2004年4月  長瀞国際射撃場の現状  Apr. 2004 The current status of Nagatoro Shooting Range

 クレー射撃に使用される散弾は、いうまでもなく鉛が主成分だ。鉛は元素記号Pb, 原子番号82の金属元素で、比較的錆びやすく、すぐに黒ずんでしまうが、結果として腐食が内部に進みにくい。比重は11.34.
 散弾は鉛そのものが使われているわけではなく、硬鉛とよばれるアンチモンが添加された合金である。アンチモン(Antimony)は元素記号Sb, 原子番号51の半金属(Metalloid)だ。
 この両者はいずれも毒性を持っており、土壌汚染対策法で特定有害物質として指定されている。生物の体表や消化器官に定着すると腹痛や嘔吐、食欲不振、感覚異常症などの中毒症状を起こす。主に呼吸器系と消化器官から体内に吸収され、微量でも長期にわたって摂取していると、中毒症状が発症する場合がある。
 
 2000年以降、我が国ではクレー用散弾の鉛公害が注目を集めることとなった。その結果、県営及び公営の複数の射撃場が使用停止に追い込まれてしまった。しかし本当に鉛散弾は人の健康を脅かすのだろうか。
 大気汚染物質として空気中に含まれる金属は、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、マンガン、鉛、カドミウム、水銀、バナジウム等がある。一般的な生活環境の中で、人は工業排気や自動車の排出ガスからこれらを日常的に吸引している。
 鉛の場合、食物や水から経口的に1日平均300μg、大気から経気道的に30μg、合計330μgの鉛を摂取している。大都会に居住する場合、大気より15mg/年、飲料水より5mg/年、食物から100mg/年の鉛を摂取しているとされる。しかし、体内に吸収される鉛の多くは吸収されずに排出される。
 経口摂取では約8%が吸収されるにすぎない。呼吸器から吸入された鉛は14〜45%が吸収され、8%弱が気管に沈着する。
 鉛は水道水からも微量に摂取している場合がある。なぜなら水道管本管から宅地内の蛇口まで引きこまれている水道管(給水管)として、鉛管が1960年ごろまで全国的に使用されていた。この鉛管の腐食により、水道水が鉛に汚染されてしまう。
 水道水に含まれる鉛を毎日飲んでも健康に問題がない値として、国が定めた水質基準は現在0.01mg/リットルだ。
 クレー射撃場の問題は、毎日発射される鉛散弾により、大量の鉛が地中、地表に体積し、それが土壌を汚染するというものだ。
 しかし本当にクレー射撃場周辺は鉛に汚染されているのだろうか。

                          

           この素晴らしい射撃場にクレーが飛ばなくなって既に2年5ヶ月が経過した。

 鉛は酸素、水と炭酸ガス中では、その表面に塩基性炭酸塩の被膜を生じさせる。単体でいるのではなく、イオン化して安定しようとする傾向がある金属ということだ。すなわちイオン化して内部を保護し、安定する。だから大量の鉛があっても、そのままでは危険はない。問題があるとすれば酸性雨などにより不安定な状態となり、溶出してしまった場合である。
 埼玉県長瀞総合射撃場は、300mライフル射撃場10射座、50mライフルスラッグ・ランニングボア兼用射撃場5射座、50mSB射撃場50射座、10mエアライフル射撃場51射座、そしてトラップ2射台、スキート2射台、トラップ・スキート兼用射座1射台を擁する日本最大規模の射撃場だ。しかし鉛公害問題の影響を受けて、2001年11月より、クレー射撃場の使用が出来なくなっている(ライフル射撃場は鉛のほぼ100%回収が可能である為、従来通り営業している)。
 確かに長瀞射撃場は、1994年6月2日に開業して以来、一度も鉛回収作業を行わずにきた。
 しかし長瀞射撃場近辺の水は12箇所で測定した結果、鉛の含有量が最高値で0.008mg/リットルであり基準値内であるとの情報がある。しかし埼玉県は長瀞射撃場がそのまま鉛弾を使用することを認めなかった(一方で、検出した鉛は基準値を超える0.16mgという情報もある。土壌からは2.8mgもあったという)。
 たとえ基準値内であったとしても、大量の鉛を放置しておいて良いわけはない。環境汚染に対する許容基準は世界的に厳しくなりつつある。
 そのため4億円をかけて大規模な鉛回収作業が行われた。これにより長瀞射撃場周辺は、射撃場が原因の鉛土壌汚染の心配は無くなったはずだ。鉛回収工事後の水質調査結果は不明だが、埼玉県は工事終了後も、長瀞射撃場での鉛弾使用を認めなかった。
 民間の射撃場では鉛を定期的に回収することで、鉛弾による射撃でも汚染問題を起こしていない(民間射撃場の鉛回収経費は、長瀞射撃場よりはるかに少ない。なぜ県営や公営射撃場だと莫大な経費が掛かるのかはあえて書く必要はないだろう)。しかし埼玉県は長瀞射撃場に対して、鉛以外の材質を使うなら射撃場の再開を認めるが、鉛を使用するなら再開の許可を出さないという方針を示した。
 埼玉は2004年の国民体育大会の開催県だ。長瀞射撃場は、この国体の射撃競技開催予定地となっていた。クレー射撃は国際ルール上、鉛弾を使用することとなっている。これは鉛以外の材質の散弾を使用した場合、スチール散弾では安全上の問題があることと、鉛を使用しても、定期的に射撃場から鉛を回収すれば土壌汚染の心配がないことが、全世界的に確認されているからに他ならない。タングステンポリマー弾といった代替弾もあるが、コスト的な問題がある。
 いずれにしても、鉛弾の使用を埼玉県が認めない為、2004年国体でのクレー射撃競技の県内開催が不可能な事態に陥っていた。

