NP-R2 & Inclined Fire NP-R2と傾斜射撃
March 1, 2007 掲載
ライフル射撃場は通常、平らな空間であり、射座と標的の間に高低差があることは無い。言うまでも無いことだが、実際の射撃は平面空間だけでおこなわれるわけではない。狩猟でハンターと獲物の間に高低差があるのは、ごく普通の事だろう。戦場でも同様だ。法執行機関の特殊部隊、特に狙撃手にとっては、極端な高低差がある環境で撃たなければならない場合が多い。ビルの上から容疑者を狙うことがあるし、その逆もあるだろう。
射撃競技はスポーツだが、その原型は狩猟、もしくは戦闘だ。ようするに“戦技”である。戦技というと殺伐としたイメージとなるが、ボクシングやレスリング、砲丸投げ、柔道、剣道、空手、フェンシングも立派な戦技だし、ラグビー、サッカーなどは形を変えた狩猟スポーツだ。敵味方に分かれて集団で戦うという意味では戦闘代替行為でもあり、これも広い意味の戦技だといえる。そもそもサッカーの起源は、8世紀のイングランドで、戦争で勝った側が敵の将軍の首を切り落とし、それを蹴飛ばして勝利を祝ったことだという。現代でもサッカーのワールドカップなどは、国家間の代替戦争だ。
射撃競技は、猟場での狩猟、もしくは戦場での戦闘がベースとなっている。だから一般市民が射撃スポーツをおこなう場合は、“狩猟の練習”という側面がある。しかし、スポーツとしての形を整え、近代オリンピックの競技として広く認知された結果、スコアや記録が重要になり、条件の統一が図られた。その結果、スポーツ射撃は実際の狩猟にあるような条件、状況、環境の多彩さを失ってしまった。
スポーツは、記録を重視する場合と、それをおこなう事自体を楽しむ場合とがある。アマチュアスポーツの場合は、圧倒的に後者だ。それなら、様々な条件を設定した射撃スポーツがあっても良いはずだ。
だから、射撃場に高低差があったり、射撃距離や標的の大きさが毎回変わっても構わないだろう。ポジション・シューターは“それでは撃てない”と言うかもしれない。それはポジション・シューティングが形にハマり過ぎているからだ。
ゴルフ場が、18ホール全て同じ距離とレイアウトだったら面白くないだろう。そして全国どこのゴルフ場に行っても、全く同じだったら、すぐに飽きてしまうに違いない(その代わり、スコアは凄く上がるだろう)。
距離がどのように変わっても、距離を瞬時に測定し、試射することなしに常に正確な射撃ができる事、仰角でも俯角でも撃てること、風の向きと強さを読んで着弾点を補正できること、あらゆる環境の中で、プローンだけでなく、ベンチからでも、シッティングでも、もちろんスタンディングや、バイポッドを使っても、不自然な中腰の姿勢からでも撃てて、正確に目標を捉える事ができる事。
これらの技術を身に付けて初めて、“本物のスポーツシューター”,“射撃のエキスパート”であるといえる。
射撃ジャケットで身体をガチガチに固め、50m先の規格化された標的をマイクロサイトで狙い、黒点の中心に正確に弾を送り込むことだけができたとしても、距離が変わっただけでどうして良いのか判らないのでは、射撃のプロとはとてもいえない。
だから自分など、射撃をちょっとカジっているだけのヒヨコだ。たとえ試合で満射を出すことができたとしても、それは箱庭の世界の話でしかない。箱庭シューターの自分でも、せめて距離の違い、角度の違いによる修正方法ぐらいは習得しておきたい。
自分の銃を使っていながら、距離が変わったからといって試射しないと当てることができないというのでは、“料理が得意だ”といっておきながら、作れる料理は冷凍食品だけというようなものだ。
本当の射撃は、試射などおこなう余裕など無い。初弾を正確に当てるかどうかで、勝負が決まる場合がほとんどのはずだ。
もちろん、ここでいう正確な射撃とは、常にXポイントを撃ち抜くというものではない。試射無しで、300mまでのどの距離からも、サッカーボール大の標的を1発で撃ち抜くことができれば、とりあえず優秀なシューターといえるだろう。
近年、レティクルに何らかの工夫を施したスコープが多い。距離の変化に対応できるものだ。シンプルなクロスヘアや、Duplexだってバリスティックを計算し、距離と角度に応じたエレベーションの調整クリック数を頭に叩き込めば、初弾から正確な1発を撃つことは可能だ。しかし、それ以上に何らかの目盛りがレティクルにあれば便利だ。
Mil-Dotは軍が使い始めたものだが、ハンターにとっても有益なものだといえる。
