The History of German Police Pistols ドイツ警察ピストル・ヒストリー Top page : Index

Chapter 8 Conclusion 終章

page 8-1 軍事連絡部、市民警察の武装と国境警備隊の武装
page 8-2 ニーダーザクセン州警察戦後の武装
page 8-3 ニーダーザクセン州警察のライフルとマシンガン
page 8-4 ケルン警察の使用弾数、チャンバーへの装填

ニーダーザクセン州警察戦後の武装
 第二次世界大戦後の西ドイツ・ニーダーザクセン州警察の武装を、実例で検証してみる。すでに記述したが、西ドイツ各州の警察装備の選定は、各州に任されており、西ドイツ全体で統一されていたわけではない。そのため、州警察が装備するピストルは、予算などの関係から州によって異なっていた。西ドイツ全州の警察装備ピストルについての細かい完全リストは、残念ながら存在していない。
 ニーダーザクセン州警察の1945年から現在にいたるまでの武装に関する細かいリストが入手できたのでまとめてみた。
 ニーダーザクセン州は、1945年のドイツ敗戦によって、イギリスの占領地域に組み込まれた。ドイツ軍や旧警察は解体されたが、州境を警備する目的で、その年のうちに占領国が主導してランデス・グレンツシュッツ(LGS:州警備隊)が創設された。
 創設当時、ニーダーザクセン州ランデス・グレンツシュッツは、占領イギリス軍から.380口径のウェブリー&スコット・リボルバーを供与されて武装した。
 その後まもなく、スペインから多数のピストルがドイツに届けられた。それらは、第二次世界大戦中にナチス・ドイツがスペインに発注したものの、輸送ルートが連合軍に制圧されていたため、納入されなかったものだ。戦後になって、その注文品が届いたわけだ。
 ニーダーザクセン州ランデス・グレンツシュッツは、その中から971挺のスペイン製スター・モデルBピストルを装備することになる。
 同時にドイツに届いたスペイン製ピストルは、スター・モデルBピストルの他、アストラ・モデル600、アストラ・モデル300ピストルなどだ。
 ニーダーザクセン州ランデス・グレンツシュッツが装備したスター・モデルBピストルは、スペインで数多く作られたコルト・ガバメント・モデルのコピーで、9mm×19(9mmパラベラム)を使用する製品だった。

   ▲▼ニーダーザクセン州使用のStar Model B

            ヘッセン州使用のStar Model B フレームボトムにヘッセン州の紋章がある。▲▼

 一般市民警察のシビル・ポリッツアイは、1946年に組織された。戦争が終結した直後の治安活動は、占領イギリス軍の軍警察(Military Police)がおこなった。やがてポリッツアイ・フィルファーと呼ばれるドイツ人協力者が募集されて、イギリス軍警察の任務に協力しはじめた。
 ポリッツアイ・フィルファーは、最初イギリス軍警察の通訳や助手を主な仕事とし、占領イギリス軍警察といっしょに行動した。ドイツ人ポリッツアイ・フィルファーは、ピストル装備を認められず、こん棒で武装しただけだった。戦争終結からあまり時間がたっていなかったこの時期、犯罪者は、戦争中に入手したサブ・マシンガンなどの強力な武器で武装しているケースが少なくなかった。ポリッツァイ・フィルファーのこん棒武装では、とても抑止力にならない。
 まもなくポリッツアイ・フィルファーは、準警察官として認められるようになり、ピストルで武装するようになる。
 ニーダーザクセン州警察が装備したピストルは、多くの雑多な種類のものだった。
 占領イギリス軍から供与された.380口径のウェブリー&スコット・リボルバーが中心だったが、敗戦時に連合国に接収されたドイツ軍やドイツ警察のピストルも使用された。
 警察ピストルを統一しようという動きは、西ドイツが独立した後の1951年になって始まった。それまでニーダーザクセン州警察は、雑多な種類のピストルを使用していたため、警察官の訓練に支障があり、故障時の修理、保守などのロジェスティックにも多くの問題があった。最優先とされたのは、使用弾薬の統一だった。さまざまな異なる弾薬を使用するピストルが混在していると、弾薬の補給が混乱してたいへんだった。
  統一された口径のピストルとして選定されたスタンダード警察ピストルが、口径7.65mm×17 (.32ACP)のスペイン製のスター・モデルSIピストルだ。
 このスター・モデルSIピストルも、ドイツが第二次世界大戦中にスペインに発注し、終戦までに納入が間に合わなかったものだ。

