モデルP6、モデルP7ピストルの登場
最終的にどのメーカーも、リボルバー形式のピストルを西ドイツ新制式ピストル・トライアルに提出しなかった。
第1回目の拡大西ドイツ警察の新制式ピストル・トライアルは、北ドイツのリューベックにあるBGS(ブンデス・グレンツ・シュッツ)学校で、1976年の1月と2月におこなわれた。
トライアルで検討されたことは、以下のとおりだった。
1) ピストルの操作性、サイズ、重量のチェック。
2) 10,000発の耐久射撃。連続射撃1,000発ごとに分解してクリーニングし各部品をチェック。
3) 50分間に500発を射撃する速射テスト。射撃は25mの距離で通常の警察ターゲットに命中させるように照準し、速射でのマズルの跳ね上がりを見ることも目的だった。
4) 砂と泥の耐久テスト。弾薬を装填済みのピストルを砂の中に落下させ、その後射撃して機能をチェックする。
この第1回拡大トライアルに提出されたワルサー・モデルP5ピストル、SIGザゥアー・モデルP220、マゥザー・モデルHSPピストルは、いずれもこれらのテストを完全にクリアーできなかった。
西ドイツ警察は、テスト結果を各メーカーに通知し、要求事項を満足できる発展的なピストルの開発を要請した。
マゥザー社は、マゥザー・モデルHSPピストルが、ドイツ警察のテスト第一段階をクリアーできなかったところから、発展テストへの参加をあきらめた。そのため、マゥザー・モデルHSPピストルは、Pではじまるテスト・ピストル名が与えられることなく、トライアルから退場した。
その他の3社は、いずれも発展型のピストルの開発にとりかかった。
ワルサー社は、第一回拡大西ドイツ警察ピストル・トライアルにパスできなかったモデルP5ピストルを発展・改良し、モデルP5ピストル・ニュー・モデルを完成させ、次の拡大西ドイツ警察トライアルに提供した。
ジグ・ザゥアー社は、ドイツのザゥアー&ゾーン社が中心となってモデルP220ピストルを小型化し、モデルP225ピストルを完成した。ジグ・ザゥアー社のモデルP225ピストルに対し、ドイツ警察は、モデルP6ピストルのテスト名を与えた。
モデルP225(P6)ピストルの原型となったモデルP220ピストルは、9mmパラベラムだけでなく、.38スーパー(.38Super)弾薬、.45ACP弾薬など, 多くの一般的なピストル弾薬に対応できるように設計されていた。その結果、平均的な9mmパラベラム弾口径のピストルとしては大柄だった。
モデルP225ピストルは、9mmパラベラム弾薬のみを使用することに限定して小型化につとめ、西ドイツ警察の要求スペックにしたがって全長を短縮した。

 
マガジン・キャッチは、オリジナルのモデルP220ピストルでフレーム下部に装備されたコンチネンタル・タイプだったものを改良し、操作性の高いフレーム側面のトリガー・ガード付け根に装備されたプッシュ・ボタン・タイプに改めた。
ヘッケラー&コッホ社は、スクイーズ・コッキングを組み込んだ革新的なモデルPSP(Polizei Selbstlade Pistole :ポリッツァイ・ゼルブストラーデ・ピストーレ:警察用セミオートマチック・ピストル)ピストルを完成させ、第二回目の拡大西ドイツ警察ピストル・トライアルに提出した。 ヘッケラー&コッホ社のモデルPSPピストルに対して、ドイツ警察は、モデルP7ピストルのテスト名を与えた。
モデルP7(PSP)ピストルは、斬新なデザインをもって登場した。
一般的に、ピストルは、バレル内のチャンバーに弾薬を装填したまま安全に携帯し、必要な時に素早く射撃するためには、ダブル・アクション式のトリガーを組み込むことが普通だ。
一方、シングル・アクション・ピストルは、速射に対応するためには、弾薬をバレル内のチャンバーに装填し、ハンマーをコックした状態でセフティをロックする。
これは、コック&ロック(cocked-n-locked)と呼ばれ、アメリカのモデルM1911A1(コルト・ガバーメント)ピストルなどでよくおこなわれるコンディション・ワン(condition 1)と呼ばれる実戦的な携帯方法だが、常時この状態でピストルを携行することは、じゅうぶんな訓練を必要とする。
マニュアル・セフティによってロックされているといっても、セフティが不用意な操作や事故で移動して解除されることは考えられることだし、つねにハンマーがコックされて、撃発準備状態になっていることに、不安に感じる場合も多い。
ハンマーを安全な位置まで前進させ、加えてファイアリング・ピンが自動的にロックされていれば、操作ミス以外での暴発は考えにくく、じゅうぶんな安全策となる。ダブル・アクションであれば、そのままトリガー引けば、素早く1発目を発射できる。
しかし、ダブル・アクション・トリガーは、まずハンマーをコックしてからシアを動かして撃発させるため、トリガーを引く距離(トリガー・プル)が長くて重い。その結果、トリガーを引く間にピストルの照準線がぶれて、正確な射撃が望めない。
ヘッケラー&コッホ社は、モデルP9Sピストルにスムーズに動くダブル・アクション・トリガーを開発して組み込んだ。反面、このダブル・アクション・トリガーは、トリガー・プルが長くなる欠点をもっていた。しかし、モデルP9Sピストルは、時間的な余裕があれば、フレーム側面のハンマー・コッキング・レバーを操作し、正確な射撃が可能なようにハンマーコックすることも可能だった。
ヘッケラー&コッホ社の技術者たちは、ダブル・アクション・タイプ以外の方法で、素早くハンマーをコックできる方法を模索した。