レティクルにMil.やM.O.A.に対応した目盛りがあり、その意味を把握しておけば、エレベーション・ダイアルを回すことなく、様々な距離、角度、風に対応できる。
距離、角度の調整はバリスティック・ソフトウェアがあれば参考値が出てくる。しかしフィールドにモバイルPCを持ち出すのは現実的ではない。PDAならまだ良いが、入力している時間の余裕があるとは限らない。データを元に経験を積み、それを自分の物にすることが必要だ。
風の強さは一定ではない。刻々と変わる。長瀞のようにほぼ無風の室内は例外だ。強風の日もあれば、気持ちよい微風の日もある。その風を読むためには、経験を積まなくてはいけない。
Nightforceの NP-1RRを見たとき、「これだ!」と思った。直線と点を様々な間隔に配置して作り出されたレティクルは非常に多彩な機能を持っている。NXS(Nightforce Extreme Scope)の設計者Jeff Huberの経験から導き出されたレティクルがこのNP-1RRだ。

しかし、これを使いこなすことは難しい。機能が多すぎて直感的に扱えない。機能的であり、かつシンプルなレティクル、“Busyでない高機能レティクル”はないか、このような視点で探した時、NP R2に行き着いた。
縦、横に伸びた十字ラインはレティクルの基本形だ。中心部から左右に4箇所ずつの目盛り(Hash Mark)がある。その間隔が5 M.O.A.だ。中心から上に5箇所、下に10箇所のハッシュ・マークがあり、その間隔は2 M.O.A.となっている。上下方向のハッシュ・マークのみ5つ目が少し長くなっていて、そこは中心から10M.O.A.であることを意味する。
レティクルの間隔として覚えるべき事はそれだけ。各距離における1 M.O.A.の値は概ね以下の通りだ。
| 50m |
100m |
150m |
200m |
300m |
| 14mm |
28mm |
42mm |
56mm |
84mm |
単純な14の倍数だから覚えるのは簡単だ。
インチ、ヤードでの1M.O.A.は言うまでも無く、
| 50yd |
100yd |
200yd |
300yd |
| 0.5" |
1" |
2" |
3" |
となる。このハッシュ・マークを利用すれば、対象物までのおおよその距離が算出できる。もちろん対象物の大きさがわかっている場合に限る。

高さ50cm(20インチ)のものをスコープで捕らえたところ、上下のハッシュ・マーク4本に間に概ね収まったとしよう。4本の間隔は3目盛で、すなわち6 M.O.A.だ。
(上の図、右側に示したオレンジ色の物体の高さが20インチであると想定した)
この場合の距離の計算式は以下の通りだ。
20inch ÷ 6 M.O.A. ×100 =333.3 yd.(303m)
すなわちオレンジ色の球形の物体までの距離は333ヤードだ。正確では無いがこの計算で概ねの距離が割り出せる。但し、対象物の大きさを瞬時にインチでイメージできなければならない。
日本を含め、世界の趨勢はmetricだが、射撃の世界はインチ、ヤードで考えたほうが便利な場合が多い。初速や銃口エネルギーだって、ふだんはfps, ft.lbsで表すではないか。これをm/sやジュールで表現されてもピンと来ない。
基本的な事だが、このハッシュ・マークによるranging,すなわち距離測定ができるのは、セカンド・フォーカル(Second Focal)スコープの場合、スコープの倍率を、メーカーが設定したレンジング用倍率に合わせてある時に限る。
Nightforce NXSの場合, 3.5-15x50, 3.5-15x56は15倍、5.5-22x50以上のモデルでは22倍がこのレンジング用倍率だ。
全領域でレンジングができるファースト・フォーカル(First Focal)スコープもある。ズーミングと共にレティクルが拡大縮小するのだ。便利ではあるが、倍率によってはMil-dotやHash Markの間隔が小さくなり過ぎて使い難い。
レティクルのハッシュ・マークを活用するときは、もちろんレンジングだけではない。様々な射撃距離で、その着弾点を調整することに役に立つ。

まずは、自分の銃と使用するアモの弾道を把握する。バリスティック・ソフトウェアを使用すれば、参考値が出てくる。
例えば口径308, 弾頭はSierraの150gr.HPBT Matchkingを2,700fps.(792.5m/s)で射撃した場合を算出する。Ballistic Cofficientは0.397だ。
