Hearing Protection 聴力保護
2005年9月25日掲載 9月27日,28日修正
音、騒音、周波数等に関して、技術的な事は私にとって全くの専門外です。しかし、射撃をおこなう際に、必然的に接するものとして、銃の発射音があります。通常は耳を覆いながら射撃を楽しむわけですが、その発射音はどのような特性を持ち、私達シューターは、耳をどのように保護しているのかに興味を持ったことから、このレポートをまとめました。付焼刃の知識ゆえ、部分的には間違った記述もあるかもしれません。その場合はご指摘、ご教授頂ければ幸いです。
繰り返し射撃音など大きな音をナマで聞く生活をしていると(硬い言葉で言えば、「慢性的に騒音に晒されていると」となる)、段階的に難聴になり、日常生活に障害が出る。これは騒音性難聴と呼ばれるものだ。
騒音性難聴とは別に、爆弾の爆発や急激な気圧の変化、頭部への外傷といったことによって瞬時に難聴になるものを災害性難聴(音響外傷)という。また、騒音性難聴が進行するうちに突発的に難聴となるものを騒音性突発性難聴という。
騒音性難聴となる過程は、騒音の音圧レベル、周波数、衝撃性および騒音発生時間によって異なる。銃声(大きな音の音楽・機械音・騒音等でも同じだ)に長期間連続して接していると、ある周波数に対してまったく聴こえなくなる部分聴力損失が起きる。
人間の耳は受音する器官が周波数ごとに分かれており、これらの受音器官の情報を脳でまとめて総合的な音として認識する。
部分聴力損失が起きるのは、特定の周波数を受ける受音器官が破壊され、部分周波数欠落が起きるからだ。これの積み重ねが騒音性難聴だ。一般的には4000Hzを中心とした高音域の聴力損失 が最初に現れる。日常会話音域は500〜2000Hzであるため、初期の聴力低下は自覚がない。
そのまま騒音に晒される生活が継続されると、4000Hzのみならず2000Hz、 1000Hzにおける聴力も低下し、日常生活に支障をきたすようになる。
難聴になる要因は騒音だけではないが、騒音はもっとも一般的な要因だ。耳を鍛えること(騒音に対する耐久力を上げること)はできない。騒音性難聴を治療することも現在のところ不可能だ。
かつて銃を射撃する際に耳を保護するということは、あまり考慮されていなかった。実戦では、それが攻撃であれ、防衛であれ、いちいち耳栓をする余裕はない。さまざまな音を聞くことも、戦いの場では勝つ為に必要な要素だ。耳栓をしていては、後ろから密かに迫る敵を認識できない可能性が高い。
実際の戦闘の場合、銃の発射音などほとんど気にならないらしい。平常時には、鼓膜を直撃する強烈な発射音も、殺されるか生残れるか、という状況にあると、そんなことは気にならないというわけだ。もちろん気にならないだけであって、耳へのダメージは同じだ。
狩猟においても音を聞き分ける技術は、獲物を獲得する為に必要なものだ。だから耳栓をする発想が生まれなかったのだろう。
狩猟で、獲物を倒したときは銃の発射音など気にならないと、あるハンターから聞いた。ある種の興奮状態というわけだ。ところが、撃った弾が外れてしまったときは、発射音の衝撃で耳鳴りがするという。戦場での発射音と同様、精神状態の違いで、同じ音でもかなり違いが生じる。
銃の発射音から耳を守る為の耳栓は、第二次世界大戦前に登場し、一部では使用されていた。綿の繊維にワックス処理をしたものが昔の耳栓だ。そのほか、ゴムやエボナイト、アルミニュームなどを使った耳栓もあった。
本格的に耳栓の研究が始まったのは戦後の事で、1955年に日本工業規格(JIS)で耳栓が制定された。これはアメリカのASA(American Standards Association)規格より、2年も早い。
その後、慢性的に射撃音を聞いていると難聴になる、という認識が徐々に定着していき、射撃練習や射撃競技の場においてはイヤープロテクターや耳栓が使われるようになった。現在は軍も耳に差込む形の小さな耳栓を支給している。
音の定義
空気の振動が音波(elastic wave)となって、聴覚に伝わる。それが音というものだ。より厳密に言えば、ある振動が、空気中の粒子を動かして分散伝搬して、人間の聴覚に達した後、骨や神経を通じて、脳に信号を送る。脳はそれを音として感じる。この空気中の粒子が音を伝える媒質であり、真空中ではこの媒質が存在しない為、音は聞こえない。
音は温度や風によって微妙に変化する。風が吹けば、風下に流れる。風に乗って、思いのほか遠くの音が聞こえることがある。夜と昼とでは音の伝わり方が違う。夜の方が音は聞こえやすい。