左:「地球環境の保全に配慮しています」というこのプレートは、鉛回収工事が始まる前からここにあった。右:「2004年彩りの国 まごころ国体」の垂れ幕はクラブハウス外に掲げられている。

 2003年夏、11年に渡り埼玉県政に君臨していた土屋義彦埼玉県知事は、長女が政治資金規正法違反で逮捕されたことから失脚した。このため、2004年初頭になってからやっと埼玉県は国体での鉛弾使用を認め、無事にクレー射撃競技が開催されることとなった。
「鉛が有害なことは判っているが、だからといって有害物質を使用するクレー射撃競技は他県に開催してもらう、ということは余りにも身勝手だ。」、これが新しい埼玉県知事が、クレー競技の長瀞開催を承認した理由だという。
 国体終了後、速やかに鉛を回収することが国体開催の条件だとされている。またクレー射撃場の鉛弾による一般営業再会についてはまだ結論が出ていない。
 おそらく鉛弾が絶対に外に飛び出さず、完全に回収出来る形であれば、営業再開は可能と思われる。

  地面の殆どが舗装されている。地面に落下した散弾やクレーの破片、ワッズは比較的容易に回収可能だろう。

 現在の状態を見ると地面からの回収は可能だろう。壁面もコンクリートで固められた部分は大丈夫だ。土壌が露出した部分をシート等で覆うことで鉛の回収は可能と思われる。しかし国体開催後の鉛回収予算がまた2億円だそうだ(いったい何をどうやると2億円にもなるのか)。
 営業再開にはもっと恒久的かつ低コストな対策が必要だろう。
 トラップ第1射台は射線の先が開けていて、このままでは鉛回収は困難になるかもしれない。海外の射撃場のような開放感のある射台であったが、それが裏目に出てしまった。

                         トラップ・スキート兼用射台

 トラップ第2射台、兼用射台、スキート第1射台までは地面を完全に舗装し、落下した散弾, クレーの破片、ワッズの回収も比較的容易に出来る。あまりはっきり覚えていないが、以前、この部分は土が露出していたと思う。一番奥のスキート第2射台は何も工事されていない。トラップに比較して使用者の少ないスキートは第1射台と兼用射台だけで運営しようということかもしれない。

 壁面の前には大きなプールがあり、雨水がたまっていた。鉛回収工事前からこういうモノがあったのかどうかは判らない。
 長瀞射撃場クレー射台は2005年4月に営業再開を目指している。あと1年後だ。これからも紆余曲折があるだろう。そして、本当に1年後、鉛散弾での営業ができるのかは、まだ判らない。しかし立派な改修工事がここまで出来ているのだ。低コストな鉛回収方法を選択し、1日も早く完全営業を再開して欲しいと思う。

        《このページにある長瀞射撃場の写真は、いずれも2004年4月初めに撮影したものです》

Apr.5, 2004
by ShootingTips

△ up