Heckler & Koch P30
                             May 5, 2006 掲載

 ヘッケラー&コッホ(Heckler & Koch:HK)は2006年のIWAでニューモデルP30を発表した。P30はMilipol Paris 2005で発表されたモデルP3000を名称変更したものだ。
 ミリタリー&ポリス・ユースのファイアーアームズに関して様々な分野に進出し成功を収めているHKだが、1990年代前半の時期、ピストルだけは鳴かず飛ばずの状態だった。
 反省すべき点は明らかだ。ピストルにはオーバーエンジニアリングであるローラーロックや、ガスロック&スクイズ・コッカーといった特殊なモデルばかりを作り続けてきた事が間違いだった。単体で見た場合、完成度は高いが大量採用を目指すのであれば、より多くのユーザーに受け入れられ、様々な口径にも応用が利く汎用ピストルを出す必要がある。だがHKらしさを失ってはいけない。
 HK USP(Universal Self loading Pistol)は、ドイツ軍の新制式ピストル・トライアルと、アメリカの軍特殊部隊用SOCOM(Special Operation COMando)ピストル・トライアルの渦中にあって、HKがスタンダード・ピストルのあるべき姿を見据えて開発したものだ。
 当初の試作品はアルミフレームだった。しかしGlockが市場、特に公的機関マーケットに受け入れられている状況を考えれば、ポリマーフレームの時代が来ることは確実だった。かくしてUSPはポリマーフレームとなった。
 撃発方式はストライカーか、コンベンショナル・ハンマーか。これはHK社内で意見が分かれた。ストライカーの方が小型化できるし、Low profileが実現する。しかし選択したのはハンマー方式だ。
 どのような判断が下されたのかは不明だが、“Universal”というキーワードが答えを語っているように思える。ドイツ軍もアメリカ軍もライブハンマーのピストルを使っている。操作方法は従来のモデルに近い方が良い。そして操作の自由度、汎用性はハンマー方式が上だ。エクスターナル・ハンマーなら手でコックすることも、デコックすることも可能だ。そして目で見ればすぐにコックされているかどうかががわかる。
 1994年、USPが完成、民間マーケットに市販された。平行して開発されたMark 23は1995年SOCOMピストルとしてSEALに採用され、同年、USPのコントロールレバーを変更したP8が、統一ドイツ軍制式ピストルに選定された。
 HKのUSPプロジェクトは一応の成功を見たが、完璧ではなかった。9mm, 40,そして45でも対応できるサイズ(若干、45仕様は大きい)であるが故、USPは大きなピストルだった。
 ドイツ警察の公用ピストル更新用として、小型化したコンパクトモデルP10が作られた。ドイツ警察のピストルに課せられた条件は、かつて“ドイツ警察ピストル・ヒストリー”で詳しく述べている。軍用ピストルより、威力が弱いこと、これが不文律として設定された条件だ。だからバレルを僅かに短くした。必然的に初速が落ち、わずかながらでも威力は低下する。
 20世紀終盤、ドイツ警察の女性比率はぐんぐん拡大していた。大雑把にいえば警官の1/3は女性である。ドイツでは、パトロールカーには通常、2人の警察官が乗務するが、これは男女ペアが普通だ。女性の犯罪者が増えたことがその背景にある。セクシャルハラスメントの問題で、女性被疑者のボディチェックは男性警官ではなく、女性警察官が担当する。だから現場に急行する警官のうち一人は女性でなくてはならない。
 女性にはP10のグリップが大きいと感じるようだ。P10以前の1980年代に制定されたドイツ警察ピストルはいずれもシングルカアラムだ。P5, P6, P7,いずれもグリップは大きくない。
 P6(SIG P225)を使用する男性警察官の中には、グリップが小さすぎると感じる者もいた。しかしドイツでは官給ピストルを勝手に改造できない。グリップの交換も禁止だ。
SEKなどの特殊部隊員の場合は、ある程度の改造をおこなっても目をつぶってもらうことができる。そこでアフターマーケットのグリップに換装したり、ゴムチューブを切って輪にしたものをグリップに巻き付けるといった改造がなされた。太くするのは比較的簡単だ。
逆は難しい。スタッガード・カアラムである以上、P10のグリップをダイエットしてスリム化するのは個人では無理だ。
 女性警察官の要求に答える方法はワルサーから示された。P99のバックストラップ交換式(interchangeable backstrap inserts)だ。
 2002年にHKが警察用を強く意識して完成させたP2000はP99と同じ方法で対応した。パテントの問題がないなら良いものはマネをするに限る。
 P2000はUSPの後継機ではない。ユニバーサルであること、ミリタリーユースであることを目指したUSPと比べ、P2000は警察用を強く意識したものだ。大きさはわずかに小さいし、スライドの質量も落としている。
 イメージで表現すると、S&WのNフレームとLフレームの違いだ。大型Nフレームは357にも44, 45口径も対応できる。しかし38, 357にはいささか大きいサイズだ。一方、Lフレームは357クラスに最適の大きさで、44, 45口径には対応できない。これがUSPとP2000の位置関係に近い。
 女性の手に合わせたP2000だったが、今度は男性警官から文句が出た。グリップが小さすぎて撃ち難いというのだ。大型のバックストラップに交換してもまだ足りない。グリップは前後のストラップで保持するのではない。手のひらへの密着度がより重要だ。結局、バックストラップ交換では満足のいく握り心地は得られないのだ。
 そこでHKは再度、P2000に手を加えた。バックストラップ交換のみならず、グリップ側面も交換可能にする。これで手の小さい警官から手の大きな警官まで幅広く満足を得ることができるようになるだろう。これが2005年登場のP3000だ。