硬い素材に音(空気の振動)がぶつかれば、反響音となる。
屋内と屋外とでは射撃音の聞こえ方はかなり違う。開かれた屋外で聞く発射音は周囲に広がっていく音だ。屋外といっても、反射する物があれば反響音にもなる。しかし室内で聞くと、壁にぶつかって何回も反射して、音質が劇的に変わる。
ちなみに雪が深く積もった場所で射撃をすると、音が雪に吸収され、反射増幅が起こらず、まったく違う音になる。

上左:Peltor Tactical 6 上右:Peltor Ultimate 10
中左:Silencio DHP-10 Beretta Model 中右:6種類のear protector すべて私物だ
下左:Peltor Shotgunner 旧型 下右:Peltor Shotgunner AO Safety モデル(新型) 現在、Peltorの射撃用モデルはAO Safetyが扱っている。
周波数
音波は縦波となり、進行方向に対し往復運動する。この振動が1秒間に往復する上下運動の単位を周波数(frequency)と言い、単位はHz(ヘルツ)を用いる。この名前は電磁波の存在を実験で立証したドイツの物理博士 H.R.Herzから来ている。
周波数(振動数)の多い音は、高く聞こえる。少なければ低い音として聴こえる。人間が耳で聞き取れる音は、年齢差や個人差があるが、一般的に20Hz〜20,000Hzといわれている。聞き取りやすい周波数は3,000Hz〜4,000Hzで、低い周波数は聞き取りにくい。年齢が高くなると高周波帯域が聞こえにくくなる。
人間の話し声は概ね80Hz〜4,000Hzだが、イルカの声は7,000Hz〜120,000Hzだ。すなわちイルカの声の大部分は人間には聞こえていない。
銃の発射音は口径や銃の種類にもよるが、150Hz〜2500Hzだが、問題となる騒音レベルは500Hz以下(C特性音圧レベルでの場合)とされている。
デシベルdB
音の力を表す単位として、dB:デシベル(decibel)がある。“d”はデシ(deci),1/10を意味する。 “B”は磁石式電話機を発明し、有名なベル研究所の基礎を作った米国の発明家 グラハム・ベル(Alexander Graham Bell)の名前からとった略称だ。
デシベルとは、2つの量を比較したときの比の大きさを、常用対数で圧縮して表した次元のない単位だ。
なぜ音の大きさを表す際にこのような単位を用いるのかといえば、「人間がある刺激を受けた場合、その絶対値に比例した感覚が生ずるのではなく、受けた刺激の対数に比例する感覚が生ずる」というウェーバ・フェヒナ(Weber-Fechner)の法則から来ている。つまり人間が耳で聞く音は、デシベル表示すると人間の感覚量にぴったり合うのだ。
言葉を変えると、人間の耳が感じる音の大きさと、物理的に計測した値とはかなり違いがある、ということだ。人間は大きな音に対して、圧縮して聴くように耳を補正する。
実際には、個人個人での聴覚の差と,心理状態の差も違いとなって表れるが、これは表現のしようがない。
とにかくデシベルは対数によって表示される。デシベルと倍率の関係を以下に示す。
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倍率
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dB(A)
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| 1,000,000,000 |
180dB(A) |
(10億倍) |
| 100,000,000 |
160dB(A) |
|
| 10,000,000 |
140dB(A) |
(1千万倍) |
| 1,000,000 |
119dB(A) |
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| 100,000 |
100dB(A) |
(10万倍) |
| 10,000 |
80dB(A) |
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| 1,000 |
60dB(A) |
(千倍) |
| 100 |
40dB(A) |
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| 50 |
