BOLLARD 鉄の匂い     Satoshi Maoka  Aug.23, 2006 掲載

 
“銃が好きな人はバイク(モーターサイクル)も好きだ”こういう意見を何度か聞いたことがある。この発言をした人は、自分自身と、自分の周りの何人かの例を見て、そのように結論付けたのだろう。
 
銃愛好家の何パーセントがバイク愛好家であるかは知らないが、銃愛好家である自分はバイクには興味がない。ほぼゼロだ。高校生の頃、バイクの免許を取ろうとしたことはあったが、それはまだ4輪車の免許が取れない年齢だったからだ。結局、自動二輪の免許は取得しなかった。
 
バイクを見れば、カッコいいと思うこともあるし、造形の美しさを感じることもある。しかしそれは、“興味がある”とか“好きだ”というレベルではない。欲しいとは思わないし、乗りたいとも思わない。
 
だから“銃が好きな人はバイクも好きだ”という定義は絶対的なものではない(当たり前だ)。自分は、バイクには興味なしだが、ちょっとだけ時計が好きだ。時計は精密機械である。銃よりはるかに複雑な機械だ。しかし銃もまた一定のサイズの中にパーツを組みこんで構成された機械であり、ある部分、感覚的に通じるものがある(と思う)。バイクだってそうだ、というバイク派の意見が聞こえてきそうだ。
“はい、その通りです”、でも興味があるかないかは、感性で決まる。バイクは私の琴線に触れない。それだけだ。
 
だから私は“銃が好きな人は腕時計も好きだ”などとは絶対に言わない。
 
Shooting Tipsは銃のWeb siteだ。銃に関係の無い話を書くのは本来の在り方に反する。
“そんなこと言ったって、銃と関係のない歴史話を延々を書いたことが何度もあったではないか”というご意見が聞こえてくる。でも歴史的背景は銃を理解するのに重要だ(ハワイの歴史はあまり関係なかったかも・・・)。
 
今回は例外的に銃、射撃には直接関係の無い腕時計のimpressionを書かせて頂く。しかし、これを書くのは、この時計に “鉄の匂い”を感じたからだ。“鉄の匂い”は自分にとっては“銃の匂い”と同じだ。私はこのBOLLARDという腕時計に、自分の好きな“銃の匂い”を感じた。デザイナーの目指したものとは違うだろうが、これは製品を手にした者の感性なので許して頂こう。

 
グランドコンプリケーション・ウォッチBOLLARD (ボラード)1999SBKは1999年に登場した。1995年に活動を開始したウォッチ・ブランド“GSX”の上級ラインとして2年の開発期間をかけている。ムーブメントはシチズンのCaliber 6770だ。
 
グランドコンプリケーションとは、多数の機能を有する複雑時計の総称だ。クロノグラフ、永久カレンダー、ムーンフェイズ、そしてミニッツリピーターが備わっていればグランドコンプリケーションを名乗るにはじゅうぶんだろう。機械式で造れば、数千万という価格になると言われている。超一流の時計職人にしか作れない。年産数個が限界だろう。
 
Cal.6770にはこれらの機能が搭載されている。但し、クォーツだ。
 
多くのブランドがこのムーブメントを活用してオリジナルウォッチを作った。最初はシェルマン(Shellman)だったと思う。アンティーク・ウォッチ・ショップであるシェルマンがオリジナルのグランドコンプリケーションを造ろうとしたとき、当然機械式としたかったに違いない。しかし数千万円では購入できる人はごくわずかだ。
 
シェルマンはシチズンのCal.6770が利用できることを知って、オリジナルのグランドコンプリケーションを造ることにしたのだろう。そのときのキャッチコピーは「クォーツは嫌いですか?」だ。これがシェルマンの最初のオリジナル・ウォッチだ。1998年、¥129,000-だった。
 
