The Snubby Semi-Automatic Heckler & Koch P2000SK

 かつてアメリカの私服警察官(Plainclothes officers)は、銃身の極端に短いリボルバーを携帯していた。銃で武装していることを相手に悟られない為には、目立たない小さなピストルを選択せざるを得ない。しかし小さなピストルであっても、その威力まで大幅な妥協はしたくなかった。相手を1発で倒すためには、38S&W Specialが最低限必要だ。
 38S&W Specialを使うリボルバーは、その主要部分を小さくすることは難しい。しかし銃身を短くし、グリップを小さくすることは出来る。2インチという銃身長は、安全に射撃ができる限界に近い。銃身がこれほど短ければ、精度が落ちるのは避けられない。小さく薄いグリップでは撃ちにくいし、リコイルはきつくなる。それでも38S&W Specialであることが優先された。
 銃身の短い、ずんぐりとしたリボルバーは、スナッブノーズ・リボルバー(snub nosed revolver)と呼ばれた。小さくても相手を倒すパワーで妥協してないリボルバーは、ある種の“凄み”を醸し出している。
 リボルバーが警察用ピストルの主流として通用したのは、1970年代までだ。アメリカ警察がリボルバーを装備していたのは、ワイルドウエストの伝統と、そのノスタルジーに浸っていたからではない。セミオートマチック・ピストルとリボルバーを比べた場合、警察活動に使用するのであれば、リボルバーには明らかな優位性があった。
 リボルバーは即応性に優れ、作動が確実で、操作も容易である。ダブルアクションで使うことを前提に考えれば事故も起き難い。
 欠点は、通常6発という装弾数の上限と、リロードに手間が掛かるということに集約される。6発で決着が付かなければ、厄介な事態になる。しかしアメリカの警察官は、利点と欠点を比較した上で、リボルバーを選択した。
 当時、アメリカの警察官といえども、公務中に発砲するに至ることは稀であった。退職するまでの間に、被疑者に向って銃を発砲するという事態に直面することは1度あるかないかといったところだ。あったとしても、1回の銃撃戦における平均使用弾数は2発〜3発(2.7発)でしかない。これなら6発という装弾数もリロードの問題も関係ない。
 しかし70年代、時代の様相が大きく変化した。犯罪者の重武装化、そして凶悪化だ。6発では決着が付かない場合が多発するようになった。
 スピードローダーの採用で再装填に時間が掛かるという欠点を克服する動きはあったものの、シリンダーの6発を撃ち尽くして、警察官が殉職する事態が多発する。この事態に対応するにはリボルバーをセミオートマチックピストルに切り替えるしかない。80年代から90年代にかけて、この動きが大きく加速した。
 一方、20世紀初頭より32ACPを中心とする小型セミオートマチック・ピストルを装備していたヨーロッパ各国の警察も、70年代に吹き荒れたテロリストとの戦いで、ピストルのパワー不足を痛感していた。  
 ヨーロッパ各国の警察は、32ACPの小さなピストルを捨て、9mmパラベラムを使用するピストルを装備することになった。しかし9mmピストルは、それまで軍用として考えられ、大きく重いものだった。ヨーロッパ警察は、各メーカーに働きかけて、フルサイズの9mmピストルを少しだけ小型軽量化させて装備した。
 それから四半世紀、世界中の公用ピストルは、ほとんどがセミオートマチックになった。リボルバーと比較した場合のセミオートマチック・ピストルの欠点は、ほぼすべての分野で解消された。
 セミオートマチック・ピストルはチャンバーに装填していない場合、1発目を撃つ前にスライドを引かないと撃てないので即応性に劣るという問題がある。
 これに対しては、チャンバーに常に装填しておけば良いのだ。ファイアリングピン・ブロックセフティが普及し、チャンバーに装填していてもを安全性を確保出来るようになった。
 セミオートマチック・ピストルは射撃をする前にセフティレバーを操作するといった動作が必要で、リボルバーに比べて即応性に劣った。
 しかし、最近のセミオートマチック・ピストルはマニュアルセフティが無く、トリガーを引くだけで発射出来るものが増えている。
 セミオートマチック・ピストルは作動不良(malfunction, jam)が起きて射撃が継続出来ない場合がある。 しかし信頼できるモデルを選んで、適切なクリーニング、メンテナンスをおこない、適切なアモを選択すれば作動不良の発生する可能性は極めて低い。
 かつてセミオートマチックの欠点といわれた問題がほとんど解決しているのであれば、もはやリボルバーを使用する積極的な理由は殆どない。
 もちろん作動の確実さという点を見た場合、リボルバーにはまだアドバンテージがある。しかし、セミオートマチック・ピストルは多数の弾をロードすることが可能で、また予備マガジンを持っていれば、一瞬にして再装填が出来る。これは大きな利点だ。
 冒頭に述べたような私服警察官の持つスナッブノーズ・リボルバーもまた、その地位をセミオートマチック・ピストルに奪われつつある。
 かつて携帯性を重視して作られた中小型セミオートマチックは、いずれも32ACPや380ACPといった低威力アモを使用する。しかし80年代以降、フルサイズのセミオートマチックを切り詰め、小型化したものが登場してきた。切り詰めればバランスは多少悪くなることは避けられない。しかし携帯性は向上する。当初、切り詰めは、遠慮気味にわずかな寸法だけに留めていたが、やがて大胆な小型化が行われるようになった。
 Heckler & Koch P2000SKは、かつてのスナッブノーズド・リボルバーにとって換わろうという製品だ。
  

