Mauser SP66 Sniper Rifle

 現在、市場にあるボルトアクションライフルのほとんどは、19世紀末に開発されたマゥザー(Mauser:モーゼル)98をベースにしたものだ。このことはボルトアクション・ライフルを語る際に繰り返し、述べられて来た。
 もちろんマゥザー98以降も、新たなるメカニズムのボルトアクションがいくつか登場している。しかし、それらは例外的なもので限定的に使われているに過ぎない。100年経過しても、これにとってかわるメカニズムが生み出されなかったわけだ。
 マゥザー98を凌ぐ新しいアクションを開発する試みはマゥザー自身もおこなっている。それが1965年に登場した66アクションだ。

                    Mauser SP66 Sniper Rifle 

 ここで目指したのは究極の精度だ。銃、特にライフルである以上、精度の向上は永遠のテーマである。わずかであっても、精度を上げることができるなら、それは大いに価値がある。
 66アクションはボルトを小型化した。短いボルトには、短くて軽いファイアリングピンが収まる。ファイアリングピンを軽くすれば、それが前進した際に起こる振動は小さくなる。もともとボルトアクション・ライフルのファイアリングピンはそれほど重いものではない。振動もごくわずかだ。しかしそれを少しでも軽くすることで、バレルに与える振動をさらに小さくすることにした。
 短いボルトは必然的にその動作ストロークが短くなる。発射済みのケースをチャンバーから引き抜き、長いライフル・アモをチャンバーに送り込むには、短いボルトでは不十分だ。マゥザーはこの問題を解決する為に、レシーバーを可動式にした。
 通常レシーバーはボルトの外装部の役目を持ち、動くことはない。M66アクションのボルトを一番後ろまで引くと、こんどはこの可動式レシーバーが後部にスライドし、ボルトの動作ストロークの不足を補うことになる。いわば2段式のオペレーションだ。

 1970年代、ヨーロッパで吹き荒れたテロは、西ドイツ警察の装備と組織を大きく変えた。この時代に関することは、“ドイツ警察拳銃ヒストリー chapter 4 テロの嵐, 1970年代”で詳しく述べているので、興味のある方はご参照頂きたい。
 テロとの戦いは警察ピストルを32ACPから9mmパラベラムへ強化し、GSG9をはじめとする対テロ特殊部隊がドイツ国内に創設された。
 特殊部隊の創設のきっかけは、1972年9月2日、ミュンヘン・オリンピックでPLOとパレスチナゲリラで組織されたテロリスト“黒い9月”が起こしたイスラエル選手団人質事件にある。
 グレンツ・シュッツは7名のテロリストを同時に狙撃することに失敗、生き残った3名のテロリストにより、9名の人質全員とドイツ人パイロットは殺されてしまった。
 同年同月、西ドイツ国境警備隊(ブンデス・グレンツシュッツ)の中に志願者を集めてGSG9(グレンツ・シュッツ・グルッペ9)が創設された。
 人質救出作戦をおこなうには、状況の変化に対して適切な判断ができ、確実に患部(テロリスト)を排除(射殺)できるまでの訓練と、それを実現できる高性能ウェポンを装備することが重要だ。その中で狙撃ライフルの重要性は非常に高まった。ミュンヘン・オリンピックでの失敗は正にそこにあったからだ。
 ドイツは各メーカーにスナイパーの開発を打診、この時のソリューションとして登場したものがWA2000, PSG-1、SSG2000などがある。そしてマゥザーは66アクションを用いて66SPを開発した。
 どうもヨーロッパは狙撃と競技とをあまり明確に区別していないようだ。狙撃のチャンスは1度しかない場合が多い。初弾を外してしまったら、テロリストは瞬時に反応し、人質を射殺してしまう。あるいは自爆してしまうだろう。
 セカンドチャンスは無い。だからスナイパーライフルには究極の精度を求めることになる。ミスが許されないのは競技も同じだ。たった1発のミスで順位は大きく変わる。 違いがあるとしたら、競技は試射ができるが、狙撃はそれができないことだ。
 究極の精度を求めたスナイパーライフルは競技用ライフルと非常に似てくる。もちろんいくら精度を上げても外す要素はたくさんある。風向きと強度、気温、湿度、射角…、それらを読み違えれば正確な1弾を放つことは難しい。これらは訓練と経験によって身に付けるしかない。
この66SPはまさに当時の競技用ライフルに限りなく近い。チークパッドやバット・プレートが動くこのストックは、競技用そのものだ。事実、1973年、マゥザーはSP66とほぼ同型のモデルを66Super Match射撃競技専用銃として発売している。
 アメリカの視点で見た場合、この種のスナイパーライフルは異様なものとして写る。狙撃と競技とは全く違うものというのがアメリカの感覚だ。
 競技は射撃場という特殊空間でおこなわれる。所定の場所(射座)近くに車を止め、そこに装備を運び込む。最適なセッティングになるまで時間を掛けて調整することができる。それには試射も含まれる。バットプレートやチークピースを動かし、試射を繰り返してサイト調整をおこなう。
 スナイパーにそんな余裕は無い場合がほとんどだ。狙地点まで徒歩で移動することも多いだろうし、場合によっては過酷な行程を経て、そこにたどりつくこともあり得る。大きく重いスナイパーライフルは失格なのだ。
 アメリカのスナイパーライフル M24, M40はバーミント・ライフルに限りなく近い極めてシンプルなものだ。高い精度を持ちつつ、過酷な環境で使えることを目指しているが、それは狩猟用バーミント・ライフルと大きな差はない。
 ドイツの各メーカーが1970年代に開発したスナイパーライフルPSG-1, WA2000, SSG2000、そしてこの66SP、いずれも実に凝った作りだ。重くて可動部が多く、使い勝手よりも精度を最優先にした競技用ライフルに近い。
 どちらが正しいかどうか、その結論はここで述べるべきではないだろう。結論は使用者が決めることだ。
 ただドイツの一連のスナイパー・ライフルは軍用ではなく警察用として考えられたということも考慮しなくてはならない。警察用スナイパーライフルは軍用と比べてて過酷な条件で使用することは比較的少ない。