サイトラインと弾道が交差するポイント(zero)は、ロングレンジ設定として200mとしよう。

Fig.1はサイティングイン時の弾道とライン・オブ・サイト(line of sight)、そしてボア・ライン(bore line)の関係を側面から図で示したものだ。
ライン・オブ・サイトとは、サイトの延長線、エクステンデッド・ボアラインとは、銃身の延長線だ。
水平射撃も実質的にこの形で行われている。水平とはいえ、ライン・オブ・サイトとボア・ラインは交差する。実際にはこんな急な角度ではない。小さな図上に弾道を示そうとした結果、角度が誇張されている。
バリスティック・ソフトウェアに入力する値として、サイトの高さは38.1mm、気圧は1気圧(1atm, 760torr,14.696psi)とした。気温15℃(都市部の年平均気温は概ねこの程度だ), 海抜は一応、380mとした。湿度60%(東京の湿度の年平均は59%), 風はゼロと仮定した場合、エレベーション・アングル(elevation angle)ゼロ、すなわち水平射撃では
|
Bullet Path |
Drop |
| 0m地点 |
マイナス0.38cm |
0cm |
| 25m地点 |
3.61cm |
マイナス0.5cm |
| 50m地点 |
6.57cm |
マイナス2.01cm |
| 100m地点 |
9.24cm |
マイナス8.31cm |
| 150m地点 |
7.21cm |
マイナス19.3cm |
| 200m地点 |
0cm |
マイナス35.47cm |
| 250m地点 |
マイナス12.91cm |
マイナス57.34cm |
| 300m地点 |
マイナス32.12cm |
マイナス85.52cm |
以上のような計算値が算出された。
ブレット・パス(Bullet path)とはライン・オブ・サイトに対し、実際の弾道の位置を示したものだ。銃口を出た瞬間0m地点では、サイトの高さ分だけマイナスになっている。
ドロップ(drop)とはボア・ラインから弾道がどれだけ落ちるかを示すものだ。どんなにB.C.が優れた弾丸を使用しても、ボアラインより弾丸が上に行くことはあり得ない(但し、強風に煽られた場合は別だ)。
厳密に言えばマズルを飛び出した瞬間、ドロップは始まる。ボア・ラインに上方向の角度が付いた結果、放物線を描く。
弾道はホリゾンタル・アクシズ(horizontal axis)の上を飛ぶ。ホリゾンタル・アクシズとは便宜上の水平ラインだ。しかし距離が伸びると、ホリゾンタル・アクシズより下に落ち、やがて地面に落ちる。
ライン・オブ・サイトと弾道が交差する点をゼロ・ポイント(zero point)という。この点でのみ、クロスヘアの中心に弾丸が当たることになる。エレベーションを調整、違う距離でのサイト合わせを行えば、そこをゼロポイントにすることもできる。
弾道(bullet path)がライン・オブ・サイトより上にあるときはpositive, 下にあるときはnegativeという。
今回の設定で、スコープの中心線ライン・オブ・サイトの延長と弾道が交差するのは200mとした。
この状態で50m先の標的を撃つ場合を考えてみよう。
バリスティック・ソフトウェアによれば50m地点でのブレット・パスは6.57cm、ドロップはマイナス2.01cmだ。
これはレティクルの中心を50m先の標的に合わせた場合、6.57cm高い位置に当たるということだ。
50mの1MOAは14mmだ。6.57cmは、約4.7M.O.A.となる。Nightforce NP-R2レティクルの上下方向の1目盛りは2 M.O.A.である為、中心から上2つ目のハッシュ・マークの少し上に着弾することがわかる。
100mならどうなるか。ブレット・パスは9.24cm、1M.O.A.は28mm、すなわち3.3M.O.Aとなり、概ね上1つ目と2つ目のハッシュ・マークの中間やや下に着弾する。
300m射撃ではブレット・パスはマイナス32.12cmだ。300mの1M.O.A.は84mmである為、3.8 M.O.A.,すなわち2つ下のハッシュ・マークやや上に着弾する。
もちろんこれらは理論値であり、気温、湿度、海抜の違いといった変動要素があり、さらには銃の個体差によって大きく変わってくる。変動要素はともかく、実際に撃ってみた結果と、バリスティック・ソフトウェアの値の差を確認し、ハッシュマークを用いた調整ポイントを覚えておけば、距離が変動した場合にも、エレベーション・ダイアルを調整することなく、着弾点の調整は概ねできる。
