The History of German Police Pistols

Chapter 4: テロの嵐

4-1 Page1 : ミュンヘン・オリンピック・テロ事件、ドイツにおける反政府活動
4-2 Page2 : ドイツ警察武装強化
4-3 Page3 : Walther PP Super,
SIG Sauer P230

ワルサー・モデルPPスーパー・ピストル

 西ドイツ警察トライアルに提出された9mmポリス弾を使用するピストル2機種のうちの1つは、ワルサー・モデルPPスーパー・ピストルだ。
 ワルサー・モデルPPスーパー・ピストルの開発は、1973年に試作が開始されて1974年5月に量産が始められた。ワルサー・モデルPPスーパー・ピストルの量産は、1984年11月まで継続され、警察向けの9mm×18(9mmポリス)口径の製品のほか、民間向けとして9mm×17口径の製品が製造された。
 製造された9mm×18(9mmポリス)口径のワルサー・モデルPPスーパー・ピストルは、10001から21101までのシリアル・ナンバーが刻印され、総生産台数が11,100挺にのぼった。民間向けの9mm×17口径や9mm×17口径のワルサー・モデルPPスーパー・ピストルは、100001から101300までのシリアル・ナンバーが刻印され、総数1,300挺が製造された。

 ワルサー モデル PP スーパー ピストル ▲試作モデル ▼量産モデル


 外見上ワルサー・モデルPPスーパー・ピストルは、ワルサー・モデルPP/PPKピストルの影響を大きく残しているものの、単なるスケール・アップではなく、内部の構造に大幅な改良が加えられている。
 ワルサー・モデルPP/PPKピストルは、スライド左側面にハンマー・デコッキング・メカニズムを備えたセフティ・レバーを装備している。セフティ・レバーを下方に押すと、、コックされていたハンマーが前進し、ファイアリング・ピン後端に接触する直前に、フレーム内のハンマー・ブロックで阻止される。同時にファイアリング・ピンが、回転したセフティ・レバーの軸によって固定される。
 セフティ・レバーを押し上げて解除すると、ファイアリング・ピンは、ロックを解除される。しかし、ハンマーは、ハンマー・ブロックによってブロックされたままだ。結果的に、ワルサー・モデルPP/PPKピストルは、一般的なダブル・アクション・リボルバーと同等の安全性が確保される。
 トリガーを引くと、ダブル・アクションによってハンマーが起き、そのままトリガーを引き続けるとハンマー・ブロックが解除され、撃発が可能となってハンマーがレリースされる。
 開発された1929年当時、ワルサー・モデルPP/PPKピストルは、セミ・オートマチック・ピストルとして、もっとも優れたセフティ・メカニズムを備えていた。ワルサー・モデルPPスーパー・ピストルは、その安全性をさらに発展させた形で完成された。
 ワルサー・モデルPPスーパー・ピストルにはマニュアル・セフティがなく、スライド左側面に装備されたレバーは、ハンマー・デコッキング機能のみに限定された。
 ワルサー・モデルPPピストルと同様、レバーを押し下げるとハンマーがデコッキングされて前進する。前進したハンマーは、ハンマー・スプリングのテンションによってリバウンドした状態で停止する。レバー操作によって、ハンマーがデコッキングされると同時に、スライド内のファィアリング・ピンがティルトして、ハンマーとのコンタクトがカットされる。
 ハンマー前面には穴があけられており、ハンマー・デコッキングの際に、ハンマーが完全に前進しても、ファイアリング・ピン後端が穴に入るため、ハンマーと接触して撃発することはない。
 トリガーを引くと、スライド内でティルトしたファイアリング・ピンは、トリガーを引き切る直前までティルトした位置に維持される。ファィアリング・ピンは、トリガーを引き切った瞬間だけ水平になって、ハンマーの平面部にコンタクトする。
 デコッキング・レバーは、ハンマー・デコッキングするために押し下げた後指を離すと、自動的にもとの射撃位置に戻る。そのためハンマー・デコッキング後に射撃する際、スライド左側面のでコッキング・レバーを操作する必要がなく、単にトリガーを引くだけで射撃できる。
 ワルサー・モデルPPスーパー・ピストルのダブル・アクション トリガープルも、ワルサー・モデルPP/PPKピストルに比べて改善された。ワルサー・モデルPP/PPKピストルのトリガー・プルは重く、ダブル・アクションは、速射が必要な緊急用であり、正確な射撃に不向きだった。ワルサー・モデルPPスーパー・ピストルのダブル・アクションは大幅に改良され、トリガー・プルがスムーズになり、より正確な射撃が可能となった。
 フレーム左側面に外部露出型のスライド・ストップ・レバーが装備され、スライドを前進させる際の操作性が向上した。また中型ピストルでの必要性に疑問があるものの、リア・サイトは、左右方向のシフト調整が可能となった。
 グリップの小さなワルサー・モデルPPKピストルで9mm×17を射撃すると、手に不快なリコイルを感じることがある。ワルサー・モデルPPスーパー・ピストルは、より強力な9mmポリス弾を使用するため、握りやすいオーバー・サイズのグリップが装備されている。トリガー・ガードは、両手保持による射撃を想定し、角型のものが装備された。

