青が散る Gun Blue Died
2006年10月17日掲載
かつて銃は青かった。“Gun Blue”,“Bluing”という言葉にその事実の片鱗が残っている。
現代のガンブルーフィニッシュは真っ黒だ。だから銃のブルーフィニッシュは“黒仕上げ”を意味すると解釈している人が多いだろう。
しかし、かつて銃は確かに青かった。その後、青みが消え、黒色に変っていき、ガンブルーという言葉だけが残った。
銃にもっとも相応しい色、それはブラック(or ブルー)だろう。銃のイメージカラーはブラック(or ブルー)だ。
炭素鋼で銃が作られた当初、その色は何色だったのだろうか。おそらくそれは白磨き仕上げだったと推測できる。剣と同様だ。しかし炭素鋼は空気中の酸素と水分により腐食が進行しやすい。
腐食、いわゆる赤錆だ。剣は錆びれば研ぎ直す。銃の場合は研ぐわけにはいかない。錆が進行したらオイルを塗って磨いた。磨いたって錆は取れない。
錆とは酸化還元反応だ。錆は炭素鋼が酸素と結びついて安定した状態に戻ろうとすることで発生する。オイルは炭素鋼の表面で皮膜を作り酸化を防ぐ効果がある。
いったん錆びてしまったものにオイルを塗っても、反応生成物である錆は取れない。そしてオイルが切れるとまた錆が進行する。
錆びた状態を放置すれば、錆はどんどん炭素鋼深くに進行し、やがては銃をダメにする。しかし表面が錆びた後にオイルを塗って磨き込めば錆の進行は止めることができる。オイルが切れれば、また表面に錆が進行する。そこで、またオイルを塗って磨く。
これを繰り返しを続けると、表面の赤錆はやがて黒く変色していく。こうなると、錆は進行しにくくなる。酸素と結びついて、炭素鋼の表面は安定した状態、すなわち不働態になったのだ。
これは表面に酸化皮膜Fe3O4(マグネタイト)ができたのだ。この皮膜が黒いのだ。
かくして黒い銃が誕生した。後にできたガンブルーによるブルーイングと呼ばれる手法は、この酸化皮膜を強制的に生じさせるものだ。
ガンブルーが登場する以前にも、別の手法で錆を防ぐ試みはあった。ケースハードニング(Case Hardening)は本来、金属の表面硬化技術であるが、ある程度の錆防止効果もあった。
炭素鋼を800度ぐらいまで加熱し、その後、一気にオイルの中に入れて冷やす。すると不思議な模様が表面に生じ、炭素鋼の表面に被膜ができる。水ではなくオイルで冷やすのは、より高い温度で炭素鋼を冷やそうとするためだ。水の沸点はいうまでもなく100度だ。800度に焼かれた炭素鋼を水に叩き込めば、100度で冷やすことになる。これに比べて沸点の高いオイルで冷やせば、より高い温度で冷やすことになる。炭素鋼の表面温度の微妙な違いで、表面にブルー、グリーン、グレー、ブラウンといった色が含まれた独特のまだら模様が生じる。これがケースハードニングだ。炭素鋼を水で冷やせば、黒く変化する。こちらはブラッキング(Blacking)と呼ばれた。

Beretta Holdingに属するUbertiが製造するコルト シングル・アクション・アーミーのクローン、ベレッタ スタンピード・デラックス。バレルとシリンダーがかなり極端なブルーで、フレームはケース・ハードニング仕上げ。
ケースハードニングの錆に対する耐性はさほど高くない。また表面の皮膜もそれほど強くない。しかし、19世紀後半にはこれを対腐食皮膜とした例が多い。現在ではほとんど使われない。良く似た手法として、ヒートブルーという表面処理技術もあった。パーツをバーナーで加熱しながら色の変化を見る。適切な色になったとき、オイルに浸けて冷却するものだ。これはケースハードニングの応用手法だろう。
ブルーイングが登場した頃、同様の薬液処理手法として、ブラゥニングというものもあった。英語ではBrowningで、高名な銃器発明家John M. Browningと同じスペルだ。もちろん両者に関係は無い。
ブラゥニングはその名の通り、茶色っぽくなる。薬品としてシアン化物を使用する毒性の強い手法だ。もっとも初期のガンブルーも同様にシアン化物を使用していた。

