| Condition 1
ボブ・リー(Bob Lee)&アール・スワガー(Earl Swagger)サーガはスティーヴン・ハンター(Stephen Hunter)の小説だ。ライフルシューターを興奮させた“極大射程(Point of impact) ”から始まった、天才的狙撃手ボブ・リー・スワガーの物語は、時間を過去に遡ってその父、第二次世界大戦硫黄島の英雄、アール・スワガーの物語につながっている。2004年に書かれたその最新作は“ハバナの男たち(Havana)”だ。
1953年キューバ、革命前のハバナにアール・スワガーがアーカンソー州下院議員の護衛として現れる。パーティの席上、アールに近づいたアメリカの外交官ロジャー・エバンズは、アールがスーツの下にショルダーホルスターで吊っているピストルを見つけた。
(このロジャー・エバンスは、1980年に書かれた“魔弾(The Master Sniper)”にアメリカ軍の軍曹として登場した男だ)
そしてロジャーはアールに言う。
”Your old .45? I carried one, too.” (それは旧式の45口径?私もそういうのを1挺持っているんだ。)
アールはそれに答えた。
” Close enough. Yeah, It’s a Government model, but not a 45, It’s what’s called a Super 38.”(近いですな。ガヴァメントモデルには違いないですが、45口径ではないです。スーパー38と呼ばれるやつで)
1953年、第二次世界大戦が終わり、新たな敵、共産主義との戦いが始まったこの時代。アメリカは1911年以来、半世紀近くにわたって制式採用してきた45口径ガバメント・モデルに見切りを付けようとしていた。
朝鮮戦争がはじまらなかったら、新型ピストルのトライアルがおこなわれていたかもしれない。そんな時代の気分を反映して、“old .45”という言葉が使われたのだろう。実際1950年代から1970年代にかけて、当時の銃器雑誌の記事には“old .45”という記述を何度も見ることができる。
第二次世界大戦時において、45という大きな口径のピストルに固執した国は、ほとんどアメリカだけだった。英国も455口径を使用していたが、既に38口径への転換を図っていたし、戦後、西ヨーロッパ各国はNATOの規格に従い、9mmへ移行した。
この新しい流れと比較した時、アメリカのM1911A1は時代遅れの老兵のように見えたのだろう。その流れを受けて1955年には、S&W M39が登場する。9mmパラベラム、ダブルアクション、アルミニューム・フレーム。ドイツで戦前に開発されたワルサーP-38を参考に、アメリカ的なテイストで設計されたM39は明らかにM1911A1より新しい香りを振りまいていた。
“old .45”と呼ばれ始めた1950年代から半世紀が経過した現在、老兵M1911系は依然として生き伸びている。しかしM1911系は当時のままの姿ではなくなった。
大きなフロントサイトを装着し、リアサイトもBO-MARやWichitaなどのアジャスタブルサイトや、固定式でもより大きく狙いやすいNOVAKサイト等が装着された。
セフティレバーを拡大し操作性を向上させ、左右どちらの手でも操作できるambidextrous タイプとしたものも多い。
グリップパネルを替えて、フレームにはチェッカリングを施した。マガジンウェルを拡大、マガジン交換を容易にした。
ハンマースパーの形状を変更し、リング型、エッグホール型など軽量化されたものが装着された。トリガーも大型化したが、重量増加を避けるべく軽量な素材を使用している。
バレルも標準のままではない。バレル保持方法も改められ、コーンバレル等、ブッシングレスとしたものも多く、精度向上を果たしている。
ハイキャパシティフレームの採用や、ポリマーフレーム化など、あらゆる部分に手が加わり、もはやM1911A1とは似て非なるものとなった。これが現代に生き残ったM1911の進化形だ。
パテントの切れたM1911は、2ケタに及ぶメーカーがクローンモデルを作っている。改良されたM1911は老兵どころか、最良のコンバットピストルとなった。
一方、新時代のセミオートとして期待されたM39系はもはや埋没気味と言わざるを得ない。
ダブルカアラムマガジン化したM59, 改良が加わったM659, M459, M439, 化粧直しされサードジェネレーションモデルとしてM5906をはじめとしたバリエーションが多数登場し、現在まで生きているが、注目を浴びるということはあまりない。
そのS&Wですら、現在はM1911シリーズを製造販売し、むしろS&Wオリジナルのダブルアクション・モデルを凌駕す勢いだ。
