HK UMP
                                   2007年12月18日掲載

 サブマシンガンが軍用火器として脚光を浴び本格的に活用されたのは、第二次大戦の時だけだった。その後はアサルトライフルにそのポジションを譲っている。
 戦後も新しいサブマシンガンは登場した。イスラエルのUzi, イギリスのスターリング、イタリアのベレッタM12, アメリカのイングラム、ドイツのワルサーMPL, MPK、チェコのVz61・・・。それぞれがある程度の市場を抑えたものの、戦後SMGで成功したモデルといえばHK MP5を置いて他には無い。
 MP5も登場した当初、大いに注目されたわけではなかった。1960年代前半、G3アサルトライフル・ウェポン・システムの一環として開発が進められたMP54サブマシンガンは、1966年にMP5として完成した。

 それまでSMGは“オープンボルト・ファイアリングである”、というある種の約束事があった。オープンボルトでないといけない理由は無いが、戦前からほとんどのSMGは、オープンボルトで製造されていた。
 オープンボルトは構造が単純で、安価で製造し易いという利点はあるが、大きく重いボルトが前進して発射する為、射撃精度は劣る。ロックタイムも長いし、トリガーも重い。チャンバーを空にしてボルトを閉じておいても、銃を落とすとボルトが慣性で動き、暴発してしまう可能性もある。
 そんなSMGの中で、MP5はローラー・ロッキングシステムを組み込み、クローズ・ボルト・ファイアリング・メカニズムを持っていた。射程100m程度までなら、ライフルに匹敵する精度を持つ。この特徴が時代にニーズと適合した。
 1977年10月、バレアレス諸島パルマ発フランクフルト行きルフトハンザ航空ボーイング737がパレスチナゲリラによりハイジャックされた。ソマリアのモガディシオに着陸したハイジャック機に対し、ドイツ国境警備隊の特殊部隊GSG9 (Grenzschutz gruppe 9:グレンツシュッツ・グルッペ・ノイン:border guards group 9)が強行突入した。
 3人のテロリストが射殺され、1人が重症、ルフトハンザのフライトアテンダント1名が負傷したものの、人質全員は無事に開放された。GSG9の実力は一躍世界の注目を浴びた。この時、GSG9の手にはMP5 SMGが握られていたのである。この事件を契機に、MP5もその存在を世界中に知られるようになった。
(モガディシオ:英語ではMogadishuでモガディッシュであるが、かつてソマリアはイタリア語圏であった。イタリア語ではMogadiscioとなり、モガディシオが近い。ソマリ語ではMoqdishoで、正確な発音は不明だが、マガッディッショとなる模様。ここでは、便宜上モガディシオと表記した)