33.98dB(A) |
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| 20 |
26.02dB(A) |
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| 10 |
20dB(A) |
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| 5 |
13.98dB(A) |
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| 1 |
0dB(A) |
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大まかにいえば、0dB(A)は人間が聞くことのできる一番小さな音、イメージとしては雪の降る音だ。30dB(A)はささやき声、静かな図書館の中、60dB(A)は普通の会話、100dB(A)は電車が通るガード下、ジェットエンジン近くが120dB(A)、銃声は140dB(A)となる。180dB(A)は雷鳴だ。
銃声は雪の降る音の1千万倍の音、雷鳴は雪の降る音の10億倍だ。 これらを表すのに8桁や10桁もの数字を使う。それではあまりにも不都合なのでdB(A)という対数で表すともいえる。
但し、これは常用対数とも自然対数にも適合しない。人間の耳は、周波数によって聞こえ方が異なる。騒音レベルを表すには、聴感補正が必要だ。この補正はA特性、B特性、C特性とがあり、騒音計はこの何れかの補正回路(周波数補正回路)を有する。ここに挙げたdB(A)はA特性の補正をおこなったものだ。倍率の値を示しているが、これはあくまでも目安であり、正確なものではない。
イヤープロテクター
慢性的に射撃音を聞いていると難聴になる、という認識が定着する以前は、多くのシューターが耳栓をすることなく射撃を行っていた。射撃場は基本的に屋外だったということもあったのだろう。その結果、難聴になった射撃愛好家は少なくない。
たとえば、あるシューターは小さな電子音が聞こえない、という。デジタル時計の小さな時報やアラーム音(440Hz程度)が聞こえないのだ。さすがに携帯電話の呼び出し音になれば聞こえる。いわゆる“部分聴力損失”だ。その段階でイヤープロテクターを装着するようになった為、そのレベル以上、進行しなかったが、そのまま射撃音に晒され続けたら、騒音性難聴になっただろう。
南部銃の開発者、南部麒次郎氏は、晩年、ほとんど聴力を失っていたらしい。騒音性難聴が進行した結果だろう。
1960年代以降、多くのシューターがイヤープロテクターを使用するようになった。完全に定着したのは1970年代になってからだ。
イヤープロテクターのメーカーとしてはPELTOR, SILENCIO, Pro Earsなどがある。日本ではPELTORがもっとも普及していると思う。
イヤープロテクターの構造は極めて単純なものだ。プラスチック製のカップがあり、耳周辺にピッタリ付くパッドがある。そしてその中にスポンジが入っている。これを左右の耳に装着できるよう、ヘッドセットがある。ただそれだけだ。パッドが耳周辺部へ柔らかく密着し、カップの側面がプラスチックで出来ているので、空気の振動(音波)が緩和され、耳を直撃することがない。また内部のスポンジがさらに振動を緩和する。
一番効果の大きいものはスポンジだろう。多孔質の減音材料だ。もう少し、特殊な素材の原音材料を使用しているのかと思ったが、実態はごく普通のスポンジだった。

PeltorのShotgunnerを分解してみた。カップ、スポンジ、パッド。これが全てだ。
音のエネルギーが一定の物にぶつかって通り抜ける際、その物によって減衰させられる数値が透過損失(TL)で、減音性能を示している。単位はやっぱりデシベルだ。
製品にはNRR(Noise Reduction Rate)と表示している。-21dB となっている場合、そのイヤープロテクターを使用すれば21dB(A)分だけ、音を減衰できる、という意味だ。
発射音が140dB(A)であったならば、-21dB(A)で119dB(A)となる。
わずか21dB(A)では大した差ではないように見えるが、dBは対数なのだ。前述の表をご覧頂きたい。−21dB(A)下がることで音は1/10となっている。