SIG/ザゥアー・モデルP230ピストル(SIG Sauer P230)

 西ドイツ警察のトライアルに提出された、9mmポリス弾を使用するもう1機種のピストルが、SIG/ザゥアー・モデルP230ピストルだ。
 メーカーのSIG(Schweizerische Industrie Gesellschaft)社は、機関車などを製造するスイスの鉄道車両製造メーカーとしてスタートした。1860年から小火器部品の生産をはじめて火器生産分野に進出した。1863年に社名を変更して現在も使われているSIG社となった。
 スイス軍が1869年にバッテリー・ライフルを制式ライフルに選定すると、その分担生産を担当し、以降スイス軍用ライフルの生産をおこなってきた。
 SIG社は、1937年から本格的にピストルの開発を始めた。SIG社は、フランスのS.A.C.M.モデル1935ピストルの製造権を手に入れて発展・改良をすすめ、1947年にモデルSP47/8(SIG P210)ピストルを完成させた。スイス軍は、1949年に軍制式ピストルとして、モデルSP47/8ピストルを選定する。
 もう一方のザゥアー&ゾーン(Sauer & Sohn)社は、1751年にドイツのズール(Suhl)で創設された。このドイツの警察ピストル第1章で紹介したモデル38Hピストルは、この会社で1938年に開発されたものだ。
 第二次大戦後、ズール地方はソビエトの占領地域となったため、ザゥアー&ゾーン社の関係者は、東ドイツから西ドイツに脱出し、1951年にデュッセルドルフに会社を再建した。
 再建ザゥアー&ゾーン社は、はじめ銃身などの小火器部品生産し、アメリカ向けのコルトSAAレプリカや、S&Wダブル・アクション・リボルバーに似たリボルバーなども生産した。
 ザゥアー&ゾーン社は、1970年に入ってスイスのSIG社と関係をもつようになる。SIG社とザゥアー&ゾーン社が合併した背景には、スイスの政治状況も関係していた。永世中立を国是とするスイスでは、国内から、スイス製の軍用火器を海外に輸出することに対して批判が出た。そこでSIG社は、海外に協力会社を作り、海外拠点で軍用小火器の生産をおこい輸出するよう方向転換をおこなった。SIG社に選ばれた海外協力会社が、ドイツのザゥアー&ゾーン社だった。
 SIG社とザゥアー&ゾーン社が合併して、生産されたのがSIG/ザゥアー・モデルP220ピストルやP230ピストルなどの新世代セミ・オートマチック・ピストル・シリーズだ。
 その中のモデルP220ピストルは、生産コストのかかるモデルSP47/8ピストルより安価なピストルを求めるスイス軍の要求から開発された。中型ピストルのモデルP230ピストルは、スイス警察からの要求で、開発されたと伝えられる。
 いずれのピストルもダブル・アクション・トリガーとハンマー・デコッキング・レバー備えた新世代のピストルだ。基本的なコンセプトは、ザゥアー&ゾーン社が1938年に開発したモデル38Hピストルとよく似ている。
 なかでも中型ピストルのモデルP230ピストルは、よりモデル38Hピストルによく似た特徴を備えている。

 

SIGザゥアーモデルP230 9mm×17(9mm Kurz)仕様と, 9mm Police仕様
9mmKurz仕様は初期型で9mm Policeは第2期型だ。スライドのセレーションの数や、テイクダウン・レバー、デコッキング・レバー等に違いが見える。