 M66SPは当時ドイツが開発したスナイパーライフルの中では比較的シンプルなものだ。WA2000, PSG-1は共にセカンドチャンスを得ることを目指して、セミオートとした。一方、マゥザーはターゲットを外してしまったなら、セカンドチャンスなどあり得ないと判断、もっとも容易に精度を得られるボルトアクションを選択した。
 ボルトアクションはマゥザーの伝統であり、98で確立したボルトアクションの技術をさらに進めることにマゥザーの技術者は挑戦したかったのかもしれない。
 ショート・ボルトと可動式レシーバー、これはいかにもドイツ人らしい凝ったものだ。操作性は通常のボルトアクションと大きな差はない。ボルトハンドルに位置が前方にあり、慣れないとすこし違和感はある。
 ボルトハンドルが前方にあるのは、ハンドルをボルトに取り付ける際に、通常のボルトアクションではボルト後部にハンドルが付いているのに対し、この66アクションはボルトの前部、ロッキングラグ近くに取り付けたからだ。これはより素早いボルト操作ができるようにするための配慮と考えられる。
 通常、シアはロゥアーレシーバーのトリガー上部に配置される。66アクションはマガジンをその位置としている。これはアクションの全長を短くするためだ。その結果、シアとマガジンは位置が重なってしまった。マガジンは細く作らざるを得ない。
 さらにその下部にはトリガーが配置されている。したがってマガジンを着脱式にすることもできず、また長さを延長することもできない。
 結果としてマガジンは固定式のシングルとなり、装弾数はマガジン内3発となった。セカンドチャンスはあり得ない、と割り切っている以上、3発入ればじゅうぶんだと考えたのだろう。
 66アクションを搭載したマゥザー66ライフルは、口径の変更が容易なライフルとして登場した。ボルト、バレル、マガジンユニットを交換することにより458Win, 375H&H Magnum, 300Win.Magnum, 30-06, 308, 7mm Rem.Magnum, 270Win, 243win, 5.6mm×57, 5.6mm×61などに幅広く変更することができる。
 SP66スナイパーライフルはその中で300Win.Magnumと308で構成された。

                Mauser SP66 with Carl Zeiss AN/PSV4
 スコープはカール・ツァイス(Carl Zeiss)ディアバリ(Diavari) ZA 1.5-6×42が装備されている。このスコープの上に、Norma製のレーザー距離測定器Telerangerを載せたものも供給された。ターゲットまでの距離を正確に知ることは、射撃をおこなう上で極めて重要だ。レーザー光線により距離を測定し後部の表示板にデジタル表示される。
 また夜間射撃に際してはDiavari ZAスコープを外して、パッシブ暗視スコープを装着することもできる。用意された暗視スコープはCarl Zeiss AN/PSV4だ。
 夜間の狙撃を重視したのは、ミュンヘン・オリンピック・テロ事件の教訓から来ている。狙撃は条件の悪い状態でおこなわれることが多いからだ。
 スコープマウントはのちに、NATO STANAG2324となり、様々なスコープに対応できるようになった。

 ショート・ボルトによる軽量ファイアリングピンというアイデアは決して悪いものではない。しかし従来型のボルトでも新しい素材で同じ効果が実現されるようになった。ファイアリングピンをチタン(Titanium)で作れば、従来のものより軽くなる。既存のモデルに対して軽量化されたファイアリング・ピンはアフターマーケットパーツとして販売されている。
 果たしてそれがどれほどの効果を上げているか。この世界は“信じるものは救われる”というレベルの話は多い。これは、悪影響を及ぼさない限り、信じて使えば御利益はある…かもしれないということだ。少なくとも悪いことにはならない。良くもならないかもしれないが、少なくとも精神的な満足感を得られる。チタンのファイアリングピンはまさにそういうレベルのものだ。

 マゥザーの66アクションは、98アクションにとって代わることは無かった。マガジンの配置やレシーバーの強度低下という問題があり、広まる事は無かったのだ。
 マゥザーが66SPの後継モデルとして開発したM86では、このショート・ボルトは継承されず、コンベンショナルタイプのボルトとなった。さらにM93スナイパーライフルもボルトのデザインはコンベンショナルになった。これは66アクションに大きなアドバンテージがなかったことを意味する。

                       Mauser 93SR

 マゥザーは戦後、1954年に復活。1965年には66アクションを放った。またパラベラム・ピストル(通称ルガー・ピストル)、HScピストルの再生産を開始したが、ビジネス的に大きな成果をあげることはできなかった。
 1995年にはラインメタル(RHEINMETALL GROUP)により一時、買収された。現在、マゥザーという会社は生き残ってはいるが、かつての栄光を取り戻すことはできていない。
 66アクションは過去のものとなってしまったが、98のデザインにしがみ付くことなく、新しい試みにマゥザーが挑んだことは決して無駄ではなかったと思う。挑戦することを忘れた企業に、未来は無いのだから。

Satoshi Maoka
Nov.17,2004

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