Page 6-2 1950年代
基本的に東ドイツにおける警察は、西側に比べてより軍隊の要素を強くもっており、準軍隊と呼べる組織だった。
警察の武装も、西側の警察が自衛的なピストルやサブ・マシンガンなどを中心としたものと違い、より大きな火力をもつマシンガンや対戦車グレネード・ランチャーのRPG-7などまで装備している。
しかし、この連載リポートは、警察の制式ピストルをテーマとしている関係から、ピストルに重点をおいて解説する。
東ドイツ(DDR)が建国されて間もない1950年代前半、東ドイツ警察は、第二次世界大戦終結まで使用されていた旧ドイツ軍や旧ドイツ警察の装備していた武装をそのまま整備し直して使用した。
私服業務などに使用される小型ピストルとして、最も小型のピストルは、6.35mm(.25ACP)口径のマゥザー(Mauser)WIP -1(West Tachen pistole-1:チョッキ・ポケット・ピストル1型)とマゥザーWTP-2が採用された。
6.35mm×25SR(.25ACP)弾薬を使用する小型ピストルは、ヨーロッパで護身用として広く使われ、警察でも幅広く使用された。
ピストル自体も小型で、隠し持ちやすい利点がある。ピストル武装していることを相手にさとられにくいが、その威力は限定的で、相手を倒すというより、警告を与える抑止的な威力にとどまる。これらの小型ピストルは、私服で活動する警官によって使用されたほか、シュタージなどの潜入捜査やスパイ活動で使われた。
中型ピストルとして、7.65mm×17(.32ACP)口径のマゥザー・モデル1914、モデル1934,、マゥザー・モデルHScピストル、ザゥアー&ゾーン・モデル38Hピストル、ドライゼ(Dreyse)モデル1907ピストル、ワルサー・モデルPPピストル、ワルサー・モデルPPKピストル、チェコスロバキア製のCZモデル27ピストル、ベルギーFN社製のモデル1922ピストルなどが東ドイツ警察によって使用された。
大型の軍用の9mm×19(9mmパラべラム)口径のピストルは、旧ドイツ軍制式ピストルだったモデルP-08ピストルとモデルP-38ピストルが使用された。
第二次世界大戦中ドイツ軍が軍用準制式ピストルとして使用していた外国製のピストルも、東ドイツ警察によって使用された。
これらの外国製のピストルには、ポーランド/オーストリア製のラドム・モデル1935ピストル、チェコスロバキア製のCZモデル1938ピストルなどが含まれている。
CZモデル1938ピストル
チェコスロバキア製のCZモデル1938ピストルで使用する弾薬は、一般の9mm×17(.380ACP)と外見的には同じだが、チェコスロバキア製の弾薬は性能が異なり、強化弾となっている。CZモデル1938ピストルは、ダブル・アクション・オンリーのトリガー・システムを組み込んだ大型のピストルだ。

CZモデル1938ピストルは、1938年にチェコスロバキア軍用ピストルに選定されたものである。ダブル・アクション・オンリーのトリガー・システムは、当時のチェコスロバキア軍騎兵の要求を取り入れたためだ。
当時チェコスロバキア軍には騎兵が存在し、馬に乗ったままで突撃戦闘をおこなうことを前提として兵器の選定をおこなっていた。馬上でピストル操作し、発射するには、片手で操作出来ることが望ましい。 それため、CZモデル1938ピストルには、ダブル・アクション・オンリーのトリガー機構が組み込まれた。
しかし、ダブル・アクション・オンリーのトリガーは、精密な射撃が難しい。そこで、精密な射撃の可能な通常のシングル・アクションでの発射も出来るピストルの要求が出された。CZモデル1938ピストルに改良が加えられて、初弾がダブル・アクションで、2発目からシングル・アクションとなるコンベンショナル・ダブル・アクションと搭載したモデルも少数が試作された。チェコスロバキアがコンベンショナル・ダブル・アクション式のCZモデル1938ピストルを開発してまもなく、ドイツ軍が侵攻したため、発展改良は中止となり、すでに支給されているピストルの改造などもおこなわれなかった。
チェコスロバキアを占領したドイツ軍はCZ(チェスカー・ゾブロヨフカ)の工場などの兵器工場を接収し酸化に収め、CZモデル36ピストルやモデル27ピストルをドイツ軍兵士用に製造させた。CZモデル36ピストルは、使用する弾薬が特殊だったため、1943年になると製造中止となった。
モデル27ピストル
チェコスロバキア製のモデル27ピストルは、7.65mm×17(.32ACP)弾薬を使用するマゥザー・モデル1914ピストルによく似た外見をもつピストルだ。モデル27ピストルがマゥザー・モデル1914ピストルに似ているのは、もとマゥザーで勤務していたデザイナーのJ.Nickl(ヨセフ・ニッケル)が開発したためだ。
マゥザー社でロータリー・ロッキングのセミ・オートマチック・ピストルを開発していたチェコ系のニッケルは、第一次世界大戦が終結してチェコスロバキアが独立すると、祖国のために銃器設計者の才能を使うべく、マゥザー社を退職して祖国に帰った。
第一次大戦でドイツが敗北し、軍用銃器メーカーのマゥザー社は事業を縮小せざるを得ず、ニッケルの退職は問題にならなかった。
チェコスロバキアに帰ったニッケルは、ロータリー・バレル・ロッキングを組み込んだモデル22ピストルを設計した。このピストルは、チェコスロバキア軍によって制式ピストルに選定され、生産されることになる。
ロータリー・バレル・ロッキングのパテントは、マゥザー勤務時代にニッケル自身が開発したものの、マゥザー社がそのパテントを取得していた。そのため、モデル22ピストルは、マゥザー社の取得したパテントに抵触していた。最終的にマゥザーとゾブロヨフカとの間でどのような交渉がおこなわれたかは明らかになっていない。
モデル22ピストルが開発されたわずか2年後の1924年、ロータリー・バレル・ロッキングを外し、バレル固定式に改良したモデル24ピストルが完成する。モデル1924ピストルはさらに改良されて、改良型のモデル27ピストルが完成された。