                        Star Model SI

 ピストル選定は、ニーダーザクセン州内務省がおこなった。
 主権を獲得したといっても、当時のドイツは経済的に混乱し貧しく、大きな警察予算がとれなかった。また、ピストルの国産も、まだ再開されていなかった。スター・モデルSIピストルは、7.65mm×17 (.32ACP)口径で、警察用として理想的だった。
 スペインからドイツに届けられたピストルは、第二次世界戦中にすでに代金が決済されており、低予算で警察ピストルとして装備することが可能だった。戦後の混乱で、経済的に豊かではなかった西ドイツにとって、低予算で獲得できるこれらのスペイン製ピストルは、ドイツ警察の武装に最適だった。この時期に、ニーダーザクセン州だけでなく西ドイツの数多くの州で、スペイン製のピストルが警察武装に採用された。
 第二次大戦中ドイツが占領し、被害を与えた国に対する謝罪に意味も含め、フランスやベルギー製のピストルを警察武装に選択し、輸入した西ドイツの州もあった。
 ニーダーザクセン州警察も、スター・モデルSIピストルのほかに、ベルギーFN製ブラゥニング・モデル1910/22ピストルを購入して支給した。
 西ドイツでのピストルの生産が再開されるようになると、ワルサー社で再生産されたモデルPPピストルが、1961年にニーダーザクセン州警察に採用された。採用後、スター・モデルSIピストルやブラゥニング・モデル1910/22ピストルは、ワルサー・モデルPPと順次交換されていった。
 ニーダーザクセン州警察は、ワルサー・モデルPPピストルに"P2"(ピストーレ・ツバイ)の制式名を与えた。
 西ドイツの州や連邦組織は、官需ピストルにP(ピストーレ)で始まるナンバーの制式名を与えていた。連邦政府組織のブンデス・グレンツ・シュッツは、1952年にSIGモデルP210-4ピストルを採用し、ニーダーザクセン州警察とは別に、“P2”のピストル制式名を与えた。この時期、連邦政府機関と州政府機関は、それぞれが独自のナンバーによる制式名称を与えて混乱していた。
 そのため、ニーダーザクセン州には、"P2”の制式名をもつ2種類のピストルが存在することになった。
 連合国のドイツ占領が終わり、西ドイツとして主権を回復すると、ニーダーザクセン州のランデス・グレンツシュッツ(州警備隊)は解体され、その一部が連邦政府が管轄するブンデス・グレンツシュッツ(BGS:連邦国境警備隊)に組み込まれた。そして残りのニーダーザクセン州ランデス・グレンツシュッツ(州警備隊)は、シュッツ・ポリッツアイに再組織された。
 ブンデス・グレンツシュッツは、連邦政府の直轄だが、シュッツ・ポリッツアイは州内務省に属している。
 ブンデス・グレンツシュッツに吸収された元ニーダーザクセン州ランデス・グレンツシュッツ隊員には、新たにスイス製のSIGモデルP210-4ピストル(P2)が支給された。ニーダー・ザクセン州のシュッツ・ポリッツアイに再編成された隊員は、引き続き9mm×19(9mmパラベラム)口径のスター・モデルピストルを使用した。
 警察が強力に武装することを国民が好まないところから、西ドイツ警察は、軍が装備するピストルより威力の低いもので武装していることをChapter4で記述した。この警察の武装は、市民に対して警察活動を行うシビル・ポリッツアイ(市民警察)の武装に関してのことだ。準軍事組織であるBGSなどは別の扱いだった。
 ここで大ざっぱに西ドイツの警察組織について記述したい。
 ブンデス・クリミナル・アムト(BKA:連邦犯罪捜査局)は、連邦政府直轄の機関で、各州の警察を統括する。
 警察長官(Polizeiprasident)を頂点とし、その下に各州の内務省の州警察総司令部(StandigerVertreter)がある。
 州警察総司令部の下には、検事局(Verwaltung)、シュッツ・ポリッツァイ(Schutpolizei)、クリミナル・ポリッツァイ=犯罪捜査警察(Kriminalpolizei))の3つの組織がある。
 クリミナル・ポリッツァイ(犯罪捜査警察)は、シビル・ポリッツァイ(市民警察)と同じ意味だ。犯罪捜査警察は、一般社会の警備と犯罪の捜査を任務とする。
 一方、シュッツ・ポリッツァイは、集団で行動する準軍隊的な性格をもつ国内軍に近い警察組織だ。内乱や暴動、国家転覆を目指すテロリストなどに対応することを主な任務にしている。起動力を備え、集団で行動するシュッツ・ポリッツァイは、スポーツ・イベントなどの警備も担当する。
 シュッツ・ポリッツァイのなかには、ゾンダー・アインザッツ・コマンド(SEK:特殊作戦部隊)、ポリッツァイ・ゾンダー・コマンド(PSK:警察特殊部隊)、モービライズ・アインザッツ・コマンド(MEK:機動作戦部隊)などの特殊部隊組織がある。
 対テロ特殊部隊として有名なGSG9(グレンツ・シュッツグルッペ・ノイン:国境警備隊グループ9)は、連邦政府が直轄する連邦警察の性格をもつブンデス・グレンツシュッツ(BGS:連邦国境警備隊)所属の特殊部隊である。
 これらの特殊部隊を含めて、連邦や州に所属するグレンツシュッツやシュッツポリッツァイ(ブライシャフト・ポリッツァイ)は、警察組織ながら、軍隊に準じた9mm×19口径ピストル、サブ・マシンガン、狙撃銃、マシンガン、装甲車などによる強力な武装をしている。
 シュッツ・ポリッツァイの主な任務は、通常の犯罪の取締りではなく、テロリストや大規模の騒乱、国内に潜入した外国の勢力などによる重大犯罪だ。人質をとっての立てこもり事件、重武装強盗事件などにも出動する。そのため、シュッツ・ポリッツァイが軍隊並の強力な武装をしていても、市民からの反発は少ない。