もちろんスコープのエレベーション・ダイアルをクリック調整しても良い。しかしターレットに手を伸ばす時間的余裕がない時は、レティクルだけが頼りだ。
エレベーション・ダイアルを回して調整する場合は、100mでダイアルを1に合わせて置き、何mだとダイアルの何番と何目盛とするかを把握しておくと良いだろう。
ターゲット用スコープの場合、ダイアルカバーが無いものが多い。ハンティング用スコープの場合、いったん設定してしまうと、エレベーション、ウィンデージ共に動かすことはほとんど無いと考え、スクリューキャップがかぶせてある。これだと、急遽動かしたいときに、キャップを外す手間が掛かってしまう。

レティクルのハッシュ・マークに頼った距離調整法は概ねのImpact pointを示すだけで、正確に撃とうとする場合は、ダイアルを回し、ずばりセンターで狙えるようにすべきだ。
風の影響も当然ある。風向きと強さでどれだけ補正すべきかの判断が必要だ。これは経験がモノをいう。
自分のイメージでは、Nightforce NXS NP-R2のハッシュマークは、上下方向の1目盛を100mで5cm, 左右方向で15cmとして捉えている。実際には56mmと140mmであり、それぞれ6mm, 10mmの差があるが、誤差の範囲内だ。
さて、角度が付いたとき、弾道はどうなるだろうか。Fig.2は仰角の場合の弾道だ。Fig.1をそのまま回転させた形に近い。

角度をつけてもホリゾンタル・アクシズ(Horizontal axis)は、そのままだが、弾道を表す際のホリゾンタル・アクシズに角度が付き、これはロテテッド・ホリゾンタル・アクシズ(rotated horizontal axis)と呼ばれる。ロテテッド・ホリゾンタル・アクシズとライン・オブ・サイトの交差する点は変わらない。 仰角にすれば、弾道は延びる。しかしボア・ラインより上に伸びることは無い。ライン・オブ・サイトとブレット・パスの交差する点は当然変わる。
角度が付けば、銃口からターゲットまでの距離は伸びる。Fig.3の直角三角形を考えれば判る。角度30度の直角三角形の場合、ラインAとラインBの関係は1対0.866だ。この角度で撃つ場合、シューターから直線距離で300m先にあるターゲットまでの水平距離は、259.8mというわけだ。わずかな角度ならほとんど問題はないが、角度30度となると、これだけの差がある。
弾丸をドロップさせる要因は空気抵抗と地球の引力である。引力だけを考えた場合、30度上方にある標的までの距離は直線距離の300mではなく、260mだということになる。
シューターが着弾点の調整をおこなう際に考える事は、自分の銃と弾薬の持つ弾道(ballistic)を射撃距離に当てはめ、どれだけ上下方向の調整を行うべきかと、風の強さと方向である。
斜め上方の標的を撃つ際には、その標的の方向に銃を向けるべく角度を付けることは言うまでも無い。その上で、考慮する射撃距離は、標的までの水平距離である。弾丸は斜めに飛ぶが、地球に対しては水平距離しか離れていないというわけだ。
ここでライフルマンズ・ルールが登場する。角度を付けて撃つ場合の射撃法である。三角関数を使用する。文系の仕事、生活をしていると三角関数は学校で学んでから、1回も活用する機会が無かったかもしれないが思い出して頂こう。
Fig.3の直角三角形で、ラインAを1とするとラインBは1cosθとなる。これだけだ。
標的までの距離Xは目視で推測する。あるいはレンジファインダーで正確に測定する。標的までの角度、すなわちホリゾンタル・アクシズ(horizontal axis)とロテテッド・ホリゾンタル・アクシズ(rotated horizontal axis)の角度を認識しよう。器具を使って正確に測定できればそうすべきだが、この角度については推測することになる場合が多いだろう。
すると直線距離Xと角度θが判った。正確言えば、“推測した”。三角関数を使用すれば、標的までの水平距離Yが出る。Y=X×cosθだ。関数は関数電卓があれば簡単だが、いつも関数電卓をもって射撃をするわけではない。
関数は5度単位で覚えてしまおう。Cos10=0.98 , Cos15=0.97, Cos20=0.94, Cos25=0.91, Cos30=0.87, Cos35=0.82, Cos40=0.77, Cos45=0.71, Cos50=0.64, Cos55=0.57, Cos60=0.5