 Heckler & Kochは1990年代、それまで独創性と独自性の強かった自社のピストルラインナップを一新した。P9SもP7も野心作であり、いずれも登場した時点ではstate of the artといえるものだった。しかしあまりにもタイトに完成し尽くしてしまっていた為に、逆に新たな機能を盛り込めないものとなっていた。機能追加をしようとすると、著しくバランスが壊れるのだ。完成度の高さが逆に仇となった。
 そこで様々な市場の欲求を受け入れうる汎用性の高いユニバーサルデザインを追及して完成したものが、H&K USP(Universal Self-loading Pistol)だ。9mmにも40S&Wにも、45ACPにも対応する。ショートバレルのコンパクト仕様も、ロングバレルの射撃競技仕様も、またライト・モジュールやサウンド・サプレッサーを組み込んだ実戦仕様も容易に展開可能だ。デコッキングレバーで、安全かつ容易にハンマーを倒して携帯できる上にCock-n-lockedでの携帯もできる。ユニットを入れ替えればDAO(ダブルアクション・オンリー)にすることも可能だ。
 しかしUSPは大き過ぎた。汎用性を持たせるにはある程度の余裕が必要だ。しかしそれは時にムダが大きいモデルとなる場合がある。特にコンパクト化という点において、USPには限界があった。それは大きな作りのスライドカバーを持っていたからだ。
 それでもスライドとバレルを切り詰め、フレームを短くし、さらにトリガーガードを小さくしたUSP compactが製品として商品化され、ドイツ本国では、P10として警察用として採用が決まった。しかし一部のドイツ女性警察官はP10のグリップを大きすぎるといって敬遠したらしい(P10のグリップはフルサイズのUSPより小さいにもかかわらず)。
 ポリマーグリップは融通が利かないところがある。グリップパネルを薄いものにするといった手段が、通常は効かないからだ。しかしワルサーP99はバックストラップを交換式(interchangeable back straps)として手の大きさに合わせることが出来るという特徴を持っていた。HKは早速、この機能を取り入れた。他社のアイデアであってもパテントの問題が無ければ、自社製品に取り込む。変なプライドなど無い。
 USPの持つユニバーサルデザインとは方向性を変え、コンパクト化に主軸を置いたものが新たに開発された。これがP2000だ。
 P2000は予めUSP compactと同等の大きさで作られた。そしてUSP compactのバリエーションとして採用したLEMを取り入れた。
 LEMとはLaw Enforcement Modificationの略だ。基本的にはDAO(Double Action Only)と同じだが、ハンマーは半分程度起きて停止する。毎度100%スプリングを圧縮する通常のダブルアクションと比べると、銃のブレは大幅に小さくなり、連射速度も速くなる。連射を行う場合、トリガーを戻す距離は約6mmだけだ。実質的にはシングルアクションとあまり変わらない。
 また通常のコンベンショナルダブルアクションは、1発目をダブルアクションで撃ち、2発目からはシングルアクションになるが、このときのトリガープルの感覚は大きな違いが生じる。慣れの問題ともいえるが、銃を撃つ場合、トリガーの感触は常に一定であるほうが好ましい。
 USPはコンベンショナルダブルアクションでありながら、ハンマーをコック&ロック出来ること、また安全にハンマーを落とすデコッキング機能のすべてを盛り込んだモデルを標準としたが、P2000はDAOを中心にヴァリエーション展開を図った。