クォーツのグランドコンプリケーションは妥協の産物かもしれないが、完成度は高い。この時計はスイスのラショードフォン国際時計博物館の永久展示品となっている。
 
続いて時計ショップTIC TACも同じCal.6770を使って、グランドコンプリケーションを造った。価格的には10万円程度で比較的安く買いやすいものとした。
 
GSXが造ったのは3番目だったと思う。“MADE ON THE EARTH 地球発・・・1999年最期のグランドコンプリケーション” 1999年11月10日発売(28日という説もある)、¥138,000-だった。
 銀座の天賞堂もこのCal.6770を使ってオリジナルを造っている。おそらくGSXの後だったと思う。その他、TAKEO KIKUCHI, VISARUNO(丸井オリジナル・ブランド)などもこのムーブメントを利用して、グランドコンプリケーションを造った。いずれも1998年から2000年頃の話だ。
 
様々なブランド、ショップが使用したCal.6770だが、現在もシェルマン、天賞堂、GSXはその時計を製造している。もちろん、シチズン自らも製品を作っている。現在カタログにあるのは、少数製造のCAMPANOLA(カンパノラ) ブランド、そのCTR57, CTU57のシリーズで¥189,000-〜¥315,000-だ。
 
GSXはこのムーブメントを使う時計をBOLLARDと名付けた。
 
もっとも2007年9月に発売される905ラインにもBOLLARDの名を付けた。これはモデル1999から続くグランドコンプリケーションのBOLLARDとは別物だ。
 
自分がこのグランドコンプリケーションBOLLARDを意識したのは、2001年頃だったと思う。最初のモデル1999はグレーIPコートで300本が製造されたらしい。その後、2000年9月にモデル2000が登場した。ブラックIP加工、カーボンファイバーの文字盤を持っている。個人的にそのデザインに惹かれた。しかしモデル2000の製造は200本だけだったようで、自分が欲しいと思ったときには既に売り切れていた。
 
BOLLARDが再び市場に登場したのは2002年12月で、2001がモデルナンバーとなった。これは初代のモデル1999のマイナーチェンジモデルだ。自分が欲しかったのは2000であり、2001は気にはなるものの手を出さなかった。

 2005年1月、ブラックIP加工に文字盤の色をきれいな青としたBOLLARD BTSモデルが299本限定で登場した。キレイなブルーの文字盤とブラックIPのボディの組み合わせはGSXのお家芸で非常に魅力的だが、これも自分の求めるBOLLARDではなかった。
 
そして2006年7月、長期にわたって品切れだったBOLLARDに2つの新作が出た。新作といっても1本は初代モデル1999の復刻版に近い。モデル1999を製作する際に、最終選考まで残ったものの採用されなかったデザインで製造した。そしてもう一つが今回のモデル2003だ。これもモデル2000を製造する際に候補となっていたが、結局製造されなかったデザインをモデル2003として完成させたものだ。7年の温存時間があっても、デザインの新鮮さは少しも揺らいではいない。もとの完成度が高いからだ。
 
デザインした石田憲孝氏は、スピードをテーマにし、70年代の映画で描かれた近未来に姿をイメージしたという。そこには鉄の質感が重要なキーワードだ。
 
そして自分もこの時計から強烈な鉄のイメージを感じ取った。鉄の道具といえば自分にとっては“銃”だ。そしてこの時計を見たとき、銃のイメージが重なった。


 
5年も前から気になっていたBOLLARDだ。やっと自分のイメージ通りのBOLLARDが供給されて手に入る。製造番号は2桁という初期ロッドだ(画像は “0000”と修正加工したが、実際には00XXの数字が入っている)。もっともこのBOLLARDも大量生産はされないはずだ。数百本で製造を終えるだろう。
 
GSXは腕時計ショップ“BEST販売”の専務、石田憲孝氏が独自の腕時計を作ることを目指して設立したブランドだ。BEST販売は海外の腕時計を正規に輸入している。平行輸入品は扱っていない。国産品も扱うが、SEIKOのGARANTE,GRAND SEIKO, CITIZENのCAMPANOLAなどごく一部だけだ。 
 
海外品を主に扱うBEST販売ではあるが、GSXは国産にこだわった。GSXが登場した1995年頃は、多くの製造業が安価な労働力を求めて中国に移動していた時期だ。この時流に乗れば、生産コストは下がるが、同時に技術が流出する。NCマシンで製造するような大量生産品はどうにでもなるが、人間の手による職人の技術までが流出しては、日本には何も残らなくなる。時間を知るためだけの時計なら何でも構わない。しかし、持つ人間の感性に訴える時計は人間の手で作られなくてはならない。
 