また空気の振動についても、カップやスポンジで耳が守られているので、鼓膜への直接的な衝撃はない。85dB(A)以上の環境に連続的に晒されていると、聴覚障害が起きやすいが、銃声は散発的に発生する騒音であり、-20dB(A)程度でも問題はない。

上:Peltor Tactical 6(左)とPeltor Shotgunner(右) Tactical 6Sはマイク等を内蔵する為、下が膨れている。Shotgunnerは逆に上が膨らんでいて、下が薄い。 Tactical 6SはNRR -19dB(A), Shotgunnerは-21dB(A)だ。
下左:Silencio DHP-10 Beretta Model 日本国内では販売されていない。1990年代後半、SanFranciscoのGun Exchangeで購入したもの。当時、Colt, Glockなど数社のLogoがついたmodelが販売されていた。現在、SilencioではブルーのBeretta modelと、RedのRuger modelが販売されている。NRR -29dB(A), 下右:Peltor Ultimate 10 カップが分厚く、減音性能を高めたもの、NRR-30dB(A) この分厚さが減音能力の違いとなって表れる。 
PeltorのTactical 6SとShotgunnerはヘッドバンド部に本体を収納することができる。こうすればコンパクトになり、射撃場への荷物を小さくできる。同じShotgunnerでもBehind the headモデルはコンパクトに収納できない。
間違ってイヤープロテクターなしで射撃をしたことがある。長瀞射撃場の300mレンジでのことだ。その日は試合で、私は第一射群(その日に射撃をする最初のグループであったという意味だ)だった。すなわち自分達が撃ち始めるまで誰も撃たないので、自分がイヤープロテクターを着けていないことに気付かなかった。
プローン・ポジション(伏射)で射撃開始の合図と共にチャンバーに223Remingtonを送り込んでボルトを閉じた。そしてトリガーを引いた。
その瞬間、両方の耳に衝撃が走った。感覚的には、両方の耳から細いニードルを脳に向けて音速で突き刺されたような感じだ。
私の銃口から飛び出した音が、長瀞射撃場の左右の壁面に当たり、反射して音速で鼓膜に突き刺さってきた。同時にキーンという強い耳鳴りが起こり、事態を瞬時で把握した自分は、慌てて銃を肩から外し、射撃用スリング・スィベルのロックレバーを押して連結を解除、飛び起きて後ろのテーブルに置き忘れたイヤープロテクターを引っつかみ、耳に装着した。慌てた理由は、他の9人のシューターが射撃すれば、同じように射撃音が耳を直撃するからだ。耳鳴りはその後、5分程度、鳴り止まなかった。
長瀞の300mレンジは、標的のある部分は屋外だが、そこに至るまでの約280mが細長い室内だ。壁はコンクリートで固められており、吸音する要素はほとんどない。
ロマン・ポランスキー(Roman Polanski)監督の映画「戦場のピアニスト(The Pianist)」をご覧になったことがあるだろうか。ナチス占領下のポーランドで生き抜いたユダヤ人ピアニスト、シュピルマンがアパートに潜伏中、砲弾が近くで炸裂した瞬間、映画の中でそれまでの音はすべて消え、キーンという耳鳴りの音に切り替わった。これはシュピルマンの耳で聞こえる音を映像の中で表現したシーンだ。間近で起こった爆発で、短時間聴力を失ったシュピルマンが、強い耳鳴りが響く中、必死にアパートから脱出する。
長瀞で経験した耳鳴りはそのシーンを思わせるほど強烈だった。私はセンターファイア・ライフルを撃つとき、常にイヤープロテクターを装着している。生の射撃音に接する事はなく、実際,その時が最初の経験だった。不慣れな上に突然の衝撃だったので、ショックも大きかったのかもしれない。もしあの発射音を聞いて、波動が鼓膜を直撃しても、涼しい顔をして平気でいたなら、それはずいぶん、不健康な話だと思う。既に書いたように耳は鍛えることはできない。あの半室内射撃場で繰り返し、射撃音を聞いていたら、騒音性難聴になることは間違いない。
イヤープロテクターを装着していても、他のシューターと会話ができる。もちろんNRRにしたがって、減衰されているため、聞き取りにくいがなんとか会話はできる。
この会話をもっと聞き取りやすいものにしたのが、イヤープロテクターにマイクとレシーバー、アンプを組み込んだ製品だ。開発のキッカケは、実戦の場でイヤープロテクターを装着したいが、会話が出来ないのはオペレーション上、困るということに発している。だからこの手の商品は、一般的にTacticalモデルという名称がつけられている。