SIG/ザゥアー・モデルP230ピストルは、スイス警察だけでなく、西ドイツ警察でもピストル・トライアルが計画されたところから、西ドイツ警察の採用も視野に入れて改良された。SIG社は、すでに1960年代中頃からオーストリアのヒンテンべルガー社と共同で、自社の中型のブロー・バック式セミ・オートマチック・ピストルのモデルP230に最大の威力をもたせるため、新型9mm口径弾薬の開発をすすめていた。その成果が9mmポリス弾(9mm×18)とその弾薬を使用するモデルP230ピストルだった。
 モデルP230ピストルは、グリップ・フレーム左側面にハンマー・デコッキング・レバーを装備している。ハンマー・デコッキング・レバーは、押し下げることでコックされたハンマーをデコッキングでき、撃針にあたる直前(リバウンド・ロック・ポジション)でロックされる。ハンマー・デコッキング・レバーは、ハンマーのデコッキングをした後、指を離すと自動的に元の位置に戻り、マニュアル・セフティとしての機能はない。
 ファィアリング・ピンは、トリガーを引き切ったとき以外、ファイアリング・ピン・ブロックが機能してロックされる。事故によってハンマー・リバウンンド・ロックが機能せず、ハンマーが前進しても、基本的に暴発することがない構造になっている。ファイアリング・ピン・ブロック・セフティは、トリガーを引き切った時だけロックが解除される。

 ワルサー・モデルPPスーパー・ピストル、SIG/ザゥアーモデルP230ピストルが、共にマニュアル・セフティを排したハンマー・デコッキング・レバーを備えているのは、西ドイツ警察ピストル・トライアルの要求事項に沿ったからだ。
 西ドイツ警察のトライアル項目には、即応性を高めるため発射時にマニュアル・セフティを操作する必要がないことが含まれていたからだ。結果的に両社は、良く似た性格をもつ製品を、トライアルに参加させることになった。
 西ドイツ警察によるピストル・トライアルは、1973年から74年にかけて実施され、ワルサー・モデルPPスーパー・ピストルとSIG/ザゥアー・モデルP230ピストルが、西ドイツ警察用標準ピストルの指定を受けた。
 しかし、西ドイツ警察によるトライアルは、完全におこなわれたといえなかった。トライアルが続行されている最中に、新たな警察用ピストル弾薬として、より一般的で威力の高い9mm×19(9mmパラベラム弾/9mmルガー弾)のほうが望ましい、という意見が強くなったからだ。
 9mm×18(9mmポリス)という特殊で威力的にも中途半端な装弾を採用するより、一般的で性能的にも、既にじゅうぶん試されて信頼性の高い9mm×19を採用するほうが効率が良いという主張だった。
 ドイツ国内でのドイツ赤軍のテロ活動が激化し、従来は警察の武装強化に批判的だった多くの州議会も、9mm×19弾薬の採用やむなしとの意見にかたむき転換したことも、警察用の弾薬が9mm×19に変更された大きな理由だった。
 そのような事情から、9mm×18(9mmポリス)口径のピストルを採用したのは、バイエル(総数不明)とバーデン・ブルッテンベルグ警察(2,345挺)、ラインラド・ファルツ警察(2,452挺)など西ドイツ警察のごく一部だけだった。これらの警察は、いずれもワルサー・モデルPPスーパー・ピストルを採用した。
 西ドイツ警察でSIG/ザゥアー・モデルP230ピストルを大量に採用した州はなかった。例外的に1970年代にキール警察の対テロ部隊MEKによって60挺が採用されたにとどまった。SIG/ザゥアー・モデルP230ピストルは、ドイツ警察に大量に採用されなかったが、スイスのいくつかのカントン(州)の警察に採用され、とくに私服で業務する犯罪警察(クリミナル・ポリッツァイ)によって使用された。
 またSIG/ザゥアー・モデルP230ピストルは、民間市場や輸出向けとして、7.65mm×17口径と、9mm×17口径、22LR口径の製品が製造された。民間生産型のモデルP230の生産は、1998年まで続行された。生産の途中で、スライドのセレーションは、細かく多数のものから、幅が広く数の少ないものにデザイン変更された。
 1998年には、グリップ部分やトリガ・ガードに改良を加えた発展型のSIG/ザゥアー・モデルP232が発表され、旧型となったモデルP230の生産は打ち切られた。
 日本の警察は、1980年代末から1990年代にかけて、SIG/ザゥアー・モデルP230ピストルに改良を加え、マニュアル・セフティとランヤード・リングを追加したモデルを選定、採用した。

 西ドイツ警察は、激化するテロ活動に対処するために、警察制式ピストルの要求事項をより威力の高い9mm×19(9mmパラベラム/9mmルガー)に改めて、トライアルを継続する。

次回はChapter 5: 9mm×19口径警察ピストル・トライアル (German Police Trial for 9mm×19 Caliber Pistol)をお送りする。

                     

Chapter 4: テロの嵐

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