 70年代は世界的に赤軍派によるテロが多発した時代であり、対抗する西側各国は相次いで対テロ特殊部隊を創設した。
 正規軍同士の大規模戦闘ではなく、平時の市街地で起こるテロに対処する際、アサルトライフルを使用すると一般市民を巻き込む恐れがある。貫通力が高い為、テロリストの身体を貫通した弾丸で一般市民が死傷したり、兆弾による二次被害が発生する可能性もある。
 戦場なら弾をばら撒くことができるが、市街地での対テロ作戦ではそんなことは不可能だ。
 また人質救出作戦の場合、テロリストは人質を楯に使う為、高い精度の銃が必要となる。
 各国の特殊部隊は、自国軍および自国警察の制式装備品とは異なる独自の武器を装備した。少数精鋭の特殊部隊用なら、武器の価格が高くても国家予算への影響は微々たる物だ。
 SMGは事実上、HK MP5を使用することがエリート特殊部隊の常識となった。高価であっても、性能が他のSMGと比べてダントツに違うのだ。
 1980年代初頭、U.S. Joint Service Small Arms Program (JSSAP)オフィスは、Advanced 9mm Sub-Machine Gunとして新しいサブマシンガンを求めた。高性能でありながら、MP5より安価なサブマシンガンだ。
 アメリカ軍として、サブマシンガンを再び広範囲に装備しようと考えたのだろうか。アサルトライフルより高価なMP5では、全軍に装備させることは難しい。
 ヘッケラー&コッホはそれに応えて、1981年、試作モデルSMG1を、そして1984年にSMGIIを製作した。いすれもサウンド・サプレッサーを装備することを予め想定したデザインだ。しかし、結果としてこれらは試作の域を出ることはなかった。JSSAPのAdvanced 9mm Sub-Machine Gun選定はキャンセルになったのだ。
 HKは世界の特殊部隊への販売が一段落した1980年代後期、販売をさらに拡大すべく、再び新型サブマシンガン開発に動き出した。そして、SMG I, SMG IIを発展させてMP-2000を作り出した。手間の掛かるローラーロッキングを廃し、ブローバックとすれば、加工が容易でパーツ点数が減り、価格を下げられる。ロゥアー・レシーバーだけでなく、マガジンハウジング、トリガーメカニズムまでポリマーとした。
 このときのHKの考えは、「高価なMP5を購入できる国や機関には、もう売り切ってしまった。だからMP5の大量受注は、今後は見込めないだろう。しかし廉価版の高性能SMGを製造すれば、価格面でMP5の採用を見送った国や機関にも売り込みをかけられる。」というものだった。
 しかし、予想に反してMP5の販売数量は伸び続けた。従来、HK製品を買った事ない新興国までもが、MP5を発注してくる状況が続いたのだ。HKのマーケッティングの読みは外れて、市場はさらに広がっていたというわけだ。
 結果的にMP2000はお蔵入りとなった。高価格のものが売れているのに、廉価版を出す必要はない。しかし、その後、MP2000のコンセプトを発展させたMP5 PIPが作られた。PIPとは、Product Improvement Projectの略だ。製造に手間が掛かるMP5の量産性を上げたものというわけだ。SMGにローラーロッキングは過剰な装備と考え、これを単純なブローバックにすれば、製造コストが下がり、量産性も向上する。しかし、これも試作品で終わった。
 20世紀末、SMGには、違ったニーズが登場してきた。9mmパラベラム弾を軍、警察のスタンダードとしたアメリカで、9mm口径の威力不足を訴える声が上がった。9mm弾1発では、犯罪者や敵を無力化できないというわけだ。
 これはアメリカ特有の現象で、ヨーロッパではほとんどそのような声は上がらない。しかし、事実として、9mm弾の力不足から敵に反撃される事件が何件も発生し、単なるアメリカ人の大口径信仰と一笑に付すことはできなくなっていた。
 一部の公的機関が独自に10mmAutoや40S&Wを使用するピストルを採用し、その結果、SMGも10mm化、40S&W化の要求が出てきた。HKは9mmで設計されたMP5を、40S&Wや10mmに対応できるようにした製品を少数製造し供給した。
 一方、アメリカ軍はSOCOM Pistolとして、HK USPをベースに開発したMark 23を採用した。一時は時代遅れといわれていた45ACP弾が復活したのだ。すると今度は、SMGも45口径化しようという動きがでてくる。
 45ACPを使用するSMGは世界的に見ても少ない。Thompson SMG, M3A1(グリースガン)、イングラム(INGRAM)MAC10、レイジング(REISING)M50、ハイド(Hyde) M35などが存在するが、どれも時代遅れの弾丸ばら撒き型SMGだ。イングラムMAC10を除けば、第二次世界大戦前、および戦中の設計だ。HKはかつてMP-2000等を開発したノウハウを利用し、45ACPをベースにした新しいSMGの開発を始めた。1996年のことだ。
 G3に代わる223口径のガスオペレーション・アサルトライフルと、新しい45口径SMGは、開発が同時進行した。

 このとき生まれたアサルトライフルがG36であり、サブマシンガンがUMPである。UMPはストレート・ブローバックのサブマシンガンである。やっとヘッケラー&コッホはブローバックのサブマシンガンを完成させたのだ。市場に登場したのは1999年である。
 UMPはUniversal Machine Pistolの略で、汎用サブマシンガンを意味する。MP5は全弾発射後、ボルトが開放位置で止まるボルト・ホールド・オープン・シューティング・デバイスを持っていなかった。しかし,UMPではこれが採用された。
 ボルトは軽量化されて、オートマチック・ファイアリングピン・ブロックが組み込まれている。これにより、銃を落下させた衝撃で暴発する可能性は限りなくゼロに近づいた。
 左右どちらの手で握っても、ほとんど操作性に差がないフル・アンビデクストラウス(fully ambidextrous control)仕様で、製作されている。
 セレクターにはいくつかのバリエーションがあり、これらは、Trigger Groupsの分類と称する。
“Standard”はSafe, Semi, Fullの3パターンだ。“0-1-2”はSafe, Semi, 2 round burstでフルオートのモードは無い。“2 round burst”は、Safe, Semi, 2 round burst, Full Autoと4パターンがセットされている。“Single Fire(SF)”は、SafeとSemiのみの組み合わせだ。
 “Standard”のトリガーグループは、別名“Navy lower”とも呼ばれている。一方、フルオートを排した“Single Fire(SF)”トリガーグループは、“FBI lower”とも呼ばれている。
 リアサイトはVノッチとピープの二段切替式で、MP5のような贅沢なドラム式ではない。しかし、必要にして十分な装備となっている。レシーバートップにはMIL-STD1913ピカティニー(Picatinny)・レイルがモールドされ、各種オプティカル・サイトが簡単に載る。MP-5のように専用のマウントをレシーバーにまたがせる必要はない。
 ピカティニー・レイルはフォアエンドの下面と右側面に設けられている。
 