これは会話を含む日常生活の音をマイクで拾って聞こえるようにし、射撃音などの騒音はカットしてしまうものだ。装着したまま、スイッチをON, OFFにしてみると良くわかるが、効果はじゅうぶんある。これを使用していると、会話等が楽になる。

Peltor Tactical 6S 左右のカップ内に同じ構造のものがある。単4電池を2個づつ入れて、スイッチをOnにすると、会話などの音声を取り込むことができる。但し、特別大きな音で再生するわけではない。アルカリ単4電池を使用した場合、連続20時間動作する。
仰々しいイヤープロテクタではなく、単なる耳栓でも使えないことは無い。ライフル射撃にはイヤープロテクター式であるべきだが、クレー射撃なら耳栓だけでも構わないだろう。
耳栓といっても、ピストルの空薬莢を耳に詰める方法はほとんど効果がない。へッドスタンプを外側にして差し込んだ場合、ヘッドスタンプ部分に加わる圧力で、内部の空気が衝撃を受けて、鼓膜にその衝撃が届く。
逆にしてヘッドスタンプを内側にして差し込んだ場合は、圧力が薬莢底部に掛かり、耳内部の空気を振動させ、やはり鼓膜に衝撃を与える。
スポンジ状のものを耳に詰めることは有効だ。とにかく耳栓は金属であってはならない。

耳栓2種: 左のMack's Ear Plugは図にあるように、耳に挿し込むのではなく、パテ状にして、耳穴を塞ぐ。これでNRR-22dBだ。右は従来からあるスポンジ状の耳栓。耳穴に挿し込む形式だ。
現在はActive Noise Control(ANC)という技術がある。ANCとは、「動的に騒音を除去する」という意味だ。
マイクで取り込んだ騒音の波形を分析し、それに対して逆位相の波形の音を出せば、騒音を打ち消すことができる。
第二次世界大戦前からこの技術は理論的に存在したが、逆位相の波形を作り出すことが難しく実用化できなかった。
1978年、ボーズ博士(Dr. Amar G. Bose)により、研究がスタート、1985年にプロトタイプが完成、アメリカ空軍のテストを受けた。航空機の騒音をキャンセルしながら、無線連絡や通常の会話が快適にできるというものだ。結果としてBoseの製品は軍に採用され、空軍のみならず、軍用車両のクルーもBose Combat Vehicle Crewman Headsetを使用している。またモータースポーツの分野でも、その快適な使用感から採用が広がっている。そして市販されたものが、Aviation Headset X(AHX)だ。このAHXはその後改良されてAHX2となった。民間航空機でも、エクゼクティブ・クラスの乗客用として、このAHX2を装備している航空会社もある。飛行中、機内に伝わる低周波のエンジン音を消し、快適な空の旅を楽しむための装備だ。
AHX2は市販価格¥126,000-(税込み:US list price $995)という高価な製品だが、現在ではこの技術を使用した民生用ヘッドホンBose Quiet Comfort2が販売されている。この製品は\41,790-(税込み:US list price $299)だ。
航空機やF1の騒音を消す快適なヘッドフォンなら、銃の発射音も消せるかもしれない。そう思ってBoseに問い合わせしたところ、この技術は「一定の音量で連続して発生しつづける低周波騒音」(いわゆる暗騒音)に対して大きな効果を発揮し、それ以外の突発的な騒音に対してはノイズ・キャンセリング機能が働かないという返事だった。
期待していたので、ちょっとがっかりだ。Quiet Comfort 2ではダメでも、軍用品の流れを汲んだAHXならどうか、ということまでは聞かなかったが、たぶんダメだろう。過去の音から未来の音を予測して逆位相の波形を作り出しているからだ。仮にAHX2で射撃音を消せたとしても、実際問題として、¥126,000-のAHXは高価過ぎる。快適な射撃ができるなら、検討の余地はあるが、現在のところPeltorなどの射撃用として供給されているヘッドセットでも特に困ることはない。
しかし、将来、Active Noise Control技術が、突発的な炸裂音に対しても、瞬時に逆位相の音波を発生させることができるようになり、それが安い単価で供給されれば、射撃はより快適になるはずだ。
Satoshi Maoka
Sep.25, 2005
Sep.25, 2005 一部修正
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