7.65mm×17弾薬を使用するモデル27ピストルは、戦前のチェコ陸軍の将校用標準制式ピストルやチェコスロバキア警察の制式ピストルに選定された。
ここでチェコ製のピストルの表記について述べておく。CZはセスカ・ジョブロヨフカ(チェスカー・ゾブロヨフカのほうが原発音により近い)(Ceska Zbrojovka)製のピストルを表す。しかしCzと"z”を小文字で表記すると、チェコスロバキア(Czechoslovakia)あるいは現国名チェコ・リパブリックを意味する。
Vzの表記は、チェコ語のVzorの略で、モデルという意味だ。現代ピストルのCZモデル75ピストルが、Vz75と表記されている場合、単にモデル75という意味だ。
この連載記事では、銃の名前を表記する場合、メーカー名称+モデル+製品名称+ピストル(またはリボルバー)と表記することを原則としている。
製品名称に、Modelを意味する“M”やピストルを意味する“P”が含まれていても、原則的にこの表記法にしたがって記載した。
わざわざ最後に“ピストル”と明記する理由は、同一名称のライフルやサブ・マシンガン、その他の火器が存在する場合があるためだ。
セスカ(チェスカー)・ゾブロヨフカは、1936年Jihoceska ZbrojovkaとHrcbertusが合併して設立された。そのため、正確にいうなら、1936年以前に製造されたモデル27ピストルを、CZモデル27ピストルをと表記することは間違いにあたる。しかし、1936年以降も製造が続けられ、その時期に生産されたのは、CZモデル27ピストルとなる。ドイツ管理下に入ると、会社名は再び改められ、ボーミッシュ・バッフェン・ファブリクA.G.(ボヘミア兵器製造会社)となった。ここで製造されたモデル27ピストルには、会社を表わすコードネームfnhが刻印され、スライドにPistole Model 27 Kal.7.65mmと刻印された。
モデル27ピストルは、戦後もチェコスロバキアで製造が継続され、1950年まで生産された。
モデルP1001-0ピストル
1950年代前半、東ドイツ警察は、戦争で残った雑多なピストルが使われた。50年代後半になると、東ドイツ警察によって使用されるピストルの種類もある程度整理され、新規に東ドイツで製造されたピストルが加えられる。
東ドイツで製造されて加えられたピストルは、7.65mm×17口径のモデルP1001-0ピストルと9mm×19口径のP-08がある。

 
7.65mmモデルP1001-0 ピストルは、東ドイツに組み込まれたツェラ・メリスの旧カール・ワルサー社で再生産されたワルサー・モデルPPピストルだ。ピストルのスライドやグリップには、Waltherの刻印はない。スライド左側面に単に“7.65 1001-0”とだけ、刻印されている。1001-0の製品コード名称は、同時期に使用された口径25.65mmのシグナル・ピストル (信号拳銃)も同じ名称を使用した。
東ドイツは、ワルサー・モデルPPピストルを再生産したものの、ワルサー・モデルPPKピストルは再生産しなかった。だが、戦前や戦中に生産されたワルサー・モデルPPKピストルは、継続して東ドイツ警察によって使用された。これらのワルサー・モデルPPKピストルの補修用として、ワルサー・モデルPPKピストルのグリップだけは作られた。グリップは、最初にオリジナルとまったく同じデザインのものが製造され、その後、黒いプラスチック製のフルチェッカーでワルサー・バナー・マークのないもグリップが作られた。プラスチック製のものほか、樫の木で作られたスムース・グリップ、アルミニウム・キャスト製のグリップも作られた。
モデルP-08ピストル
東ドイツで製造されたモデルP-08ピストルは、旧ドイツ軍用だったモデルP-08ピストルと同型だが、グリップが木製ではなく、ダーク・ブラウンのベークライト製が装備された。東ドイツ製のモデルP-08ピストルは、全体的に加工跡のツール・マークが残り、パーカーライジング表面仕上げが施されている。
容易な識別方法として、テイクダウン・ラッチの指かけ部分が、D型をしている点をあげることができる。

 
ドイツ敗戦後、ソビエト占領地域では、ソビエトが第二次世界大戦終戦時に捕獲したモデルP-08ピストルを東ドイツ警察に大量に再支給した。同じ捕獲品でも、新型のワルサー・モデルP-38ピストルを最初に支給しなかったのは、旧ソビエトが、基本的にドイツを信用していなかったからだ。 同じ理由で最初旧ソビエトは、ソビエト軍用のトカレフ ピストルも東ドイツ警察に支給しなかった。
戦後しばらく東ドイツ警察は、モデルP-08ピストルを使用し続けた。その後、使用しているモデルP-08の消耗部品の供給が必要になり、個々のスペアー部品が生産されるうち、ほとんど全ての部品の生産がおこなわれた。結果的に、それらのスペアー部品を組み立てた純東ドイツ製のモデルP-08ピストルが製造されることになった。

6-1 page1 : 東ドイツの興亡
6-2 page2 : 1950年代、CZ38, CZ27, P1001-0, P-08
6-3 page3 : 1960年代-1980年代 マカロフ, CZ45, Z, スチェッキン, PSM
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