GSXが徹底してこだわったのは、“自分達の欲しい、味のある時計を、日本の繊細な技術で造る”事だった。1997年、Pure Made in JapanのGSXが登場した。国産ムーブメント、国産素材、国内生産、国内組み立て、国内デザイン、これがPure Made in Japanだ。しかし全てを自分達の手で造れるわけではない。ムーブメントの設計製造は大きなハードルだ。
 
ピンの1本まで自社で製造する時計メーカーはマニュファクチュールと呼ばれる。現在、自社でムーブメントを開発製造している時計メーカーは世界的にみても僅かしかない。有名なROLEX, OMEGA, BREITLINGなどはいずれもマニュファクチュールではない。SEIKOは世界でも数少ない完全なマニュファクチュールだ。但し、安価な製品は中国製など外部から調達したパーツを多用しており、SEIKOが自社で製造するのはあるレベル以上の製品だけだ。
 
GSXのムーブメントはSEIKO, CITIZEN、SII(セイコーインスツル)などから供給を受けている。必然的にデザインの自由度は狭められるだろうが、その中でいかに自分達の感性を製品にまとめ上げるかが重要だ。
 GSXでもスイスの有名なETA社のムーブメントを使用するモデルがある。Pure Made in Japanではない。これは“EXPECTATION”と名付けられたGSXの別ラインだ。ETA社とは、現在PORCHE designの時計を供給しているETERNA社から分離したムーブメント供給会社だ。
 
スイスの著名な時計ブランドはETAのムーブメントを使用している場合が圧倒的に多い。もっともそのまま利用することもあれば、自社で改造して使用することもある。BREITLINGはETAのムーブメントを改良、精度を上げて全モデルをCHRONOMRTRE規格としている。ムーブメントの完全自社製造は難しいということだ。
 
GSXはCITIZENがグランドコンプリケーションとして製造したムーブメントCal.6770の供給を受けた。Cal.6770はクォーツによりグランドコンプリケーションの動きを再現した傑作ムーブメントだ。


 クロノグラフを作動させると秒針は6ビートの細かい動きで進み、その動きは機械式時計と変らない。クォーツでありながら、機械式のような動きを再現したところが、このCal.6770の魅力的なところだ。 
 
ミニッツリピーターの音色は、さすがに数千万のものほど深い音色ではないが、デジタル時計のような音とは違う。
 
ミニッツリピーターとは音で時刻を知らせる機構だ。時報ではない。今が何時何分かを変化する鐘の音色で知らせる。安っぽい音ではいけない。
 
F.P.Journeのソヌリ・スヴレンヌは美しい音色のミニッツリピーターだが、価格は5800万円もする。
 
SEIKOはスプリングドライブ“ソヌリ”は、日本のお鈴の音を奏でる。お鈴とは、仏壇にある鐘で、ティ〜ンという音が鳴るあれだ。これは1575万円だ。
 Cal.6770の音色はそれらとは大きく違う。しかしデジタルチャイムとは違う、良い音を出している。


 
私が惹かれたのは、この時計の持つ“鉄の質感”だ。グレーIP(イオンプレーティング)加工で、黒でも銀でもない、深みのある色となったことが、特に鉄らしさを感じさせるのだろう。初期のチタニウム・ウォッチも同じようなウォーム・グレイだった。しかしチタン製ウォッチは持ってみると拍子抜けするほど軽い。BOLLARDはチタンではない。重量は180gだ。時計としては、かなり重いほうだろう。この重さも鉄の質感を高めている。材質はSUS 316L、硬度の高いステンレスの高級素材で、削り出しだ。
 
ベゼルに組み込まれた航空計算尺の作る平面が硬質な印象をさらに高めている。これほど鉄っぽさを感じる時計は初めてだ。
 現在の銃は“鉄らしさ”はない。ポリマーフレームや軽合金を使い、軽くすることに向かっている。その意味で“鉄らしさ”を持つBOLLARDのイメージは現代の銃ではない。70年代のクラシックなカスタム・ガバメント、あるいは最後の鋼鉄銃の傑作、CZ75あたりか。
 BOLLARDは職人の手仕事で仕上げられているらしい。数百万円以上のスイス製時計なら、職人の手仕事で製造されるのは当たり前だが、このBOLLARD 2003GBKは¥158,000-で手に入る。