コルトNo.2 ナショナル・デリンジャー .41RFシングルショット。バレル部分がブラゥニング処理である。
鉄の表面にFe3O4(マグネタイト)の皮膜をつけたもの、これが現在のガンブルーだ。別名ブラックオキサイド(Black Oxide)、いわゆる黒色酸化だ。
水酸化ナトリウムNaOH(苛性ソーダ)35〜40%の水溶液に、酸化剤・反応促進剤等を加えた処理液を140度前後まで加熱し、製品を処理液に浸けることでFe3O4がその表面に形成される。これがホットブルーと呼ばれる手法だ。炭素鋼の表面に形成された酸化皮膜は、事実上、表面が錆びた状態である。表面を錆びさせておいて、これ以上、錆を進行させないようにすることで防錆膜としている。初期の黒錆と同じだ。
もっと低温で処理するコールド・ブルーという方法もある。市販のガンブルー剤を使う手法と概ね同じだ。一般的に、量産工場ではヒートブルーイングが行われるが、上下二連や水平二連ショットガンなどは、コールド・ブルーイングによる黒染めがおこなわれている。高温にすると銃身等のロウ付けが取れてしまうからだ。
かつてブルーイングした結果の色は青みを帯びた黒色であった。そのため ブルーと呼ばれた。炭素鋼(カーボン・スチール)は、Fe(鉄)と不純物であるC(カーボン:炭素)を混ぜた合金である。その他、Si,(ケイ素), Mn(マンガン), P(リン), S(硫黄), Ni(ニッケル), Cr(クロム)などの不純物を含む。それらの不純物の濃度で炭素鋼の性格は変ってくる。
ブルーイングによるマグネタイト形成で青みを帯びたのは、炭素鋼に含まれる不純物濃度が現在のものと微妙に違うからだ。また当時のガンブルー液も現在のそれとは違う。水酸化ナトリウムが主成分であることは同じだが、現在はいろいろ改良されている。

コルトM1911 改良型のA1モデルではない初期型のM1911 これは民間市場向けのコマーシャルモデル
当時の処理液では、厚い皮膜ができなかった。厚い皮膜なら黒味が増す。青っぽく見えるのは薄い被膜であることも一因だ。
現代の銃を黒くした理由として、銃に軽合金が多用されるようになったことが影響していると思われる。軽いアルミニュームをフレーム等に利用する手法が第二次大戦後に主流となった。アルミは真っ黒に染まる。青くはならない。黒いフレームと青いスライドでは色の統一が出来ず見栄えが悪い。そこで炭素鋼の部分も真っ黒にすることにした。
青かった時代、被膜は薄いため、ホルスターと擦れ合うエッジの部分が擦れて、地肌が出るものが多かった。いわゆるホルスター擦れだ。
また古いものは時間の経過で被膜全体が薄くなって、色味も薄くなっている。いわゆる色落ちだ。現代のものは被膜が厚く、簡単には色落ちしない。
古い銃を今日の処理液でリブルーすると、厚い被膜が形成されて黒っぽくなる。どうしても昔のような青さを求める場合には、昔と同じ成分の処理液を使用しなければならない。
ブルーイングの耐腐食性能は、それほど高くない。うっかりすると錆が浮く。ブルーイングしてあるから安心というわけにはいかない。
パーカーライジングが銃に用いられるようになったのは、20世紀になってからだ。19世紀に英国で研究が始まったが、当時はPhosphating(リン酸塩処理)と呼ばれた。アメリカでも研究が進められ、パテント利用の権利を獲得したClark W. Parkerは、1915年、息子であるWyman C. Parkerと共にParker Rust-Proof Phosphating Companyを設立した。パーカーライジングという名称は、Parker親子の名前から来ている。
当初は銃の表面処理に用いられる処理技術だったが、その後に用途が広がり、自動車ボディの防塵被膜形成及び下地処理等にも使われている。パーカーライジングといっても、処理方法はいろいろある。