 話を再びニーダーザクセン州警察の武装に戻す。
 ワルサー社が、モデルP-38ピストルの戦後版(モデルP1ピストル)の製造を再開すると、ニーダーザクセン州のシュッツ・ポリッツァイは、1962年にワルサー・モデルP38ピストルを制式ピストルに選定した。ニーダーザクセン州のシュッツ・ポリッツァイは、1963年から1964年にかけて545挺のワルサー・モデルP38ピストルの納入を受けた。1967年になると、さらに1,115挺のピストルが追加納入された。
 ワルサー・モデルP38ピストルの納入が進むと、それまで装備されていたスター・モデルBピストルと順次交換された。
 ニーダーザクセン州のシュッツ・ポリッツァイに納入されたワルサー・モデルP38ピストルには、フレームに州名を表す“Nds”(ニーダーザクセン)という文字が刻印された。この刻印は、1970年になって、西ドイツ統一の“BMI”(ブンデス・ミニステリウム・デァ・インネルン:連邦内務省)に変更された。
 初期の装備であるブラゥニング・モデルM1910/22ピストルには、ランデス・ポリッツァイ・ニーダーザクセン(ニーダーザクセン州警察)を表わす"LPN"の刻印が打たれた。
 ブンデス・グレンツシュッツ(連邦国境警備隊)とブンデスベァ(西ドイツ連邦軍)は、ともにワルサー・モデルP38ピストルに"P1"の制式名称を与えて装備した。
 そして多くの州警察のシビル・ポリッツアイは、ワルサー モデルPPピストルとモデルPPKピストルを装備した。この時期、ワルサー社製のピストルが、西ドイツの官需ピストルの多くの部分を独占した。
 1978年9月、ブンデス・クリミナル・アムト(ドイツ連邦犯罪捜査局(BKA))による、9mm×19(9mmパラベラム)口径の警察武装向けピストルのトライアルが開始された。
 ドイツ赤軍などによるテロ事件の続発、その激化により、シビル・ポリッツァイが武装に用いている、従来の威力の少ない7.65mm×17(.32ACP)口径のピストルで対処できなくなった為だ。
 このトライアルの結果、最終選考に残ったワルサー・モデルP5ピストル、SIGザゥアー・モデルP6ピストル、H&KモデルP7ピストルの3機種を1機種に絞らず、ともに警察武装用に適していると評価した。各州警察は、3機種の中から独自に1機種を選択して装備することになった。
 ニーダーザクセン州は、1970年にヘッケラー&コッホ社案のモデルP7ピストルを採用した。ニーダーザクセン州警察は、モデルP7ピストルで、全州警察組織の武装を統一した。クリミナル・ポリッツァイもシュッツ・ポリッツァイも等しく、モデルP7ピストルで武装されることになった。ニーダーザクセン州に納入されたH&KモデルP7ピストルには“Nds”の刻印が打たれた。
 ニーダーザクセン州のシュッツ・ポリッツァイ(ブライシャフト・ポリッツァイ)に支給されたモデルP7ピストルには、西ドイツ統一の“BMI”(連邦内務省)の刻印が打たれた。
 最終的にH&K社製のモデルP7ピストルは、ニーダーザクセン州警察によって20年以上使われた。2001年、ニーダーザクセン州議会は、警察の装備しているモデルP7ピストルを、すべてH&KモデルP2000ピストルに交換することを決議した。