 不満がないわけではない。風防ガラスは無反射コーティング加工が施されているが、良く光を反射している。無反射コーティングは風防ガラスの内側のみが普通だ。BOLLARDも例外ではない。両面無反射コーティングはブライトリング(BREITLING)がやっている。両者を比較してみるとその威力は歴然だ。写真はわざと光が反射するように蛍光灯下でおこなった。ほぼevenな条件だがブライトリングには蛍光灯が写りこんでいない。視認性を高めるにはガラスの反射は無いほうが良い。
 しかし、ガラスが無いように見える無反射状態を作り出すには、いくつかの条件が必要だ。文字盤が集光になっていないとガラスのみ無反射コーティングをおこなってもあまり意味はない。またガラス面が完全な平面(内側と外側が同じ形状であるということ)でないと効果がない。 BOLLARD 2003はわずかにドーム状となっている。
 これはBOLLARDのデザインが、ガラスが無いように見える無反射時計を目指したものではないということを意味する。私は無反射を望んだが、デザイナーはそれを目指さなかった。ガラスに写り込む光や影もまた時計の持つ豊かな表情であり、それもまた腕に着けた時計を眺めたときの楽しみでもある。そう考えると、この仕上げは正解なのだ。
 BOLLARD1999-2003はその強烈な外見に反して3気圧防水でしかない。Water 3 BAR Resist, 30m防水で日常生活防水レベルだ。これは、ミニッツリピーターとしたことに起因する。音がしっかりと出るように裏面に12個の穴があり、そのため防水性が犠牲になっている。外観と防水性が伴わないものとしては、OMEGA Speedmasterが代表的だ。スペースウォッチとしてNASAに制式採用されたSpeedmasterも3気圧防水だ。宇宙でなら300mもの防水性能は必要なしというわけか。
 精度についても不満はある。クォーツ時計として月差プラスマイナス20秒は平均的なものだ。しかし、年差プラスマイナス20秒という精度のクォーツ時計もある。スイス天文台の定めるQuartz時計クロノメータ規格は年差プラスマイナス25秒というものだ。この精度があれば、時間はほとんどズレない。1年を通じてプラスとマイナスの時期があり、常に数秒の誤差範囲に収まる。この精度の時計は数年間一度も時間修正が必要ない。実質的には電池交換のタイミングで時間修正をするだけでOKだ。電波時計には負けるが、それに準ずる精度といっても良いだろう。BOLLARD 2003は\158,000-だ。この価格帯のクォーツなら、年差20秒であって欲しい。
 
GSX502はセイコーのCal.VF42を搭載しているが、年差プラスマイナス25秒だ。それでいて価格はわずか¥49,000-。時計としての性格はまるで異なるが、BOLLARDにもその精度があって欲しい。機械式時計なら日差20秒でもじゅうぶんだが、クォーツなら高い精度が必要だ。
 不満な点はあるが、BOLLARDは美しい。マイナスはそれで帳消しだ。そして、カーボンスチールで造られたクラシックな銃の匂いを感じる。そう感じるのは自分だけだろうか。

 この時計をプロデュースした石田憲孝氏は、1975年の映画“Rollarball(ローラーボール)”をイメージしたという。70年代に一瞬だけ人気のあったスポーツのローラーボールではない。近未来の殺人ゲームを描いたRollarballだ。この時計から、ある種の危険な香りが漂うのはその為か。銃に魅力を感じるのは、危険な香りがあるからだ。その危険を制御し、ねじ伏せることが銃を正しく扱うものの務めであることは言うまでもない。

 時間を知るだけなら、どんな時計でも事は足りる。携帯電話でもじゅうぶんだ。わざわざ腕に巻く以上、時間を知るだけではない、もっと魅力的な何かが必要だ。
 
GSX 2003GBKには“危険な香りと鉄の匂い”がある。

Satoshi Maoka
Aug.23, 2006
Aug.30, 2006 無反射コーティングに関して一部修正
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