ナチ党(NSDAP:国家社会主義ドイツ労働者党:ナチス)は,1920年に誕生した。
1918年11月,第一次大戦に敗北したドイツは,保有していたすべての植民地と国土の13%を失い,ヴェルサイユ条約によって帝政を放棄し,ワイマル共和国となった。だが,寄り合い所帯のワイマル共和国では,その14年という短い歴史で,実に14回もの政権交代が起こり,その混乱から共和制は機能不全に陥った。このワイマル共和国の混乱のなかで,勢力を拡大したのがナチ党だった。
1921年、ナチ党の全権を握ったヒトラーは,武装蜂起による共和国政府打倒を計画するが失敗。刑務所に収監される。1925年に釈放されるとヒトラーは,ナチ党を再結成し,選挙による政権獲得を目指した。
30もの政党が乱立するドイツ国会で,当初ナチ党の議席はわずか12議席で低迷していた。しかし,悪性インフレと世界大恐慌が,ドイツ人の既存の政党離れを促進した。ドイツの名誉と領土回復をスローガンとし,ドイツを再び大国にすると約束したナチ党に国民の期待が集まった。その結果ナチ党は、1932年になるとドイツ国会で230議席を占めるまで躍進し,ドイツ第一党になった。
1933年1月,ヒトラーが首相となって総選挙を実施,7月に新国会で全権委任法を可決させて敵対勢力を解散させ,一党独裁政権を確立した。
ドイツは,1935年に徴兵制を復活。翌1936年,ヴェルサイユ条約を一方的に破棄し再軍備宣言をおこなった。ただちに4ヵ年計画が発動され、軍と軍需工業は,4年以内に戦争遂行能力に達することを求められた。
1938年ドイツは,オーストリアを併合,チェコスロヴァキアに侵攻して占領した。1939年,ドイツはポーランドに侵攻,これに対しイギリス,フランスがドイツに宣戦布告して第二次世界大戦が始まった。

ナチ政権下のドイツ警察ピストル
写真は,ナチ政権下の1938年に出版された“ベルリン警察刊,7.65mm警察ピストル・ハンドブック”の表紙だ。このハンドブックは,当時の警察が採用していた主なピストルをイラスト入りで解説している。ハンドブックから当時の警察がどのような機種のピストルを使用していたか知ることができる。
ハンドブックのタイトルは,口径7.65mmピストルだ。当時,一般の警察で使用される標準弾薬が,7.65mm×17(.32ACP)だったためだ。この弾薬は,ドイツ警察の標準制式弾薬として1970年代まで使用された。1930年当時,軍警察はドイツ軍の制式弾薬と同じ9mm×19(9mmルガー)弾薬とそれを使用するピストルを使用していた。
1930年代ドイツのワルサー社は、すでにダブル・アクション・トリガーを備えて即応性に優れた,ワルサー・モデルPPピストルやワルサー・モデルPPKピストルを生産していた。
しかし,当時のドイツ警察は,第一次大戦前から使用していた旧式ピストルを大量に保有し,それらを継続して使用していた。新型ピストルが登場しても、予算などの関係から,ピストルを新型に一新することはなかなか出来ない。
セミ・オートマチック・ピストルの当時の一般的な使用法は,射撃の直前にスライドを後退させ、初弾をチャンバ−に装填することと考えられていた。現代警察ほどピストルの即応性は重視されておらず,セミ・オートマチック・ピストルにおけるシングル・アクションとダブル・アクションの差がそれほど大きくなかった。そのためドイツ警察は,旧型シングル・アクションのセミ・オートマチック・ピストルを多く使用し続けた。
加えて,ワルサー・モデルPPピストルやワルサー・モデルPPKピストルがナチ党の標準ピストルの指定を受け,大量に納入されて警察に対する供給が十分でなかったことも,警察が旧式のモデルを使い続けたことの理由の一つだった。
マゥザー・モデル1914ピストル(Mauser M1914)
社名のMauserは、戦前から日本で一般的にモーゼルと表記されている。モーゼルという表記は誤りといえない。確かに戦前ドイツではモーゼルと発音し,現在でも南ドイツのバイエル地方でモーゼルと発音している。しかし、現在ドイツでは,マゥザーと発音することが一般的になっている。全体的にドイツ語も英語などの影響を受け,発音が軽くなる傾向がある。英語も同様で,マゥザーと発音する。現在,地名なども原音を尊重する方向にあることから,本記事ではドイツ語発音に近いマゥザーと表記することにした。
 