ピストルを抜き出し、初弾から正確に射撃できるメカニズムとして、ヘッケラー&コッホ社の技術陣が考案した方法が、スクイーズ・コッカーだった。スクイーズ・コッカーは、可動式のグリップ・ストラップを握りしめることで、ストライカー(撃針)をコックできる。 スクイーズ・コッカーを組み込んでハンマーをコックするアイディアは、すでに20世紀初頭にあり、パテントが取得されている。
1970年代にも、モデル1911A1(コルト・ガバーメント)に組み込むユニットで、可動式のグリップ・ストラップをスクイーズして、ハンマーを起こすメカニズムが、クラレンス A.ラビレ(Clarence A. Raville)によって考案され、パテントが与えられている。
ラビレの考案したダブル・エース・ユニットは、グリップ後端のグリップ・ストラップが可動式になっており、これを握りしめることによってハンマーをコックする。
ヘッケラー&コッホ社の開発したスクイズ・コッカーは、グリップ前端のグリップ・ストラップが可動式になっていた。ヘッケラー&コッホ社は、中型のモデルHK4ピストルにスクイーズ・コッカーを組み込んで試作品を製作した。
ヘッケラー&コッホ社の考案したスクイズ・コッカーが優れているた点は、握っていたグリップ・ストラップを緩めると、いったんコックされてたストライカーが、安全なポジションまで再び前進できるところにあった。
ピストルをしっかり握るとストライカーがコックされて発射準備が整い、グリップを緩めるとストライカーが安全なポジションに戻る。使用者が簡単にストライカーをコックしたり、再び前進させて安全な状態に戻すことができた。
スクイーズ・コッカーのメカニズムは画期的なものだったが、このメカニズムに不慣れな射手が使用すると危険な側面ももつ。
ピストルをホルスターから抜き出す際に、トリガーに指を掛けてしまうと、モデルP7ピストルは、スクイーズ・コッカーが握られたとたんに弾丸を発射してしまう。実際に自分の足を撃ってしまう事故を起こした警察官もでた。
即応性に優れた機能をもつスクイズ・コッカーは、それを使いこなす訓練と、新しいメカニズムに対する慣れが必要だ。


モデルP7ピストルは、9mmパラベラム弾を使用しているにもかかわらず、一般的なメカニカル・ロッキング・システムを採用しなかった。モデルP7ピストルが採用したロッキング・システムは、発射ガスを直接ロッキングのエネルギーに使用する方法だった。
発射ガスの一部を、バレルに開けられたガスポートからのチャンバー下方に装備されたガス・シリンダーに導き、この圧力をスライドに連結されたガス・ピストンに伝える。前方に押されるガス・ピストンの働きによって、スライドの後退を遅らせるメカニズムだ。この閉鎖方式は、ガス・ロック・メカニズムと呼ばれる。
ガス・ロック・メカニズムは、一種のディレード・ブローバック(遅延吹き戻し式)である。ガス・ロック・メカニズムを組み込んだことにより、モデルP7ピストルのバレルは、フレームに固定式となり、機械的なロッキング・メカニズムもないため、全体的に構造が単純化できてピストルを小型化できた。
 