小数点以下二桁は四捨五入しても良いだろう。
丘の中腹に鹿を発見した(あるいは、建物のバルコニーにテロリストを発見した)。自分の位置から25°上方に鹿(テロリスト)がいる。距離は約130mと目測した。三角関数を用いて水平距離を算出する。Cos25は0.91、だから四捨五入して0.9だ。130m×0.9、水平距離は約117mとなる。
すなわち実際の直線距離は130mだが、水平距離では117mしか離れていないということになる。
さあ、自分の銃のバリスティックを思い出そう。200mでゼロインしている。117mなら100mに大して違いは無い。それなら約9cm上だ。スコープの狙点を少し下げよう。
これがライフルマンズ・ルールだ。
実際には、もう少し正確に着弾修正点を出す方法も、ライフルマンズ・ルールでは謳っている。
角度25°の直線距離130m、これを水平距離117mと三角関数ではじき出すまでは同じだ。
130mのブレット・パスは8.61cm、100mでは9.24cmだ。直線距離130mだが水平距離は113mであった。
ここから以下の数式でドロップ量を算出する。
8.61×(117m-100m)+9.24cm×(130-117)
130m-100m
答えは8.88cmとなる。でも、こんな計算はちょっと暗算では難しい。鹿(またはテロリスト)が、どこかに行っちゃうかもしれない。
しかし、そもそもこのライフルマンズ・ルールは正確なのだろうか?
バリスティック・ソフトウェアのデータと比較してみよう。
口径308, Sierra 150gr.HPBT Matchking 2,700fpsを先ほどと同一条件で25°の角度を付けて撃つと、直線距離130mのbullet pathは9.94cmとなっている。先ほどの8.88cmとは微妙に違う。しかしその差は1.06cmだ。ISSF100m標的のXポイントの大きさより小さな値だ。
もし傾斜射撃であることを無視して、130m射撃の水平射撃時のbullet pathを適用すると・・・8.61cmだ。
な〜んだ、あまり差が無いじゃないか。
ならばもっと大きな差が出る状況を想定してみよう。
小高い丘の中腹に鹿(離れたビルの一室の窓に狙撃銃を持ったテロリスト)を発見、直線距離で目測300mだ。射撃角度は40°
三角関数で直線距離を割り出そう。229.8m、すなわち230mだ。その差なんと70mもある。今度は差が出るだろう。
水平射撃での300mのブレット・パスはマイナス35.52cmだ。230mでのブレット・パスはマイナス7.02cmだ。この差は大きい。
バリスティック・ソフトウェアで角度40°とした場合、マイナス12.28cmと出た。ライフルマンズ・ルールよりドロップしている。もし水平射撃と同じと考え35.52cmも修正したら上を撃ってしまう恐れもあった。だからライフルマンズ・ルールは無意味ではない。

30°の仰角、俯角射撃のブレット・パスと水平射撃のそれを比較したものがFig.4だ。プラス30°をグリーン、マイナス30°をレッド、フラットをブルーで表示している。実際の弾道ではなく、同一方向にして重ね合わせた結果だ。仰角も俯角もブレットパスはほとんど同じだ。実際の角度で示すとFig.5になる。
できることなら、射撃時にモバイルPCを携帯し、距離と角度に応じて修正値をだすことが理想だ。しかしそれは現実的ではない。PDAなら持ち運びは楽だ。だが現在、日本ではPDAは人気がない。私もかつてはPalm OSのPDAを仕事で愛用していたが、使用するのをやめてしまった。以前、ここで紹介した5.11Watchでもある程度の計算ができる。
しかしだ、そもそも、猟場(実戦)でPDAや腕時計に数値入力をする時間はあるだろうか?
また関数計算をしている余裕もあるだろうか?
一般論として、角度をつけた場合、弾道は上に上がる(ドロップ量が少なくなる)。これは仰角でも俯角でも同様だ。やはり主だった数値を覚え、あとは経験と感で補正することが一番理想的だ。
それには、レティクルに刻まれたドットやハッシュ・マークが役に立つ。
この経験と感を身に着けたとき、“単なる的撃ち屋”から脱却して、射撃のエキスパートに1歩近づくことができる。

Satoshi Maoka
March 1, 2007
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