  △ 写真はConventional Double ActionのP2000 V3で、ニーダーザクセン州の採用したV2とは異なる。

20年間も使用し続けたものの、モデルP7ピストルは使用法を誤ると暴発の危険が大きいというのが交換の理由だった。
 現実にH&KモデルP7ピストルに組み込まれたスクイズ・コッキングという独特なメカニズムは、使い方を誤ると極めて危険な要素がある。ピストルをホルスターから抜き出す際、トリガーを誤って引いてしまう危険だ。
 トリガーを引いたまま、ホルスターからピストルを抜いてもその状態では暴発はしないが、スクイズ・コッキングを作動させると、そのとたんチャンバ−内の弾薬が暴発してしまう。
 一般的に、セミ・オートマチック・ピストルは、発射の直前までトリガーに指をかけないことが常識だ。
 モデルP7ピストルの場合、シングル・アクションなのでトリガーのプルが短く、暴発させてしまう一因になっていた。もしダブル・アクションならば、ピストルをホルスターから抜く際、多少トリガーに指が触れても、トリガーを引き切ることはまずなく、暴発事故は起きにくい。
 訓練を受けたプロフェッショナルな射手にとって、H&KモデルP7ピストルは、即応性の高い極めて優秀な武器だ。反面、訓練が不十分な射手にとって、H&KモデルP7ピストルは、危険な武器となる。
 この欠点は、訓練重ねることで問題解決できる。しかし、それには長い時間と、高い費用を必要とする。現実的かつ短時間でおこなえるな解決策は、誰にでもより安全に使用できるピストルとの交換だった。ニーダーザクセン州は、後者の案で決着をはかった。それがH&KモデルP2000ピストルへの全面的な交換だった。
 ニーダーザクセン州警察の新制式H&KモデルP2000ピストルは、独自のダブル・アクション・オンリー・トリガー(L.E.M.)が組み込まれており、通常のコンベンショナル・ダブル・アクションよりトリガー・プルが軽い。しかし、長いトリガー・プルを備えているため、初心者でも比較的安全な取り扱いが可能だ。

page 8-1 軍事連絡部、市民警察の武装と国境警備隊の武装
page 8-2 ニーダーザクセン州警察戦後の武装
page 8-3 ニーダーザクセン州警察のライフルとマシンガン
page 8-4 ケルン警察の使用弾数、チャンバーへの装填

△ up