現代のコンバットピストル はGlock, そしてM1911系、SIG P220系、M92F系などが主流だが、アメリカのプロフェッショナル・ユーザーの世界ではGlockとM1911クローンのいずれかに二分されているように見える。かつて新型と呼ばれたダブルアクションオートは、一般兵士や通常のポリスオフィサーに向いたモデルだ。Edgeに立つプロフェッショナルはコンベンショナル・ダブルアクションに満足できず、Glockのセイフ・アクション(safe action)やM1911系のシングル・アクションを選択している。
そして時代遅れだといわれた45口径も確実に復権した。相手を叩きのめすには、9mmでは力不足で、少なくとも40S&Wが必要だ。45なら更に良い。この感覚はアメリカ独特なものかもしれないが、実態としてアメリカでは、9mmパラベラムでは公用としては不十分と考えられている。この45口径の復権もまたM1911系を生き返らせ、活性化させている原動力の一つだ。
M1911系のシングル・アクションを使いこなすにはじゅうぶんなスキルが必要だ。デコッキングレバーを操作すればとりあえず安全な状態になるダブルアクションとは大きく異なる。
M1911にアモをロードした待機状態には3つの段階があり、それぞれコンディション1、2、3と名付けられている。
コンディション1:チャンバーにもアモを送り込み、ハンマーはコックされている。マニュアルセフティはオンポジションだ。M1911系のマニュアルセフティは親指の位置に配置され、瞬時にoffにすることができる。クリップセフティは握った瞬間にオートマティカリーに解除されるので問題はない。すなわち親指のわずかな動きで安全を解除し、即応体制に入ることができる。いわゆる第一戦闘待機態勢がコンディション1だ。

Colt M1991A1 Condition 1
ハンマーを起きた状態で保持しているのは、カーブした形状のシア(sear)だ。これがハンマーのコッキングノッチに納まり、ハンマーが起きた状態のまま保持される。このシアが回転し、ノッチから外れるとハンマーは前進してファイアリングピンを打ち、撃発する。
トリガーを引くとトリガーバーが後ろに動き、シア下部を押して回転させる。マニュアルセフティはこのシアの回転をブロックする。シアが回転しなければハンマーのコッキングノッチから外れることは無い。
マニュアルセフティレバーの内側に突起があり、セフティオンの時はこの突起がシアの回転を阻害する。突起に阻まれてシアが回転できず、ハンマーのフルコックノッチから外れない。
シアはカーブを描いた形であり、もし破損しても形状的にハンマーコッキングノッチから外れない。すなわち、マニュアルセフティをonにしてある限り、暴発は起こりえない。
コンディション2:チャンバーにアモを送り込んであるが、ハンマーはレストポジション(最大前進位置)にある。即応性は落ちるが、ハンマーがレストポジションにある為、安全性は高い。この状態では、地面に落としてもハンマーはもはや前に進むことは不可能であるため、暴発することは無いといっても良い。
コンディション2ではマニュアルセフティはオンにはならない。設計したジョン・モーゼス・ブラゥニングがどこまで意識していたかは定かではないが、ハンマーレストポジションでセフティをオンにできないようにしたのは正解だ。操作方法はシンプルであるべきで、わずかでも選択肢があることは得策ではない。
コンディション2の状態から戦闘態勢に入るには、レストポジションにしたハンマーをコックする。
M1911系のハンマーはグリップした親指で操作することが比較的容易だ。しかしグリップセフティをビーバーティル・タイプなどティル部分を延ばしたものにした場合、親指での操作は困難になる。その場合は、グリップしていない方の手を使いハンマーをコックする。
本来、ピストルは片手で操作できることが前提だ(装填や排莢は別だが)。待機状態から戦闘態勢に入るにあたり、両手を使わないといけないことは好ましいことではない。

M1911A1 schematic
このコンディション2について、ハンマーをハーフコックポジションにすることと誤解されている場合があるようだ。ハーフコックは、ハンマーがわずかに起きた状態で、ファイアリングピンにハンマーが触れていない状態をいう。位置的にはハーフではなくクォーターコックというべきポジションだが、一般的にこの状態をハーフコックという。
ハーフコックは本来、ハンマーレストポジションからフルコックポジションにする過程で、万一、ハンマーに掛けた指が滑って、ハンマーを起こしそこなった場合、ハンマーはファイアリングピンを叩いて暴発させてしまうことを避けるためにある。