しかし、発射ごとにバレル下方のシリンダーに高温の高圧ガスが流れ込むため、連続して発射すると、トリガー上方のフレームが過熱される問題があった。
現実に50発も連続して射撃すると、フレームの前部がかなり熱くなる。 後にヘッケラー&コッホ社は、この問題の対症療法として、トリガー上方のフレームの一部をプラスチックでカバーした。モデルP7ピストルの発展改良型のモデルP7M8ピストルや、モデルP7M13ピストルには、このプラスチック製のプロテクターが装備されている。しかし、プラスチック製のプロテクターでは、フレームの加熱を完全に防ぐことが不可能だった。
ヘッケラー&コッホ社は、モデルP7ピストルの生産にあたって、従来のモデルHK4ピストルやモデルP9Sピストルで多用していたプレス加工をやめ、切削加工を多用した生産方式でスライドやフレームを製作した。
第2回拡大西ドイツ警察新制式ピストル・トライアル
第2回目の拡大西ドイツ警察ピストル・トライアルは、第1回目のピストル・トライアルと同じくリューベックのBGS学校でおこなわれた。
つづいて第3回目のピストル・トライアルは、西ドイツ軍の兵器試験場のメッペンにあるNo.91試射場で発展テストがおこなわれた。
リューベックでおこなわれたテストでは、ジグ・ザゥアー社の提出したモデルP225(P6)ピストルだけが,全てのテストをクリアーできた。ヘッケラー&コッホ社が新らたに設計したモデルPSP(P7)ピストルやカール・ワルサー社が提出したモデルP5ピストルなどは、全てのテストをクリアーできなかった。
西ドイツ軍メッペン兵器試験場でおこなわれた発展テストで、再び改良を加えられたカール・ワルサー社のモデルP5ピストルが、やっと全てのテストをクリアーした。しかし、いぜんとして新設計のヘッケラー&コッホ社のモデルPSP(P7)ピストルは、射撃テストで所定の耐久テストなどで失敗し、クリアーできなかった。
第4回目のトライアルは、テスト地を再びリューベックのBGS学校にもどしておこなわれた。このテストで、ヘッケラー&コッホ社のHKモデルPSP(P7)ピストルは、テストをパスすることができた。
西ドイツ警察ピストル・トライアルの公式リポートは、1978年4月に完成されて交付された。
リポートによると、ワルサー・モデルP5ピストル、ジグ・ザゥアー・モデルP225(P6)ピストル、H&KモデルPSP(P7)ピストルの全てのピストルが、西ドイツ警察の新制式ピストルとして要求される性能をテストするトライアルにパスしたことが明記された。
それら3機種の全てのピストルが、西ドイツ警察の標準ピストルとして最適であるとも結論づけられていた。
同時に、トライアル中に使用されていたテスト名であるモデルP5、モデルP6、モデルP7の名称が、警察ピストル制式名として使用されることが決定された。ワルサー・モデルP5ピストルはそのままモデルP5ピストルとされ、SIGザゥアー・モデルP225ピストルにモデルP6ピストル、H&KモデルPSPピストルにモデルP7ピストルの制式名が与えられた。

The History of German police Pistols Chapter 5
9mm×19ピストル・トライアル The Trial of 9mm Parabellum Pistols for West German Police
5-1 Page1: ドイツ警察新制式トライアル要求項目, ワルサーP38K
5-2 Page2 : SIGザウエル P220, ヘッケラー&コッホ P9S
5-3 Page3 : ワルサーP5, マゥザーHsP
5-4 Page4 : SIGザウエルP6(225), ヘッケラー&コッホP7, 第二回拡大西ドイツ警察制式ピストル・トライアル
Sep.7, 2002 Copyright C 2002 by Satoshi Maoka
次回はChapter 6: 東ドイツ警察ピストル DDR Police Pistols (2002年11月上旬掲載予定)
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