(茶色) Blade Tech,(中), AKER(黒)
右:Blade TechとAKERの比較。皮革製であるAKERが圧倒的に厚い。

 Polymerフレームピストルとして成功したGlockは、ホルスターもポリマー・プラスチックで作った。安っぽいものだが、機能性はじゅんぶんで、Glock同様、プラスチック・ホルスターの実用性の高さを多くのシューターに知らしめるきっかけになった。

Glock Polymer Holster Belt Slide Type 太いベルトに装着する場合は、両脇のベルト通しループ内にあるブリッジをカットする。

 状況を大きく変えたのは、カイデックス(Kydex)の登場だ。カイデックスは1965年にRohm & Haas社が開発した熱可塑性素材だ。アクリルとPVC(Poly Viny Chloride:ポリ塩化ビニール)の合成物質で、非常に高い対衝撃強度と耐久性がある。薬品に対する耐性も高い。
 開発当初は航空機の室内用素材として活用された。1987年,Kleerdex社はRohm & Haas社からカイデックス製品の製造販売権を買取り、1990年よりペンシルベニア州で製造を開始した。Kleerdex社は様々な特性を持ったカイデックス製品を開発供給し、工業製品の外装、車両の内装、食品関係器具、医療関係器具、クリーンルーム内装、住空間および店舗の内装など数多くの分野でカイデックスが活用されるようになった。Kydex 100, Kydex T, Kydex 200, Kydex 152WG, Kydex 152AR, kydex HD, Kydex XDなど現在では31種類の様々な特性を持つカイデックス素材がある。
 サファリランド(Safariland)はカイデックスを積極的に活用し、DeSantis, Uncle Mike’s, Fist, Galco(Armortek), Blade techなどのホルスター・メーカーも、この新しいマテリアルを使用しはじめた。1990年代後半だ。

                        Uncle Mike's Kydex Holster

 カイデックスをホルスターに用いた理由として、高い弾性が重要な要素であったと推測できる。ホルスターに要求される重要な機能として、必要なときに容易に銃を抜くことができること同時に、確実に銃を保持し、不用意に抜け落ちたりしないことが求められる。
 公的機関に所属する警察および治安維持要員にとって、走ったり、ジャンプしたり、転倒したりした時に、ホルスター内の銃がどこかに飛んでいってしまっては困る。逆さまの状態になっても、銃はしっかりホルスターから抜け落ちることがなく、瞬時にとり出せなくてはならない。
 かつてのホルスターはサムブレイク・タイプのストラップを装備するものが多かった。ストラップがあれば、銃を確実に保持できる。銃を抜く際、グリップを握ると同時に親指でストラップの金具を押し開くようにして外す。そうすれば、非常事態には瞬時に銃を抜き出すことができる。

                         Thumb Break Strap

 しかし、ストラップの金具を押し開く動作を排除すれば、銃のドロウはさらに容易になるはずだ。そこで弾性のあるカイデックスが注目された。素材の特性を利用してトリガーガード部にロック機構を付けた。メカニカルなものではない。単にトリガーガードの部分に噛みこむ構造としただけだ。強く引っ張れば、カイデックス素材はその弾性で一瞬だけ広がり、ロックは解ける。当時、メカニカルなロック機構を持ったコンペティションホルスターがあった。銃を抜く際の抵抗を極力下げると同時に、不用意に銃が抜け落ちることを防止するためだ。
 それと同じことをカイデックスの弾性で実現した。これでサムブレイク・ストラップは不要となった。
 ストラップほど強固なロックではないし、銃を敵に抜き取られることも防止できない。だから、サムブレイク・ストラップを装備したカイデックス・ホルスターもある。しかしトリガーガード・ロックだけのものの方が多い。これは皮革製、コーデュラ・ナイロン製ホルスターでは、別途メカニカルロック機構を内蔵しないと通常は実現できないものだ。

 トリガーガードの大きさに合わせた形状と、このクボミが銃の抜け落ち防止機能となっている。

 カイデックス・ホルスターが普及し始めたのは、ポリマー製のグリップフレームを持つ銃が増えたことで、新しい素材のホルスターとして受け入れられる環境が整ったことも重要な要素だろう。
 カイデックスは皮革製ホルスターのような豪華さ、優美さは無い。しかし熱や薬品、水などに対する耐性が高く、実用性ははるかに上だ。
 プラスチック・ホルスターのすべてがカイデックス製となったわけではない。
 Fobusホルスターはイスラエルの警察および軍用として開発された製品だ。このブランドはカイデックスを使用していない。Fobusの使用したマテリアル、RX-18ポリマーはカイデックスより耐熱強度が高いものだ。

Fobus Holster :ほとんど全ての製品で右利き用、左利き用が供給されている。下段右側はスタンダードとRotoの違いを示している。スタンダードは装着角度が固定されたFBIタイプで、Rotoは360度装着角度を変更できる。ベルトループ内のネジを+ドライバーで緩めることで360度装着角度を調整できる。下段右側は、スタンダードとRotoの厚さに違いを示している。