ハンマーがファイアリングピンを叩く前にシアーがハーフコックノッチに掛かり、ハンマーを止めるわけだ。これは緊急用のポジションであり、この状態を維持することは好ましいことではない。
わずかでもハンマーは起きて、ファイアリングピンに触れていない。もしこの状態で携帯し、間違って銃を地面に落として、ハンマーに大きな打撃を与えた場合、ハーフコッキングノッチが破損し、ハンマーが前進する可能性はゼロではない。
わずかな距離を前進したハンマーはファイアリングピンを打撃し、その勢いでアモのプライマーを叩けば暴発となる可能性がある。ハンマーの移動距離が短いといっても、この確率はゼロではない。
しかし、スチールで作られたハンマーのハーフコック・ノッチは破損するものなのだろうか。
昔、スタームルガーのシングルアクションリボルバー、ブラックホークで事故があった。シリンダーに6発フル装填してホルスターにいれ、馬に乗っていた人が落馬した。その人物はハンマーをわずかに起こしたクォーターコックの状態としていた。地面に落ちた際、ハンマーがクォーターコックノッチから外れ、ファイアリングピンはプライマーを打撃した。ブラックホークは暴発し、その人物の足を撃ち抜いた。
フルコッキングノッチと比べると、ハーフコッキングノッチの方が壊れやすい形状をしている。
ダブルアクション・リボルバーならハンマーブロックがあり、6発フル装填しても問題はなかった。しかし、シングルアクションリボルバーは6連発でも、携帯時にはハンマーが位置するシリンダーの1箇所だけは空にして5連発とすることが当時の常識だった。その人物は、そのような安全対策をメーカーが使用者に確実に伝わるようにしていなかったとして、スタームルガーを訴えた。そしてスタームルガーは莫大な賠償金を支払うことになった。
この時は落馬の衝撃でクォーターコックノッチが破損したのだ。いくらスチールハンマーであろうとも、過信は禁物だ。
結局、この事件の後、ルガーはバレルの側面に、
“READ INSTRUCTION MANUAL (説明書を読め) ”
という一文を付け加えると共に、シングルアクションリボルバーをフル装填したとしても暴発はありえないように、確実な安全対策を施したトランスファーバーロックシステムに切り替えた。
だから間違ってもM1911系をハーフコックにして携帯してはならない。ハーフコックは最悪のキャリースタイルだ。
先に挙げたスティーヴン・ハンターも勘違いをしているようだ。“ハバナの男たち(Havana)”の中で、アールが38スーパーをホルスターから抜いて、ハンマーをハーフコックからフルコックにするというシーンがある。
M1911も一部にはオートマチック・ファイアリングピン・ロックシステムを組み込んだものがある。コルトのシリーズ80、KimberのIIモデル、Para-Ordinance、 S&W 1911などは、たとえハンマーがファイアリングピンを打っても、トリガーが引かれていない限りファイアリングピンは固定され、暴発はない。しかし圧倒的多数のM1911クローンはこの機能がない。だから確実にハンマーを前進させておく必要がある。
ハンマーを完全に前進させても、ゆっくりであればファイアリングピンはボルトフェイスから飛び出す事はない。
これはイナーシャ(inertia)タイプと呼ばれる形式で、大きな質量のハンマーが前進することで、小さな質量のファイアリングピンが大きく動き、プライマーを叩くようになっている。ほとんどのエクスターナル・ハンマー・セミオートマチック・ピストルはこの形式をとっている。
但し、旧共産圏のセミオートマチックの場合は、イナーシャタイプではなく(ファイアリングピンが長い)、ハンマーを前進させるだけでプライマーを叩く可能性があるので注意が必要だ。
コンディション2にする為には、チャンバーにアモをロードする段階でコックされたハンマーを静かに戻す必要がある。ハンマーを指で押さえながら、トリガーを引き、注意深くゆっくり前進させる。これには両手を使い、細心の注意が求められる。
この時、ハンマーから指が滑って勢いよく前進させてしまったら暴発だ。したがって本当に注意が必要だ。万一、暴発させたとしても被害の及ばない方向に銃口を向けておくといった配慮も不可欠となる。
ハンマーを前進させるためにトリガーを引くわけだから、トリガーと連動したオートマチック・ファイアリングピン・ロックシステムも機能しない。

Condition 1での携帯に精神的に不安を感じる場合、ファイアリングピン後端とハンマーの間にストラップを掛けるという手段がある。サム・ブレイク(thumb break)のストラップなら、瞬時に外すことができるし、これが掛かっている以上、暴発はあり得ない。銃の抜け落ち防止も図れる。