 Heckler & Koch P30v3    フレーム後部にデコッキング・ラッチが配され、ハンマーが露出している。その他のヴァリエーションはデコッキング・ラッチなしでセミ・コンシールド・ハンマーCDA(LEM)もしくはDAOとなっている。

 P2000の改良型としてP3000としたが、発表された翌年の2006年、P30と名称変更になった。3000では桁数が大き過ぎるというわけだ。このままでは次のモデルはP4000となってしまう。
 ミレニアムの頃、なんでもかんでも2000という番号が流行した。新しい千年紀のスタートを意識して様々な製品が2000という番号をこぞって付けた。しかし、あれから数年が経過すると、熱病も醒める。
 ドイツには官需ピストルナンバーがある。P1から始まり、P12までが連番、その後、番号は飛び飛びになり最大は50番台だ。
 しかし官需ナンバーはメーカーサイドから苦情が出ていた。お仕着せの番号じゃイヤだ、というわけだ。番号が若い場合、民間市場では旧式に見えてしまう。P6よりP7の方が、より新しい改良型と思われるわけだ。これではメーカーとしては具合が悪い。だから最近、官需番号は付けられなくなった。
 HKはUCP(Ultimate Combat Pistol)という新しいモデルを開発中だ。MP7と同じ4.6mm×30弾を使用する。これにP46という番号を付けた。4.6mmだからP46なのは明らかだ。
 P30, P46という名称を見ても、HKは2桁ナンバーを今後採用していく方針が見えてくる。
 P30はP2000の細部を若干修正した。USPのアクセサリーレールは専用だったが、P2000ではピカティニー(Picatinny)レールとの互換性を持たせる改良がなされた。P30ではさらに互換性が高まった。完全なMil-standard 1913ではないが、通常のアクセサリーはここに収まる。ピカティニーレールといっても、特別なものではない。サイズ的には民間用Weaver mountと同じだ。
 ローディング・インジケーターにも改良が加わった。従来のモデルはチャンバー内にアモが入るとエキストラクター自体が若干飛び出て、識別が可能というものだった。P30のローディング・インジケーターは形式は同じだが、エキストラクター部に別部品としてチャンバーインジケーターを設けた。薄い金属プレートで、その部分が単独で露出し、暗闇で触っての識別が容易になった。もちろん赤い塗料が塗ってあり、目視でも識別できる。
 スライドの形状も少し違う。P2000はUSPの角ばったスライドのエッジを落とし、スリム化した。P30はそれを踏襲し、マズル周辺のエッジの処理を少し変え斜めにしている。スライド前方にもセレーションを設けた。
 リアサイトはNOVAKタイプとなった。
 P30にもP2000と同様のバリエーション展開が予定されている。コンベンショナル・ダブルアクションで、レシーバー後ろ側に左右どちらの手でも操作できるデコッキングラッチを持ったV3, デコッキング・ラッチなしで、プレコッキングトリガーを装備し、トリガープルを20N(2.04kg)にしたCDA(Combat Defense Action) を持つV1, 同じく32.5N(3.31kg)のCDAを持つV2, 27.5N(2.8kg)のCDAを持つV4, CDAではなく36N(3.67kg)のDAO(Double Action Only)であるV5, 39N(3.98kg)のDAOを持つV6がある。HK USAが担当するアメリカ市場では、CDAではなく、LEM(Law Enforcement Modification)となる。

 P30が登場してP2000は消えるのか?いやP2000は当面、継続される模様だ。なぜ似たモデルを平行して販売するのか。それは価格の違いだ。P30に考え抜かれたanatomically optimized gripを採用した結果は、付加価値として価格に転嫁されている。商品である以上、高価なモデルや安価なモデルを設けるのが当然だ。P2000はP30の廉価版という位置付けだ。USPはフルサイズ・モデル, 45対応モデル、スポーツモデルという幅広い顔を持つ。
 現在の市場は商品のモデルチェンジが早い。以前の銃器市場は20年、30年と同じモデルが何も変わらずに製造され続けた。現在ではそれは通用しない。P30はHKが2006年のマーケットに送り込むニューモデルだ。ミリタリー&ポリス市場での生き残りが懸かっている。おそらく数年後には、HKからまた新しいモデルが現れることだろう。

May 5, 2006
Satoshi Maoka

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