 Fobusホルスターは使用する銃の形状に正確に合わせたホルスターで、トリガーガードの内側をかなり狭くしている。形状は他のカイデックス製ホルスターと変らないが、他のホルスターと違いは、テンションコントロールが効かないことだ。ロックの強度を調整できない。通常、Fobusはかなり強いロックが掛かる。これはRX-18の強度と曲げに対する復元力を活用したものだ。
 ベルトに固定するベルトホルスターとパドルタイプホルスターが一般的だが、Rotoタイプを選ぶとホルスターの取り付け角度を360度40段階に回転させることができる。これによりバーチカル、フロントレイク、バックレイク、クロスドロゥ、バックサイドと様々なスタイルに切り替えることができる。ショルダー・ホルスターにするためのショルダー・ハーネスを付ければ、ホリゾンタル・ショルダーホルスターになる。この状態でもトリガーガード・ロック・システムだけで銃を保持するのだ。
 Rotoタイプはオプション・パーツを交換するだけでベルトホルスターとパドルタイプホルスターの交換も可能だ。ベルト幅も44mmまでの対応パーツと、57mm幅のDutyベルトに取り付けるパーツとが交換できる。腿の部分に取り付けるタクティカル・タイ・リグもある。
 高い機能を持ちながら、Fobusは一般的なカイダックス製ホルスターと比べて半額程度の価格で登場した。

Fobus Roto typeは様々なアタッチメントを装着することで、ホリゾンタル・タイプのショルダー・ホルスターやタクティカル・ホルスターとして使用することができる。

 ひとつのホルスターが、ベルト・ホルスターであると同時に、ハーネスをつけてショルダー・ホルスターにもなるといったものは過去にもあった。バーンズ・マーティン・トリプル・ドロゥ・ホルスター(Berns Martin Triple Draw Holster)やビアンキ(Bianchi) 9Rなどだ。
 しかし装着角度を360度自由に設定でき、ベルト幅の変更やパドルタイプへの換装ができ、ショルダー・ホルスターにもタクティカル・ホルスターにもなるといった多彩な機能を有するものはFobusだけだ。
 但し、Rotoタイプは角度調整機能とアタッチメント交換機能のためにパーツをホルスター裏面に付けているためにどうしてもその部分が厚くなり、concealability(隠匿性)では不利となる欠点がある。


                   Blade Tech Injection Mold Holster

 カーボンファイバー(Carbon-fiber)を使用したホルスターも登場した。カーボンファイバーとはアクリル繊維、または石油、石炭、コールタールなどの副生成物を原料に、高温で炭化させて作った炭素繊維を束ねたものだ。
 カーボンファイバーで作られたホルスターはBlackHawkのCQCホルスターが代表的なものだろう。CQCとはClose Quarter Concealmentの略だ。ブラックやO.D.などカラーバリエーションがある中に、一般的にカーボンファイバーらしい外観を持つカーボンファイバー・フィニッシュの製品がある。これはカーボンファイバーをクロス織にしたもので、実用一点張りだったポリマーホルスターにも、ある種の高級感をもたらすものだ。このパターンが好きか嫌いかは個人的な好みだ。BlackHawkはこのデザインでドレスベルトも作っている。銃をスーツの下に隠し持つ場合に使用しても違和感の無いベルトだ。

  BlackHawk CQC Holster Carbon Fiber Finish SERPA system パドルアタッチメントも標準装備だ。

 カーボンファイバー製BlackHawk CQCホルスターのバリエーションとして、SERPAホルスターがある。これはカリフォルニアの弁護士Michael Serpa氏が開発したもので、その名前からSERPAと呼ばれる。サムブレイクを排しつつ、確実にピストルを保持できるホルスターを目指したもので、多くのカイデックス製ホルスターが採用する、強く引くだけで外れるトリガーガード・ロックでは完全ではないとの考えから生み出されたものだ。
 SERPAシステムは、銃をホルスターに収めた状態ではトリガーガード内にロッキング・パーツがメカニカルに噛み込む。この状態で銃を抜こうと思っても抜き出すことは不可能だ。銃を抜くには、グリップを握り、人差し指を伸ばして側面にあるリリースプレートを押す必要がある。これを押せばトリガーガード内のロッキング・パーツが外れ、銃を抜くことができる。
 シンプルなデザインながら、良くできたシステムだ。これは間違って銃がホルスターから抜けてしまうことを避けると共に、他人にホルスターの銃を抜き取られることを避けるためのものだ。リリースプレートの位置は、銃を握る手の人差し指を伸ばした位置にある。これは計算されたレイアウトだ。
 向かい合った敵対的人物や、後方からひそかに接近した敵に、ホルスターから銃を奪い取られる可能性は常にある。サムブレイク・ストラップがあれば、かなり安全だが完全では無い。しかしSERPAは、その位置と形状から通常の角度以外からのアプローチを否定している。両手を使えば、抜き取られる可能性はあるが、片手では非常に難しい。
 このSERPAシステムを利用してこのCQCホルスターをホリゾンタル・ショルダーホルスターとするハーネス・アタッチメントがある。またタクティカル・ホルスターとして利用するためのプラットフォームが用意されている。

               各種polymer holsterの素材と表面の仕上がりはかなり多彩だ。

 ホルスターに高級感や美しさを求めるのであれば、ナイロンやカイデックス、カーボンファイバーのホルスターはどれも失格だ。その場合、ホルスターは皮革製でなければならない。Galcoの製品の一部やMitch Rosenは、上質の靴やバックと同じ高級感が漂う。
 しかし実用品として考えた場合、軽くて強靭な素材を使う事は正しい選択だ。おまけに価格も安い。水に浸かっても、高温にさらされても、なんら問題はない。汚れたら洗えばよい。何年使っても機能性は変わらない。トリガーガードを利用したロックシステムも、皮革製ホルスターに組み込まれている例は少ない。
 新しいハンドガンのフレームがポリマーにほぼ置き換った現在、ホルスターの位置づけも大きく変化している。

Sep.7, 2006
Satoshi Maoka

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