ワルサーがダブルアクション・システムを実用化させた時、デコッキングレバーを搭載させた理由はこのハンマーダウンの操作に注意が必要だからだ。本来であれば、ダブルアクション実用化以前にも、このようなデコッキングレバーが普及していていなかったのは、おかしな話だ。
こんなに注意深く行なわなければいけないなら、コンディション2などにする理由はあまり無い。M1911のマニュアルセフティは優秀な設計だ。ヘタにハンマーを落とさず、コック&ロック(cocked’n’locked)に頼るほうが良い。現代の先鋭的ユーザーはいずれもコック&ロックで1911クローンを使用している。

グリップに手を掛けながら、親指でストラップをブレイクする。多少の練習が必要だが、慣れれば瞬時に銃を抜くことができる。
アメリカ軍が過酷なトライアルの末、M1911を制式採用した段階では、コック&ロックなどという携帯法は考えられていなかった。当時のセミオートマチック・ピストルは次のコンディション3で携帯することが常識だった。
コンディション3:チャンバーは空の状態で、ハンマーはフルダウン(fully down)として携帯する。安全性はこれがもっとも高い。この状態で暴発するわけがないからだ。
もしピストルを発射するような事態に遭遇したならば、ホルスターから銃を抜き出し、もう一方の手でスライドを掴んで後方に引き、そして手を放す。
チャンバーにマガジン最上段のアモが送り込まれ、射撃準備が整う。これは一瞬に出来る。しかし両手がフリーであることが前提だ。ピストルとは片手で発射できるものであるとするなら、このコンディション3は失格だ。しかし、100年前はこの方法が当たり前だった。
ちなみに緊急時は別として、スライドを引く際、銃口は安全な方向を向けておくことも必要だ。チャンバーにアモを送り込んでスライドが閉じた際、その衝撃でハンマーが落ちてしまう、という事故が無いとはいえないからだ。トリガーを著しく軽くした場合、この問題が起きる可能性がある。
射撃時に2、3発連続発射してしまう事故がある。これも同じ現象だ。トリガーのパーツが重い場合もこの問題が起こる可能性がある。スライド閉鎖の衝撃で重量のあるトリガーが勝手に動くわけだ。コレを防ぐ目的で、多くのカスタムトリガーは内側をえぐって軽量化している。
コルトM1911はエクスターナル・ハンマー(外装式ハンマー)として、コンディション2という選択肢を一般的にした。当時はインターナル・ハンマー(内装式ハンマー)やストライカーといったハンマーレス・タイプが多い時代だった。
チャンバーにアモをロードしたまま安全に携帯できるコンディション2を選択できることは、M1911のアドバンテージのひとつであっただろう。
しかし現代は、銃を抜き出してから指でハンマーを起こす余裕も与えられない状態を想定しておかなくてはならない。
そうなるとコンディション1しかない。現代に生き残ったM1911クローンは、コンディション2やコンディション3を想定していない。あるいのはコック&ロック(cocked’n’locked)だけだ。
M1911クローンの多くはオートマチック・ファイアリングピン・ロックを装備していない。その原因はコルトがM1911系に組み合わせ、トリガーでアクティベイトするオートマチック・ファイアリング・ピン・ロックのパテントを押さえていたことと、これを組み込むとトリガー・プルがわずかに重くなる為、それを嫌うシューターが少なくなかったからだ。
パラ・オーディナンスはトリガーでアクティベイトするオートマチック・ファイアリング・ピン・ロックをハイキャパシティ・フレームに搭載した。KimberとS&Wはグリップセフティを握り込むことでアクティベイトするオートマチック・ファイアリング・ピン・ロックを使用している。
この機能がないM1911系は多数ある。それでもプロフェッショナルはコック&ロックでガンをキャリーしている。
マニュアルセフティとシアーの構造から、セフティオンであれば、絶対に暴発しないことを確信しているからだ。
コルトが保持していたオートマチック・ファイアリング・ピン・ロックのパテントも既に消滅した。
M1911系はcondition 1で使用する。もし暴発するようなことがあれば、それはM1911に問題があるのではない。ヒューマンエラーだと考えるべきだ。
そして確実にcondition1を使いこなせないシューターはM1911系を使用するべきではない。
May 11, 2005
Satoshi Maoka
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