Two-hand sighted fire
かつてピストルの定義は“片手で操作できる小型の銃”というものだった。この“片手で”という部分の比重は非常に高く、現在においても、“片手で撃てる”ことはピストルであるか否かの重要な要件であるといえる。
現在ではピストルを“片手で撃つべきもの”と考えている人は、ISSF系の古典的スポーツピストル競技者だけかもしれない。ピストルとは“片手で撃つ事もできるが、通常は両手を使って撃つことが好ましい小型の銃”、これが現在の認識だ。
ピストルの両手射撃が一般的になってきたのは第二次大戦以降であり、それまでは殆ど誰もが片手でピストルを撃っていた。両手を使えばもっと楽に撃てることはきっと気が付いていたのだろうが、それをスタンダードとはしなかった。ピストルは銃が実用化した当初から存在したが、長い間、ずっと片手で撃つものだと決め付けられていた。
戦場においてピストルをもっとも活用したのは騎兵(cavalry)だ。現代の騎兵ではなく、馬に乗った本来の騎兵は、馬上で手綱を握りながら射撃をする関係で片手で撃てるピストルを好んで使用した。彼らが片手で射撃する戦闘スタイルが、ピストル射撃は片手でおこなうもの、という概念を長く維持させたといったら言い過ぎだろうか。
両手を使った実用的なピストル射撃が定着してきたのは、この50年程度のことだ。偶然かどうか判らないが、馬に乗る騎兵がほぼ消滅したあとの時代になって、ピストルの両手保持が広まったのだ。
ピストルを撃つ場合、原則的には銃を目の高さまで持ち上げ、サイトを使って標的を狙って撃つ。両手保持(Two-hand eye-level shooting, またはTwo-hand sighted fire)と、片手保持(One hand, eye level dueling stance)を比べてみた場合、ほとんどの状況で両手保持の方が精度の高い射撃が出来るということは言うまでもないだろう。リコイル処理もやり易い。片手が空いているなら、それを使わないという手はない。
ピストルによる銃撃戦は、ほとんどの場合、10ヤード以下という至近距離でおこなわれる。概ね80%がこの距離だ。残りの20%は15ヤードとか25ヤードといった距離で発生する。
数mの至近距離では、精度よりスピードが重要視される。その場合、片手で構え、サイトなど見ずに撃つほうがスピードで優ると一般的に思われている。ところが、実際のところ、スピードはあまり差がない。もちろん、ホルスターからドロゥしてそのまま腰の位置から撃つのであれば、その方が早い。しかしそれは緊急事態だけの選択肢だ。
素早く、かつ正確な一撃を必要とした場合、両手保持によるFlash sight pictureと呼ばれる手法は、片手撃ちとほぼ同等のスピードで撃てるのだ。当然、サイトを使用したほうがより正確な射撃が出来る。
ジェフ・クーパー(Jeff Cooper)は1950年代より両手保持の有効性を強く主張し、今日ではしっかりと定着している。

両手保持による射撃法はWeaver (ウェーバー)スタイル、またはIPSC(イプシィック)スタイルが一般的だ。
WeaverとIPSCはどのように違うのだろうか。
Weaver style
標的に向かい、足を肩幅に開き、左足は右足より6から8インチ前に置く。両手でグリップし、左手は右手に被せる。右腕はまっすぐに伸ばし(またはわずかに曲げる)、左腕はひじを曲げ、身体の中心部分に引き付けるようにする。伸ばした右腕と曲げた左腕とでしっかり保持する形だ。このテンションでリカバリーをすばやく行う。これにより複数の標的に対しても良好なコントロールが出来る。
IPSC style
標的に対し正面で対峙する。足は肩幅に開き、左手はグリップした右手にかぶせ、両腕は伸ばし、肘はロックする。両肩を繋ぐ一辺と両腕とで、二等辺三角形に近い形を作る。この構え方をIsosceles(アイソセリーズ:2等辺)という場合もあるのはそのためだ。但し、IPSCスタイルはかなり個人差がある。Weaverの場合は、左ひじを曲げ、それにより身体の中心に引き付けようとする形であることが、明確な定義になっているがIPSCスタイルの場合は明確な定義はない。