上左は、なかなか味のあるマゥザー・モデル1914ピストル(Mauser M1914)の古典的イラストで,7.65mm警察ピストル・ハンドブックから転載した。
マゥザー・モデル1914ピストルは,先行する小型のマゥザー・モデル1910ピストルを改良した中型ポケット・ピストルだ。マゥザー・モデル1914ピストルは、第一次大戦前にドイツ警察に採用された。
1934年になってマゥザー社は,マゥザー・モデル1914ピストルに改良を加え,マゥザー・モデル1934ピストルを完成させた。このマゥザー・モデル1934ピストルは,ドイツ警察,陸軍,海軍などによって採用された。ドイツ警察で採用されたものの,基本的にモデル1914ピストルと同型式だったためか,ハンドブックに掲載されていない。
マゥザー・モデル1910ピストル,マゥザー・モデル1914ピストル,マゥザー・モデル1934ピストルは、大きさ、外見などがわずかに異なるものの,基本的に同型のメカニズムで設計されている。
バレル上面がスライドの上部から露出した構造をもち,ストライカー方式のシングル・アクション撃発機構を組み込んである。
トリガーの後方,グリップ上部にマニュアル・セフティ(手動安全装置)がある。このマニュアル・セフティは,レバーを押し下げるとセフティがロックされる。セフティの下にある丸いボタンが,セフティ解除ボタンである。このボタンを押すと、スプリング・ロードのセフティ・レバーが上昇し、安全が解除される。
マガジン・キャッチは,グリップの下面にあり,レバーでマガジン底部をロックするコンネンタル・タイプだ。
マガジンそのものが,スライド・ストップ・リリースを兼用している。マガジン内の最終弾が発射されると,フレームに内蔵されたスライド・ストップが作動し,スライドを後退位置で停止,ホールド・オープンする。弾薬を装填したマガジンをピストルに差し込むと,スライド・ストップが自動的にスライドから外れ、スライドを前進させる。
このスライド・ストップ・リリース方式は,なれないとまごつき,場合によっては不用意に弾薬をチャンバ−に装填してしまう危険性をはらんでいるが,この後のHScピストルまで続けて採用された。
スライドを手で後退させるための滑り止めセレーションは面積こそ少ないものの,モデル1914/9134mピストルはスライド面から盛り上がっていて手が滑りにくくなっている。この点なども、生産性一辺倒で設計される現代ピストルと異なっている。
モデル1934ピストルは,モデル1914ピストルをマイナー・チェンジしたもので,小さくて握りにくいと指摘されたグリップが改良された。グリップ後面下部が大きくなり,グリップ・スカートが広がった形状になった。この形状は,当時好評だったワルサー・モデルPP/PPKピストルのグリップに影響を受けて、改良されたものと信じられている。
ザゥアー&ゾーン・モデル1913ピストル,モデル1934ピストル
(Sauer und Sohn M1913 M1934)
Sauerの発音もMauserと同様だ。日本では,戦前から一般的にザウエルと表記されてきた。マゥザー同様に現代ドイツ語では,ザゥアーと軽く発音されるようになった。ドイツ語ではSaはザと発音するが,英語でサと発音するため、英語圏をベースにする人の中にはサワーと表記する人もいる。外来語の発音を,カタカナで日本語として表現することは難しい。正確には,ほとんど不可能ともいえる。
とにかく、原産国のドイツ語にもっとも近い表記をするならザゥアー・ウント・ゾーンとなる。ウントはドイツ語でアンドを意味し、英語と同じく&と置き換えられる。
 
 
ザゥアー&ゾーン社のピストルのモデル1913ピストルやモデル1934ピストルなどのモデル名は,本来オリジナルのメーカーによって名付けられたものではなかった。
1913年に最初のモデルが生産されたとき、メーカーは,単にザゥアー&ゾーン・セルブストラーデ・ピストーレ(セルフ・ローディング・ピストル)と名付けた。1934年に新型が発売されると、1913年に発売されたモデルは,セルブストラーデ・ピストーレ・アルト・モデル(セルフ・ローディング・ピストル旧型)と呼ばれるようになる。
一方、新型のピストルは、ザゥアー&ゾーン・セルブストラーデ・モデル・ビフォーデン(ザゥアー&ゾーン・セルフ・ローディング・ピストル官需モデル)と名付けられた。
モデル1913ピストルやモデル1934ピストルなどのモデル名は,メーカー自身でなく、むしろ、ピストルを識別する必要のあった鑑識関係者やコレクターによって,発売年やパテントの発行年をもとに後に名付けられたものだった。しかし、これらのモデル名は,現在では広く一般的に使用されるようになり,世界中で認知されている。
ザゥアー&ゾーン・モデル1913ピストルやモデル1934ピストルは,いずれもシングル・アクション・トリガーを備え、ストライカー方式の撃発機構を組み込んである。20世紀初頭のヨーロッパのポケット・ピストルは,スナッグ・プルーフを意識して,ハンマー露出方式で設計されるものほうが少なかった。
ザゥアー&ゾーン・モデル1934ピストルのトリガーは,現代の一連のグロック(Glock)ピストルに装備されているようなセフティが組み込まれている。断面図を添付してあるので、トリガーの周辺を注目してほしい。トリガーそのもののなかにセフティを組み込むアイデアは、すでにこの時代に考えられていた。

The History of German Police Pistols
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Chapter1 : 第二次世界大戦前,1930年代
1-1 Page 1 : Mauser M1914, Sauer & Sohn M1914, M1934
1-2 Page 2 : Sauer & Sohn M38(H), DREYSE
1-3 Page 3 : Walther PP, PPK, M1880 Revolver
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