コルトM1911に訓練用22LRコンバージョン・ユニットを組み込んだもの。パーカーライジング処理されている。
リン酸塩亜鉛皮膜(パルボンド処理またはボンデライト)は灰色または灰黒色で、リン酸塩皮膜(フェリーコート処理)と、リン酸マンガン皮膜(パルホス処理)は濃い灰(黒)色である。パーカーライジングは一種の下地処理であり、表面は塗装することが可能だ。
銃が青く光沢があった時代に、つや消しの黒や灰色、あるいは緑掛かった灰色のモデルの多くは、パーカーライジング処理のものだと思っても良いだろう。
ブルーイングに代わる表面処理技術として開発されたパーカーライジングだが、耐腐食性能はまだ不十分だ。
現代の銃はつや消しが主流になっている。それらの多くはパーカーライジングであったり、あるいはサンドブラストを拭き付けて表面を荒らした後、ブルーイングしたものであったりする。
あるいは塗装、もしくはテフロン系コーティングの場合もある。光沢仕上げのブルーイングには、下地の研磨が重要だ。研磨が不十分だと、きれいな光沢仕上げにはならない。手間を掛けて徹底的に研磨し、ブルーイングするより、薄いプラスチック系のコーティング剤で表面を覆ってしまった方が工程的に楽だ。
また黒にこだわらなければ、ニッケルメッキ、またはクロームメッキとする事も可能だ。ニッケルメッキはワイルドウェストの時代には既に実用化され、ブルー仕上げより、はるかに対腐食性は向上している。しかし、メッキは剥がれる可能性がある。

クロームメッキされたワルサーTPとゴールド・メッキされたワルサーTPH いすれもエングローブを施したプレゼンテーション・モデルだ。
ステンレスなら対腐食性はさらに高いし、剥がれる恐れはない。ステンレスは炭素鋼にクロムを加えた金属だ。1950年代以降、ステンレス鋼で銃が作られるようになった。
ステンレスの欠点は、その独特の粘りにある。セミオートマチック等には向かなかった。しかし近年、これは大幅に改善された。ステンレスの場合は、マット、ブラッシュド、ビーズブラスト、ポリッシュなどの仕上げ方が選択できる。表面の酸素濃度を変えて、黒く染めることも可能だ。
現在、もっとも今日的な表面仕上げ手法は、Robar Companies, Inc.のNP3, Walter Birdsong氏のBlack Tといったものだ。同様のものを銃メーカーも開発している。GlockはTenifer Finish、SIG ArmsはNitron, HKではHostile Enviroment Finishと呼んでいる。これらはブルーイングやパーカーライジングとは比較にならないほどの耐腐食性を持つ。
それぞれ耐性は違うが、ステンレスを凌ぐ耐腐食性能を示す。これらの処理を施したカーボン・スチールのパーツを海水に浸けても錆たりしない場合が多い。水中に数ヶ月放置しても錆なかったという実験結果も報告されている。
ブルーイングではそんな防錆特性は得られない。ブルーイングしたモデルの場合、水滴が付いたら速やかにふき取り、オイルを塗らないと錆が浮く。塩分を含んだ海水なら尚更だ。数時間後には赤くなってくるだろう。

Tenifer Finishを施したグロックは海中に1ヶ月浸けても、ほとんど錆びないと言われている。ステンレスを凌ぐ耐腐食性能だ。だからグロックには、ステンレス製の純正スライドが用意されていない。
もちろんこれら最新の表面処理は単なるテフロン・コーティングではない。フッ素ポリマー樹脂、グラファイト等との結合だ。おそらくこれ以上の表面処理技術は、今後もなかなか出てこないだろう。
ステンレスの登場で、銃も銀色の時代が来ると思われていた。しかしこれらの最新処理技術を使えば、銃に最も相応しい色であるブラックのまま最高の対腐食性能を得ることができる。
しかし銃=ブラックという時代はやはり終焉を迎えようとしているのかもしれない。SIGはIlaflon finishというフッ素系のコーティング処理をしたモデルを発表した。ブルーやグリーン、ルビー色、カッパー色、カモフラージュ・パターンなどかなり多彩な色が用意されている。どんな色にでもなる。やろうと思えば、ピンクでも水玉模様もできる。
これが市場に受け入れられるかは不明だ。しかし銃はブラック(あるいはブルー)、もしくはシルバーという長い間続いた伝統が崩れる可能性はある。

SIG Sauerが2006年に発表したIlaflon finish, 基本的にどんな色でも可能だし、模様を描くことも可能
自分としては、銃はやはりブラック(or ブルー)かシルバーであって欲しい。道具にはそれに相応しい色がある。固定観念といわれても構わない。ブラックとシルバーは緊張感のある色だ。銃を扱う際に必要なのは緊張感だ。レインボーカラーはきれいだが、緊張感を失わせる可能性がある。1歩間違えれば、人に命を奪う可能性のある道具なのだ。銃を手にする以上、常に緊張感を持ち続けなければいけない。銃は携帯電話ではないのだ。やはり銃の色はブラック(ブルー)かシルバーが正解だ。
Oct.17, 2006
Satoshi Maoka
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