どちらの射撃法もグリップするポイントを極力ライン・オブ・ボア(line of bore)に近くしてリコイルによる跳ね上がりを小さくするようにする。ライン・オブ・ボアとは銃身を1本の直線とみて、それをそのまま真っ直ぐに延長した線だ。グリップする手の位置がこの線に近いほど、エイミング・リカバリーが早くなる。
グリップした手の手首は、上から見た場合、このライン・オブ・ボアに重なっていないといけない。
使用するハンドガンがM1911タイプであるなら、親指はセフティの上に置くことが良いとされる。もっともこれは諸説あり、親指をサムセフティの上に置いた場合、高速で前後するスライドと指が接触してしまう可能性がある。そうなると、スライドの前後動に抵抗となってジャムを起こす可能性があるし、スライドのセレーションに擦られて指が痛い。
ひところ、それを避けるためにサムガードが流行った。フレーム側につけるガードが殆どだったが、セフティレバーにガードを付けたものもあった。
スピードを重視するなら、親指はサムセフティの上だが、時間的に余裕があるなら話は別だ。H&K USPのようにセフティ・レバーがデコッキング・レバーを兼ねている場合は、親指はさっさとセフティ・レバーから退避させるべきだろう。
Weaver、IPSC のいずれの方法でも、身体はおおむね直立、膝はおおむねまっすぐ、頭はあごを引いた状態でサイトを見る。

WeaverからIPSCスタイルに移行したことが感じられる。左腕の伸ばし方にweaverの名残りが見えるからだ。
どちらの方が良いということはない。両方で撃ってみて、より撃ちやすいと感じたほうで撃てば良いだろう。しかし現在はIPSCスタイルの方が一般的だ。激しく動き、バリケート越しに撃ち、複数の標的を素早く撃つ、といった様々な状況に合わせた射撃法を求められるIPSCの場合、Weaverは追従しずらいという問題がある。結果的にWeaverスタンスで射撃をしていたシューターは、そのフォームを変形させ、IPSCスタイルに変わっていった。スタートがWeaverスタイルだったシューターの場合、Weaver崩れのIPSCスタイルとなる場合が多い。今回のモデルになったシューターもそんなひとりだ。
またIPSCスタイルは標的に対して正対する為、左右どちらに振られても対応がしやすい。Weaverは斜めに対峙している為、予想外の動きに追従しにくい。
しかし、より大事なことは、正確な射撃をしたければ、サイトを使用して撃つということだ。数m先の標的のどこかに弾が当たればよい、というならサイトは不要かもしれない。しかし標的のど真ん中(あるいは、当てたい場所があるなら“そこ”)を狙うなら、サイトを使って撃つべきだ。
Flash sight pictureとはJeff Cooperが大昔から主張していた照準方法だ。Jeff Cooperは概念は伝えたが、詳細な手法までは伝えていない。これは言葉では言い表せない直感的な手法なのかもしれない。
銃を目線の高さまで持ち上げる際に、既に標的と目の間にはサイトの収まる状態がしっかりとできており、あとはその視界にサイトを組み込むだけだ。そして合った瞬間、トリガーが引かれる。流れるような一挙動が求められる。これは訓練によってのみ完成する技術だ。
最初はゆっくりドロゥして、ゆっくり目線に銃を持ち上げ、サイトを合わせて、静かにトリガーを引く。これの繰り返しだ。そしてだんだんスピードを上げていく。やがてサイトは一瞬に合わせることができるようになる。
身体がこれを覚える。これがマッスル・メモリー(muscle memory)だ。身体が完全にこれを飲み込み、一挙動でおこなえるようになった時が、フラッシュ・サイト・ピクチャーの完成だ。
暗闇でサイトが見えなくても、銃を目線まで上げて撃つようになる。マッスル・メモリーが働いてサイトが見えなくて正確な射撃ができる。スラッシュ・サイト・ピクチャーが完成していれば、サイトを使う、使わないはスピードに殆ど影響を与えない。

片手照準射撃(one-hand sighted fire), 片手非照準射撃(one-hand below eye level fire) 腰撃ち(Speed Rock), 利き手ではない方の手での射撃(Weak hand technique), これらはいずれもピストル射撃には必要なテクニックだ。しかしまず極めるべきはTwo-hand sighted fireとflash sight pictureだ。これを身に付けていれば80%以上の状況に対処できる。
Feb.14, 2005
Satoshi Maoka
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