 ヨーロッパではこのLEMをComabt Defence Action(CDA)と呼ぶ。
 P2000のヴァリエーションは多岐に渡るが、メインは下記の4つだ。
Variant1(V1)はCDAでトリガープルはわずか2kg(20N)だ。Variant 2(V2)はそれより重くCDA 3.3kg(32.5N)としている。Variant 3(V3)はコンベンショナル・シングルアクション/ダブルアクション(Conventional SA/DA)トリガーで、デコッキングレバー付だ。レバーは側面ではなく、フレーム後部でグリップの上部に位置する。Variant 4(V4)は、V1, V2と同じCDAでトリガープルを2.8kg(27.5N)としている。
 この他にもいくつかの細かな違いを持つものが存在する。CDAではないコンベンショナルDAOを選択することも可能だ。
 P2000はもともとコンパクト設計だったが、さらにそれを切り詰めたサブコンパクト・モデルとしてP2000SKが追加された。これこそまさにセミオートマチックのスナッブノーズだ。P2000SKはトリガーメカニズムにコンベンショナルシングル/ダブルアクション、またはLEMを採用している。
 アメリカン・ヴァージョンとして用意されたP2000SK LEM仕様のトリガープルは3.3kg(32.5N)だ。他社製の通常ダブルアクションは5kg-7kgであることからみるとかなり軽い。そして、HK承認のショップ(HK armorers)に持ち込むと2.5kgに調整して貰うことも出来る。
 P2000とそのサブコンパクト版 P2000SKに用意されたヴァリエーションの多くは左右どちらの手でもほぼ同じように使えるアンビデクストラウス・ガン(ambidextrous gun)を目指している。マガジン・リリースレバーとスライドストップは左右両方にある。HKはP7の時から、この機能を重視していた。エジェクションポートの部分を除けば、左右はほぼシンメトリカルだ。
 P2000SKのレールシステムは2系統ある。ヨーロッパ仕様はUTLスタイル・ライト対応で、アメリカ仕様はM3スタイル・ライト対応だ。トリガーガードの傾斜も異なり、アメリカ仕様はフラットフェイスだ。
 P2000とP2000SKの表面処理はHK独自のHE (Hostile Environment)フィニッシュだ。つや消しのブラックで、耐久性に優れ、海水をスプレーして数時間放置しても錆びることは無い。
 かつてスナッブノーズリボルバーは38Specialを6発、もしくは5発装填して私服警官達のホルスターに納められていた。ほとんどの場合、彼らはその武装で不安を感じることは無かったのだろう。しかし、P2000SKは9mmであれば10発+1、40S&Wで9発+1が装填出来る。スペアマガジンを持っていれば、撃ち尽くしても、一瞬でリロードが可能だ。P2000のマガジンを利用すれば9mmで13発+1(for Law Enforcement Only)だ。戦闘能力は圧倒的に高い。

 この30年の間に、38Specialの6連発スナッブノーズでは対処出来ないほど社会環境は悪化してしまったということなのだろうか。HK P2000SKは、現代のセミオートマチックSnubbyとして最適なもののひとつだ。

Satoshi Maoka
July 28, 2004

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