 ストックは右側面への折りたたみ式だ。MP5のように引き出し式(retractable type)にした方が、格好は良いが、折りたたみ式(folding type)のほうが確実で, ストックとしても使いやすいように思われる。UMPのストックは、たたんだ状態でもレシーバー右側面の操作性を悪化させず、またエジェクション・ポートも塞がないスケルトン構造のストックとなった。
 7.9インチ・バレルはHK伝統のポリゴナル・バレルで、先端部にQDのマズル・アタッチメントが付いている。サウンド・サプレッサーはBrugger & Thomet(B&T)とAdvanced Armament’sの製品がある。
 B&Tの製品はModel SDで、HKの純正だ。重量わずか449g、これを使用するとドライ状態で19dB, ウエット状態で27dBの減音効果がある。サプレッサーなしの場合、157dBの銃声が、ウエット状態のサウンドサプレッサーを装備すれば、130dBとなる。
 もうひとつ、Advanced Armament Corporation(AAC)製のUMP用サウンド・サプレッサーにModel Defenderがある。こちらの重量は更に軽く340gしかない。ドライ状態で24dB,ウエット状態で39dBの減音効果がある。AAC Defenderにごく微量のクーラントを入れると銃声が118dB程度になるということだ。
45ACPは弾速が遅く、通常弾でもサウンドサプレッサーがじゅうぶんな効果を示す。9mmの場合、サブソニック弾を使用しなければ、じゅうぶんな減音効果は得られない。この事も45ACP採用の効用だ。
 あらゆる面でUMPは改良され、MP-5を凌駕しているように見える。UMPが登場したとき、遂にMP5の時代は終わるのか、とウワサされた。
 45ACPで登場したUMPだが、その後、40S&W, 9mmパラベラム仕様も市場に供給されるようになった。実態として、UMPの9mmパラベラム仕様は、MP-5と完全にバッティングする。
 しかし、UMPとMP5は上手い具合に棲み分けができている。UMPはMP5の廉価版という位置付けなのだ。
 MP5は高価なサブマシンガンだ。公表される価格は定価である。しかしこの手のサブマシンガンやアサルト・ライフルの販売は、個人販売ではなく、圧倒的に公的機関からの大量発注だ。その場合、別の価格が設定される。
 通常のアサルト・ライフルが公的機関向けの大量納入の場合、1丁$350−程度であることに対し、MP5はその倍ぐらいの価格で取引されているといわれている。
 なぜならば、MP5は警察部隊における単なるサブマシンガンではなく、簡易狙撃銃という位置付けでもあるからだ。100m以内なら、ライフルを持ち出すまでもなく、オプティカルサイトを付けたMP5でかなり正確な狙撃が可能だ。

 UMPもMP5と同じクローズボルトで設計されている。ならばUMPも警察部隊で簡易狙撃銃として採用されているのだろうか?
 答えは、Noだ。UMPもかなりの精度が期待できる。しかし、誰もUMPをそのように使用することは考えていない。
 UMPは, あくまでも従来型サブマシンガンなのだ。
 エリート特殊部隊は、依然としてMP5を採用している。HKはUMPを市場に送り出した際、MP5との差別化が図れるという自信は無かったと思う。当初、UMPの9mmパラベラム仕様を供給しなかったことからも。それが判る。
 しかし、結果として市場がUMPとMP5の差別化した。UMPが登場した後も、HKの特殊部隊向けSMGの主流は依然としてMP5であり、この事は当分、変わらないだろう。

Dec.18, 2007

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